第150話

「私たちも手伝うよ」


 ハルカがアインザームとハイラインに提案する。するとアインザームが、右の人差し指を立て小さく左右に振った。


「必要ない。ハニーたちはそこで、俺の勇姿をゆっくりと見てるといい」


「フッ」と笑った口から覗く白い歯がキラリとまばゆく光る。ハルカは「うげっ」と疲れた表情になった。手伝うと言っても「結界を張る」程度のつもりだったのだが、もう放っとこう。


「いくぞ」

「ああ」


 アインザームとハイラインが無造作にオークジェネラルに向けて歩いていく。


「あ、ちょっと…」


 いくら何でも油断しすぎ…とハルカが心配したそのとき、2体のオークジェネラルがそれぞれアインザームとハイラインに向かって襲いかかってきた。


 1体のオークジェネラルは、アインザームの胴体に向けて、右手の曲刀を水平に振り抜いた。


「隆起壁!」


 アインザームが左手を下から上に振り上げると、一瞬で土の柱が盛り上がり、「ガキン」と曲刀を受け止める。


「爆炎弾!」


 そのまま流れるように、振り上げた左手で炎の球体を生み出すと、オークジェネラルの顔面目掛けて撃ち放った。


「ブモォオオ!」


 直撃した炎の球体は「ドゴン」と大爆発を起こし、オークジェネラルが絶叫した。


「右腕特化!」


 強化詠唱と同時にアインザームの右腕から赤い光が微かに揺らめき、手に持つ片手剣でオークジェネラルの首を「スパン」とはねた。


   ~~~


 ハイラインに向かったもう1体のオークジェネラルは、右手の曲刀で野球のオーバースローのように上段から斬りかかった。


「左腕集中!」


 ハイラインが防護魔法を唱えると、白く淡い光りが左腕から立ち昇る。そして両手で持つ大戦鎚を上段に構える流れの中で、そのままオークジェネラルの曲刀を左腕で受け止めた。


「ブモ?」


 オークジェネラルは、自身の一撃でハイラインの腕が斬り落とせなかったことに一瞬困惑した。その直後、巨大なハンマーに押し潰された。


   ~~~


「ホントに強かったね」

「そうみたいね」


 サトコの素直な感想に、ハルカは面白くなさそうに応えた。別に負けて欲しかった訳ではないが、苦戦したところを笑ってやりたかった。


 その瞬間、サトコの背後で突然殺気が生まれた。


「!?」


 既に必殺の間合いである。ハルカもサトコも振り向く事さえ出来なかった。


 そのときシルフが「ふあっ」と欠伸をした。


「うがっ!」


 直後、サトコの背後に小規模な竜巻が発生すると、男の呻き声が聞こえた。それから「ドサッ」と何かが落ちた音がする。


 ハルカは即座に振り向くと、何もない所に捕縛結界を創り出す。すると「ガンガン」と結界を叩く音が響き、暫くすると「ちっ!」と舌打ちが聞こえた。


 少し後、結界内に胡座をかいて、ツマラなそうに不貞腐れた緑肌の小男の姿が現れた。


   ~~~


「赦さんぞ…よくもレイナード様を…」


 ハルカの結界内に囚われているバラスを確認したハイラインが、憤怒の表情で睨みつけた。炎のような殺気を体に纏い始める。


「テメーらの警備がザル過ぎんだっ!」


 バラスは頭の後ろで両指を組みながら、半ばヤケクソ気味に吐き出した。これで2度目の虜囚である。助からないと自覚しているのかもしれない。


「あ、それは大丈夫!」


 そのとき、ハルカがおよそこの場に不似合いな軽い声を出した。


「サトコのシルフが治療してくれたから」


「は?」

「な!?」


 ハイラインとバラスが同時に驚いた声を上げた。


「それは本当か?」


 ハイラインがズイッとサトコに詰め寄った。


「あ、はい。シルフの魔法にそういうのがありますので…」


「ヒャーッハッハハハ!!」


 サトコの返事を受けて、バラスが突然壊れたように大笑いし始めた。サトコは驚いて「ビクッ」と身体を竦める。


「またしてもお前かよ、眼鏡のおんなぁあ!」


 バラスは憎しみに満ちた声を絞り出した。

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