第2話

 目が覚めたら、そこは知らない部屋だった。窓一つない石造りの部屋である。


 ボクは周りを見回した。


 ボクの他にあと3人、「春日翔」「新島春香」「真中聡子」の姿が確認出来た。


「翔、春香」


 ボクは春日翔と春香の身体を揺すって声をかける。


「んあ?」

「あ…恵太」


 ふたりは頭を手で押さえながら起き上がる。


「真中さん」


 ボクは真中聡子にも声をかけるが、なかなか起きない。仕方なく少し近付き顔を覗き込む。


 普段の印象と違い、可愛い寝顔をしている。


 ボクは少し照れた。


「恵太、私が代わるね」


 春香がボクの横に座ると、真中聡子の頬をペシペシと軽く叩いた。


「真中さん、起きて」


「え、あれ?」


 真中聡子は起き上がると、一変した状況に混乱しているようであった。


「恵太、これは一体どういう状況なんだ?」


 春日翔が皆を代表して当然の質問をした。


「ボクにも分からない。でも…」


 ボクは自分の中にある「心当たり」を口にすることが出来なかった。ガチャリと扉の開く音がしたからだ。


 部屋唯一の扉からひとりの若い女性が入ってきた。銀色のボブヘアーに茶色の軍服のような制服を着ている。そのまま、部屋の前にある教卓のような石台の向こう側に立つ。


「皆さま、おはようございます」


 女性がニッコリ笑った。


「まず初めに、必ず理解していただきたいことがございます」


 言葉は理解出来るが、なんだろう?口の動きが日本語とは違うように感じる。


「あなた方はこの世界に『勇者』として転生されました。元の世界に還ることは出来ませんので、ご理解ください」


   ~~~


 衝撃の事実に、誰も言葉を発することが出来ない。


 いや、そもそも理解が追いつかない。


 アニメやラノベでなら、よくある設定である。ボク自身は「心当たり」のお陰で、なんとか平静さを保っていた。


 しかし、他の皆んなは…


 特に真中聡子の顔色が怖いくらいに真っ白だ。血の気が失せるというのを初めて見たのかもしれない。


「お手持ちの『スマーホ』をご覧ください」


 そんな事は御構い無しに女性は話を続ける。


 その時初めて、ボクたちはネックストラップで首から提げられているスマホの存在に気が付いた。


「ま、待ってください」


 春日翔が声を発した。どうやらやっと混乱から立ち直ったのだろう。


「そもそも、ここは一体何処なんですか?」


「ここは『ファーラス』あなた方のいた世界とは別の世界です」


 女性はいとも簡単に答える。


「か、還れないって、どうして?」


 真中聡子が震える声を必死に絞り出した。


「大変心苦しいのですが、私どもの召喚術は生きた人間を召喚出来ません。死亡した魂をすくい上げ、転生降臨させるのです。つまりあなた方は一度死んだということになります」


「死ん…だ」


 真中聡子が放心しながら呟いた。それからポロポロと涙を零す。


 ボクがギョッとしてオロオロしていると、春香が彼女の肩を抱きよせた。声をかけるでもなく、無言でずっとそうしている。


 驚いた。春香はかなり平静なようだ。


「俺たちをどうする気ですか?」


「私どもは緊急に即戦力が必要なのです。我が国の役に立ちそうなら優遇させていただきます」


 嫌な言い方だな。違ったらどうなるのだろうか。


「もう一度言います。お手持ちの『スマーホ』をご覧ください」


 女性が事務的な声で再び言った。

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