第148話
突然、戦場の真ん中で爆炎が噴き上がった。ショウは直ぐさま空中を駆け、現地に向かう。
ユラユラと陽炎のような熱気が立ち昇るその周りには、数人の兵士が呻き声をあげながら倒れていた。結界は消滅してしまっているが、なんとか全員息はあるようだ。
その中心に佇む巨大な影に、ショウは注意深く視線を向けた。
そこには、3メートルはありそうな真っ赤な体躯の魔物が、巨大な黒い金棒を携えて立っていた。メラメラと燃え上がるような頭髪の隙間から黒いツノが2本、天に向かって生えている。鋭く吊り上がった白い目に、大きく裂けた口の下アゴからは2本の牙が上に向かって突き出ていた。
「気をつけてください、ショウ。その魔物は『レッドオーガ』です」
後ろから追いついたアリスが、ショウの傍らで素早く臨戦体勢に入る。
「レッドオーガ?」
「豪炎鬼と呼ばれる、大型魔核級の魔物です」
「なるほど」
ショウは頷くと、アリスの方に顔を向けた。
「とりあえずアリスは人を呼んで、負傷者の回収を急いでくれ」
「…分かりました」
アリスは不貞腐れたように渋々頷いた。ショウはいつもアリスを遠ざけ、ひとりで戦おうとする。自分を大切に思ってくれてのことだとアリスにも分かってはいるのだが、どうしても寂しい気持ちになる。
「だから…それが終わったら、直ぐに戻ってきてくれよ」
続くショウの言葉を聞いて、アリスは驚いた表情になった。するとショウは、まるで照れ隠しをするかのようにアリスの頭を乱暴に撫でた。
アリスは揉みくちゃにされながらでも、不覚にも口許が緩んでしまった。
「はい、必ず!」
アリスはショウの瞳を真っ直ぐ見つめると、顔を真っ赤にして力強く頷いた。
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「ハルカ…」
「うん、私にも分かる。どうやら来たみたいだね」
ハルカとサトコのいる隊舎のちょうど真上、防壁の上に敵意剥き出しの反応が現れた。タイミング的にバラスに違いない。
「アインザームにハイラインさん、どうもサンキュね。どうやら釣れたみたい」
ハルカは二人に感謝を伝えると、サトコと一緒に隊舎から飛び出した。
「なんとか間に合ったよー」
そのとき、光る鱗粉を振り撒きながらシルフが空から下りてきた。「髭のオジサンはもう大丈夫」と笑いながら、もはや定位置になりつつあるサトコの右肩にちょこんと座った。
「おい、なんだ…そのちっこいの?」
ハルカとサトコを追いかけきたアインザームが、シルフを指差しながら驚いた声をあげた。
「精霊…のようだな」
ハイラインが感情の読めない声で呟いた。
「精霊だと?」
アインザームが後方のハイラインを振り返り、間の抜けた顔をした。それからハルカとサトコとシルフの顔をマジマジと順に見つめると「ククッ」と顔を伏せて笑った。
「愛しの
その瞬間、隊舎前の地面に2個の光る魔法陣が浮かび上がると、それぞれから巨大な影が迫り上がってきた。その影が弾けると、中から2メートルを超える醜い豚面の茶色の巨体が現れた。胴体に鉄の甲胄を纏い、右手には1メートル程もありそうな巨大な曲刀を握っている。
「な、なに?コイツら」
ハルカが戸惑った声を出し、サトコは不安そうにハルカのそばに寄り添った。
「俺の天国に、無粋な侵入者が来たようだ」
アインザームが二人を庇うように前に立った。
「中型のオークジェネラルだ。
ハイラインがアインザームの横に並び立つ。
「冗談だろ?ハニーたちの前で、そんなみっともない真似が出来るか!」
「だろうな」
アインザームの返答にハイラインは「フッ」と小さく笑った。
いつの間にか、ハイラインは隊舎の入り口横に立て掛けてあった大戦鎚を肩に抱えていた。アインザームも腰の片手剣をスラリと抜く。
「ならばサッサと終わらせよう」
「当然だ」
アインザームは前を向いたまま高らかに宣言した。
「見てるがいい、ハニーたち!すぐに夢中にさせてやる!」
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