第13話

 ボクたちふたりは、突然現れた男に部屋から連れ出された。


 なんでも「勇者としての適性を見る」とかで、春香たちと一緒にいるためには、ここで自分の価値を示さなければならないようだ。


 ボクたちは今、馬車に乗せられ、何処かに運ばれていた。馬車の後部はホロで覆われ、両脇にベンチのような座席が並んでいる。そのベンチの片側にボクと真中聡子は並んで座っていた。


「こんな所でイキナリ放り出されたら、元の場所に帰れない気がする」


 凄い速さで遠ざかっていく馬車の後ろの風景を見ながら、ボクはボソッと呟いた。


「新島くんて、初めてのとこだと迷う人?」


 真中聡子がボクの顔を覗き込む。いちいち近い。だけど、アップに耐え得る綺麗な肌。ボクは少しの間見惚れていたみたいだ。


「ご、ごめん。ちょっと近かったね」


 真中聡子が顔を赤らめて体勢を戻した。


「親にもよく言われるの。距離感近いから気を付けなさいって。学校では気を付けてたのに、新島くん相手だと油断しちゃう。なんでかな?」


 真中聡子が顔を真っ赤にしながら、再びボクの顔を覗き込んできた。同時にボクの顔の体温が急上昇し、大量の汗がドッと吹き出した。


「な、なんでだろーな?」


 ボクは咄嗟に顔を背けた。絶対ボク今、凄い変な顔をしてると思う。


「う、うん。なんでだろうね」


 真中聡子も顔を真っ赤にしたまま俯いた。


 ボクたちはしばらく、恥ずかしくて沈黙していた。でもこれで、真中聡子のことが少し分かった。


 普段通りの彼女のままだと、周りとの距離感が近くなりすぎる。だから学校では、そうならないように気を付けていたんだ。だけど気にしすぎて、あんなツンケンした態度になってたんだろーな。


 ボクは「プフッ」と吹き出した。こうなると今までの真中聡子が逆に可愛く見えてくる。


「どうかした?」


 真中聡子が、こちらに顔を向けてきた。


「いや、あー…。確かにボク、初めてのとこだと時々迷うわ」


「ヤッパリ!」


 真中聡子がアハッと笑った。


「大丈夫、任せて!私、方角だけなら大体分かるから」


   ~~~


 ボクたちは進軍中の軍団に追いつくと、男に連れられて指揮官らしき兵士の元に案内された。


 そこで男と指揮官が何やら話し合うと、前衛部隊の一番後ろをついて行くように命じられた。


 前衛はなんだか異様な部隊だった。とにかく人相が悪い。人を見かけで判断してはいけないが、ニュースとかで写真を見たら「絶対やってそう!」と納得してしまうレベルである。


 そして後衛の兵士は、前衛を囲むように三日月状に隊列を組んでいた。兵法に全く詳しくはないが、違和感を感じる布陣である。


「なんだよ、アンチャンたち。若いのに、何しでかしたんだ?」


 部隊の一番後ろを歩いていたヒョロッとした男が、ボクたちに気付いて話しかけてきた。


「え?」


「いや、いい。ここにいるってことは、皆んな大体似たり寄ったりだ」


「は、はあ」


「しかし、何と戦うかは知らねーが、これが終われば無罪放免とか有り難い話だよな!」


 男が「ヒャハハ」とイヤらしく笑った。


 もしかして、この人たち…。ボクは冷や汗がツーっと流れた。真中聡子もボクの背中に隠れるようにしがみつく。


 暫く黙って歩いていると、前方から馬に乗った兵士がボクの横を通り過ぎ、後衛の指揮官の元に駆けていった。


 何だろう、イヤな予感がする。ボクは真中聡子の様子を伺う。彼女も不穏な空気を感じているようだ。蒼い顔で震えている。


 その時不意に、大きな影に覆われた。急に雲でも出てきたのだろうか?ボクは顔を空に向けた。


 ボクの思考がそこで停止した。


 見たことは無いが、良く知っている生き物がそこにいた。


「か、火竜だ!」


 前衛の誰かが叫んだ。


 いつのまにか、後衛の兵士たちの姿が消えていた。


 初めから、ここの全員を人柱にするつもりだったんだと理解した。

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