第七章 演習2日目夕刻
第97話
ボクたち演習の参加者は、教官から2時間後の再集合の指示を受け、一旦解散となった。援軍として駆けつけた警備隊による、現状把握や事後処理に時間がかかるためだ。
ボクたちは遅い昼食を食べることにしたが、街の食堂まで行くのも億劫なので、コンビニで買ってボクの部屋で食べることにした。
「へー、男子部屋って、こんななんだ」
ハルカが何の気なしに呟いた。
「うん、そうだね。なんか色々寂しい感じ」
サトコもハルカの意見に賛同する。
「女子部屋の方が、もっと環境が良かったです」
ルーの意見まで聞いて、ボクはそれらの全てを聞かなかったことにした。何処の世界でも、男子の扱いてのはこんなモノのようだ。
その後、お弁当を食べ終わって少し落ち着いてきた頃、ボクは正座に座り直して3人の顔を見た。
「皆んなに聞いてほしいことがあるんだ」
「なに?」
皆んなが「何だろ?」て顔をしながら、ボクのことを見てくる。心臓が飛び出そうな程に暴れまわっている。
本当に言うのか…?だけどボクは、コレを隠し続けて皆んなと今までどおりに生活することは…たぶん出来ない。
とはいえ、この3人とバラバラになるのも絶対に嫌だ!だったら、自分を押し殺して今の生活を守るべきなのだろうか…
自問自答に答えは出ない。
「ケータ、聞かせて」
ハルカの意志の強い真っ直ぐな視線がボクを見つめる。
そうだ…ハルカはボクより先に一歩踏み出したんだ。ボクも彼女の気持ちに応えてなくては!
「そうだよな、分かった」
ボクたちの会話から何かを感じ取ったのだろう。サトコとルーも居住まいを正す。
「ボクはたぶん、これから最低なことを言います」
ボクは意を決して、皆んなの顔を真っ直ぐに見た。
「ボクは、3人皆んなのことが好きです!」
ヤケクソに近い声で一気に吐き出すと、顔を伏せて地獄の沙汰を待った。
どのくらいの時間が経ったのだろうか?長かったのか短かったのか…
サトコの短い咳払いが「コホン」と聞こえた。
「あの、ちなみにそれは、友情?愛情?」
「愛情…だと思います」
ボクは伏せた顔が上げられない。
「そこに私も含まれてるの?ホントに?」
ハルカの驚いた声が被さってくる。ハルカの意図は分からないが、顔を見る勇気もない。
「含まれます…」
「それでケータお兄ちゃんは、この先どうするんですか?あの家を出るんですか?」
ルーの発言に正直驚いた。結果に関係なく出て行くと思われたのだろうか。だけど、ボクの答えは決まってる。
「もし叶うなら、これからも皆んなと暮らしたい」
「だったら何も問題ありませんよ」
ルーのあっけらかんとした声がボクの元に届いた。
「え?」
ボクは思わず顔を上げた。皆んな笑顔で誰も怒ってなかった。
「今までの努力が、順調に結果を出してるって分かったんだから!」
ハルカが涙の粒を撒き散らしながら、ボクに頬笑みかけた。
「そうね、そしてこれからも覚悟してよね、ケータくん」
サトコは眼鏡の位置をスッと直すと、パッと明るい笑顔をボクに見せた。
「手応えがあるんだから、これからもっともっと頑張るだけです!」
ルーは胸の前で小さく両手でガッツポーズをすると「フンス!」と気合いをいれた。
それから皆んな、示し合わせたかのように、揃ってボクの顔を見た。
「最後に勝つのは、私よ(です)!」
その笑顔と共に綺麗にハモった3人の声が、ボクの心を鷲掴みにした。
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