第149話
負傷者を回収するためにも、まずはコイツの注意を引き付けないといけない。
ショウは空中を駆け上がると、レッドオーガの脳天から斬りかかった。しかしレッドオーガは金棒を振り上げ、ショウの身体を打ち払う。
透かさずショウは空気の壁を蹴るように後方に身を翻すと、今度は着地と同時に低い姿勢でレッドオーガの右足に斬りかかった。そのときレッドオーガは地面を蹴って跳躍すると、ショウの攻撃を寸前で躱した。
「うおっ!?」
自分の倍ほどもある図体から予想していた動きよりも、遥かに身軽なレッドオーガの身のこなしにショウは思わず目を剥いた。そのままレッドオーガの足下を潜り抜ける形になってしまった。
その直後、空中で体勢を整えたレッドオーガは金棒を両手で握り直し、ショウの背中を目掛けて打ち下ろした。
「くっ!」
ショウは右足で咄嗟に地面を蹴りつけると、強引に左に向けて方向転換する。
レッドオーガの金棒は凄まじい威力で地面を打ち付け、辺りを「ドゴン」と陥没させる。その衝撃は、周囲に衝撃波を発生させた。
続いて発生した砂煙は、ショウの視界を一瞬奪う。その直後、レッドオーガの右のローキックがショウの身体を弾き飛ばした。
咄嗟に受け切れないと判断したショウは、自ら後方に跳躍していた。派手に吹き飛んだように見えたのはそのためだ。
「これはコレで厄介だな」
着地と同時に、ショウは独りごちた。
先日のベルとの戦闘は一撃一撃が必殺であったが、攻撃の重さという点では受け切れないものでは無かった。しかしレッドオーガの攻撃は、一撃で即死というモノではないだろうが、部位破壊という点では特化している。盾でまともに受ければ、腕ごと持っていかれそうだ。
しかしコレで、レッドオーガを引き離すという当初の目的は達成した。あとはアリスが上手くやってくれるだろう。
~~~
アリスは負傷者を収容した兵団を無事安全圏まで送り届けると、ショウの姿を探した。
するとスンダー川の川岸に、豪炎鬼の赤い巨体の姿が確認できた。必然的にショウもそこにいることになる。アリスは真っ直ぐ駆け出した。
アリスの進路を邪魔するように魔物が次々と襲いくるが、払い退けるように斬り伏せていった。
そうして川岸までたどり着いたとき、ショウがレッドオーガの金棒を巧みに躱し、喉もとに向けて駆け上がった。
そのときレッドオーガの頭髪が、燃え上がるように真っ赤に光り輝いた。それに気付いたアリスが咄嗟に叫ぶ。
「ショウ、離れて!」
ショウの剣先は今にもレッドオーガの喉もとを刺し貫こうとしていたが、アリスの悲痛な叫びに何かを感じとったショウは反射的に後方に跳ねた。
その瞬間、レッドオーガの足下から豪炎が渦巻き炎の竜巻と化した。なんとか炎の直撃は避けたが、その熱量はチリチリとショウの肌を灼いた。
「ショウ、大丈夫ですか?」
「アリスのお陰で、なんとか助かった」
駆け寄ってきたアリスに、ショウは笑顔で応えた。
「しかし、厄介な能力だな」
「レッド系の魔物は、本来剣士とはあまり相性が良くありません。援軍を呼びますか?」
「いや、コイツをあまり野放しにしたくない」
ショウは一瞬思案顔になったが、すぐにアリスを真っ直ぐに見つめた。
「ハルカちゃんの結界が残ってる内に決める。アリス、俺を信じてついてきてくれ」
~~~
ショウは川岸を「パシャパシャ」と水を跳ねながら駆け抜けていく。可能な限り身を屈めて、レッドオーガの右足に狙いを定める。
レッドオーガは両手で金棒を構えると、薪を割るように、上段から真下に打ち付けた。ショウは更に加速し、金棒の下を掻い潜った。
金棒が打ち付けた地面は大きく陥没し、川の水がレッドオーガの足下に流れ込む。
ショウが再び駆け上がりレッドオーガの喉もとに迫った瞬間、レッドオーガの頭髪が炎のように燃え上がった。
同時にショウは、空中で身を屈めると盾を真下に構えた。
「アリス、跳べーー!」
ショウが叫ぶと同時にレッドオーガの膝まで溜まった水面から爆発的な水柱が噴き上がった。
その一瞬の刹那、アリスはショウの背中を踏み越えレッドオーガの左眼に剣を突き立てていた。
水柱の水流は、ショウはおろかアリスの身体も吹き飛ばす。その威力は二人の結界をかき消した。
「グオォォオオオ!」
レッドオーガは顔面を両手で押さえながら、絶叫をあげる。アリスの剣は、未だ左眼に深々と突き刺さったままだった。
「ここだっ!」
立ち上がったショウは空中を一気に駆け上がり、とうとう喉元に剣を突き立てた。
「ーーーー!」
声帯を潰されたのか、レッドオーガは声にならない叫びをあげる。しかし、残った右眼でショウを睨みつけると、蚊を潰すように両手を叩き合わせた。
ショウは剣を手放し更に前乗りに寸前で躱すと、アリスの剣を引き抜き両手で逆手に持ち、レッドオーガの眉間に渾身の力で突き刺した。
レッドオーガは一度「ビクン」と痙攣すると、黒い煙を噴き出しながら崩れるように消滅した。
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