第14話

 火竜の姿は、まさにモン◯ンのリオレ◯スそのものだった。紅いゴツゴツした鱗に覆われた、10メートル以上はありそうな身体。長く裂けた口にある鋭い牙の隙間からは、炎が漏れ出している。巨大な翼をはためかせ、ホバリング状態で空中に留まりながら、こちらを見下ろしていた。


 それから火竜はアゴを軽く反り上げ、振り下ろすと同時に炎のブレスを口から噴き出した。


 一瞬で辺り一面が火の海と化し、人間が紙切れのように消滅していく。骨すら残らない。


「走って!」


 ボクは真中聡子の手を掴むと、強引に引っ張り走りだした。


「新島くん、あの人たち…」


「見るな!」


 振り向こうとする真中聡子の身体を引きよせると、ボクは彼女の瞳を真っ直ぐに見た。物語の主人公なら何かカッコいいことでも言うんだろうけど、ボクには荷が重い。


「逃げ切れるとは思えない。上手くいくかは分からないけど、やってみる!」


「う、うん」


 真中聡子はボクの瞳を見つめながら頷いた。


「ダメだったら…ごめんな」


 ボクは照れ臭くなって視線を逸らしながら、そう言った。


「カッコつかないなー」


 真中聡子はクスッと笑うと「一緖ならいいよ」と頷いた。


   ~~~


 ボクたちは火竜の横手に周り込んだ。もう殆ど生存者はいない。こちらに気付かれる前に決めないと勝ち目はない。


 ボクは野球ボールくらいの石を拾い上げると、スマホで写真に撮った。石をグッと握りしめて、体に力を入れる。なんだかいつもより体に力が漲る気がした。それからボクは火竜目掛けて思い切り石を投げつけた。同時に100倍のアイコンをタップする。すると小石が巨大な岩石へと膨れ上がっていく。大体火竜と同じくらいの大きさになった。


 しかし唯一の生存者となったボクたちの気配に気付き、火竜がこちらに振り向いた。当然、岩石の存在にも気付かれた。ヤバイ、躱される!


 そう思った瞬間、真中聡子がボクのスマホに手を伸ばし、写真をピンチアウトでさらに拡大した。連動して岩石がさらに倍化する。


 火竜は躱すことも出来ずに、まるで山のような岩石に巻き込まれて地面に押し潰された。そこから火竜が這い出てくることはなかった。


「やったのか?」

「倒したの?」


 ボクと真中聡子の声が偶然揃った。


「ス、スゴイよ、真中さん!お陰で助かった」


「ううん、たまたまよ。私も必死で後先考えてなかった」


 ボクたちは顔を見合わせると、互いの生存を喜び合った。


「真中さんのステッカーも試そう!」


 ボクは真中聡子に提案した。


「え?」


「もしあの火竜を味方に出来たら、スゴく心強い」


 ボクは子どものように興奮してた。そんなボクを見ていた真中聡子に「新島くん、カワイー!」と笑われてしまった。


  ~~~


 ボクたちは少し離れたところに身を潜めると、岩石を原寸大に戻した。緊張の一瞬だったが、火竜が動きだす気配は無かった。


 恐る恐る火竜に近寄って確認したが、流石はドラゴンだ。身体に傷付いた様子はなく、目を回しているだけのようだった。


 それからボクはスマホで火竜を写し、10分の1に縮小する。1メートル程の大型犬くらいの大きさになった。


 真中聡子がスマホで「魅了チャームステッカー」を出現させると、火竜の首にペタリと貼り付けた。貼ったステッカーはまるで溶けるように消滅していく。すると真中聡子のスマホからピコンと音が鳴った。


「名前を登録してください、だって」


 真中聡子がボクにスマホの画面を見せてきた。


「好きなの付けてみたら?」


「うーん、じゃあ…」


 真中聡子はスマホに「カリュー」と打ち込んだ。


 あーもー、いちいち可愛いな。絶対、犬とか猫にポチとかタマとか名付けるタイプだ。


 すると火竜がピンクの光に包まれた。それからその光が火竜の身体に染み込むように収まっていく。


 次の瞬間、火竜がガバッと飛び起きた。真中聡子が「ヒッ!」と驚き、ボクにしがみついてきた。


「我が名はカリュー。これからよろしく頼む、サトコ」


 か、火竜が喋ったーー!

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