第98話
2時間後、ボクたちは再び朝礼台の前に集合した。
台の上からラジアン教官が挨拶をしている。要約すると、演習を最後まで続けることが出来なくて残念だったこと。魔物の襲来にも見事に対応が出来ていて素晴らしかったこと。
そして残念な報告として、クマン家の衛兵一人が作戦行動中行方不明…恐らく戦死が告げられた。クマン家からは、その一人しか参加者がいなかったので、詳しい事情は分からなかったらしい。
それと、アリス姫とその従者の手助けがあったことが報告され、既に王都に戻ったと説明があった。そのふたりを間近で見た者たちは、美男美女でとても絵になっていたと囁き合っている。
ボクは今更ながら、ホッと胸を撫で下ろした。ちょっと私事で一杯いっぱいだったため、この場に春日翔が残っている可能性を全く考えてなかったのだ。
最後に、予定に反して演習の終了が夕方遅くまでかかってしまったため、希望者にはもう一晩寮の部屋の使用が許可された。
これで演習は終了、解散となった。
「よお、ケータ!」
参加者たちが各自散らばっていくなか、不意に背後から呼びかけられた。振り返ると、黒髪ショートヘアの健康的な日焼け美女、ローゼリッタの姿があった。
「何しに来たのよ!」
ハルカが光の如きスピードで、ボクとローゼリッタの間に割って入る。
「心配するな。約束だから、アタシからは手は出さねーよ。ただし…」
ローゼリッタがボクに妖しく頬笑みかける。
「興味があったらいつでも来なよ。アタシは東門にいるからさ」
言いながら、ローゼリッタは投げキッスを飛ばす。しかしハルカは飛んできた矢を掴む猛将よろしく、ハートを握り潰した。
「行く訳ないでしょ!」
ハルカが断言した。高校生男子として興味がアリアリなのは隠しておかなければならないようだ。
「待ってるぜ!」
ローゼリッタは愉しそうに高らかに笑いながら、ゆっくりと去っていった。
「だから、行かないって!」
ハルカは彼女のその背中に、もう一度叫んでいた。
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「おい、サイテー男」
「なんだよ、サイテー男」
ボクの背後から呼びかける男の声がした。確認するまでもない、コイツはアインザームだ。
ボクが振り返ると、ソッポを向きながら頭を掻いているアインザームの姿があった。そのまま目線を合わせずアインザームは口を開く。
「成れたのかよ、サイテー男に」
「成っちまったよ、サイテー男に」
「…そうか」
アインザームはフッと笑った。それからハルカとサトコの方に目線を向ける。ふたりは警戒するようにボクの背後に隠れていた。
「ハニーたちを泣かせるようなことがあれば、直ぐさま俺が貰い受けるからな!」
「言ってろ、絶対渡さねーよ!」
「こんな憎まれ口を叩いているが、コイツはお前のことを認めているんだ。仲良くしてやってくれ」
突然背後から声をかけられ、ボクは「どわぁあ!」と飛び跳ねた。ハルカとサトコも「きゃっ!」と声を上げる。振り向くと、ハイラインが立っていた。何なんだよ、皆んなして!ボクはゴルゴじゃないんだ、コッソリ後ろに立たれても気付かねーよ!
「余計なことを言うな、ハイライン」
アインザームが「ちっ!」と舌打ちする。ハイラインは相変わらず無表情だったが、どこか笑っているようにも見えた。
「興醒めだ!行くぞ、ハイライン」
アインザームは踵を返すと、サッサと去っていった。ハイラインは「ああ」と応えると、アインザームの後をついていった。
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