第82話

 あの「クミン」て人だけは気になってたから、ルーに頼んで分析してもらってた。


 それによると、彼女は短剣と氷魔法の使い手で上級魔法もいくつか使えるようだ。モチベーションはアインザームだろうけど、それなりに努力家みたい。


 あとの二人はノーマークだったので分からないけど「サフラン」は片手剣を腰に差してるから剣士系、「ディル」は30センチメートルほどの魔法杖ロッドを手に持ってる。あ、アレ、私の記憶が確かならば「ファイヤーボール」の魔法道具だ。


「始めてください」


 教官から開始の合図がかかる。


 私は、自分とサトコとギンに結界を張る。


 サフランは片手剣を構えたまま、斬りかかって来ない。ローゼリッタとの一件で、物理攻撃は無駄だと判断したのかもしれない。ギンに対して警戒しているようだから、どうやらギンの直接攻撃を牽制する役目みたいだ。


「肉体の硬質化が自慢みたいだけど、私には関係ないわよ!」


 クミンがイヤらしく笑う。


「凍結縛!」


 私の方に右手を突き出して魔法を唱える。ルーが言ってたとおり、やはり上級魔法だ。本来なら相手の両足を凍らして動きを封じる魔法なのだが、私には意味がない。


「な、なんで?魔法がロック出来ない!」


 クミンがあり得ない状況に混乱する。


「だったら!」


 言いながらクミンはサトコの方に右手を向けた。こういうところは、流石は衛兵さんてコトか。原因が分からないからと思考を停止させたら、相手が魔物なら待つのは死だ。切り替えの早さは必要不可欠。


 しかしそのとき、「パキーン」と甲高い音が鳴り、氷の結晶が白い霧となって霧散した。


「レ、レジストされた?」


 クミンの顔が真っ青になった。


「わ、私以上の氷魔法が使えるの?」


「ギン」


 サトコの声に呼応するように、頭上に氷の結晶が集まっていく。まるで氷柱つららのような、2メートルを超す巨大な槍が3本創り出される。


「当てちゃダメよ」


 サトコが屈んでギンの頭を撫でると、ギンは黙って頷いた。


「私が眠らせます!」


 ディルがサトコに右手を向けるが、ギンの方が早かった。ガガガッと3人の足元の地面に巨大な氷の槍が突き刺さる。正に目と鼻の先、氷面に自分の顔が映る距離だ。


「ヒッ!」


 彼女たちの短い悲鳴が私たちに届いた。


「もう一度聞くよ。アンタたち、ちゃんと防御魔法使えるよね?」


 私は勝ち誇った声で言った。あー気持ちいー!


 しかしその時、演習場にサイレンがけたたましく鳴り響いた。


   ~~~


「見張り塔より入電!ボーダー連峰より多数の魔物が出現。さらにその魔物を追うように…り、竜が現れました!」


 サイレンに続き、スピーカーから緊急放送が入る。


「コチラでも、竜を確認。魔物を追い抜き、まもなく到着します!」


「ラジアン隊長!」


 女性教官が壮年の主任教官のもとに駆けつけた。あの人の名前、始めて知ったよ。


「演習を中止!このままでは街に被害が出る。なんとしてもココで食い止める」


「は!」


 女性教官が隊長のもとを離れる。他の教官たちも訓練生に指示を出し、迎撃のための陣形を作り始めた。


 現在たまたま演習中だった私たちは空間内に取り残されており、ラジアン隊長がコチラに駆けつけた。


「君たちも皆と合流、陣形に参加…」


 隊長がそこまで言ったとき、私たちは突然大きな影に覆われた。隊長が空を見上げて絶句する。私も釣られて空を見上げた。


 カリューと同じ姿、竜だ!


 黄緑色のゴツゴツした鱗に覆われ、避けた口から覗く牙の隙間から、緑色の煙が吹き出している。以前にケータのやってたゲームにこんなヤツがいてた気がする。


「毒竜…」


 ボソリと呟く隊長も、3人組も、恐怖で身体が硬直してるのが分かる。いやーしかし、人間て慣れるモンだね。あのときのカリューのおかげで、私は比較的に冷静さを保ててるんだから。


「マズい!消魔壁では、ブレスは防げない!」


 隊長が叫んだ瞬間、私は両手を毒竜に向けた。同時に毒竜がブレスを噴き出す。私たちはなす術なくブレスに飲み込まれた。


 ブレスに灼かれた地面は、ブクブクと泡立ち異臭を放ち始める。


「た、隊長ーー!」


 女性教官の叫びが私たちに届いた。


「な、何が…?」


 ラジアン隊長が呆然としている。陰険3人組も3人で抱き合ったまま呆気に取られている。サトコは私の横で「ホッ」と一息つく。


 私の創り出した球状の結界が、全員をしっかり包み込んでいた。


「竜のブレスの直撃に…耐える、だと?まさか、君は…」


 ラジアン隊長が私のことを、畏敬の念で見つめていた。

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