第118話

「あーらら、完全に解けちゃってるな、ビックリ」


 ベルが頭の後ろで両手を組みながら、他人事のように呟いた。その声を聞いて、私たちの間にピリッとした空気が流れる。そういえばベルのこと、すっかり忘れてた。


「ああ、邪魔しちゃった?いーのいーの、そのまま続けて。私もう帰るから」


「ニシシ」と無邪気な笑顔を見せる。


「お兄ちゃん手に入らなかったのは残念だけど、楽しかったからまーいーや!」


 私たちのやり取りコントを黙って見てた事といい、一体どういうつもり?


「このままアナタを見逃す訳にはいきません。アナタ危険過ぎます」


 アリスが腰の片手剣をスラリと抜く。


「せっかく皆んな無事だったんだから、ここで終わっとこーよ!言っとくけど、私ちょー強いよ?」


「ケータさまのことを知るアナタを、このまま放っておく事は出来ません」


「あーナルホド!絶対誰にも喋らないから安心して…て、納得する訳ないか!」


 ベルが「ケラケラ」と楽しそうに笑った。


「そうですね。例えそれが本当だとしても『はい、そうですか』て訳にはいかないのです」


「死人が出るよ?」


「それでも、です」


 アリスの悲壮な決意を、ベルが「プフー」と笑い飛ばした。


「王女さまって、面倒めんどくさーい!」


「そうですね、面倒臭いです」


 アリスが悲しそうな笑顔を見せた。


「じゃあ、王女さまが死んどこ!」


 ベルが凄惨な笑顔を見せる。次の瞬間、ベルはアリスの手前で長い漆黒の鎌を横手に構えていた。既に必殺の間合いだ!


 アリスは目を見張った。言葉を発する暇もない。


「ガキーーン」という金属音が鳴り響く。


「やるねー、聖騎士のお兄ちゃん」


 ベルが愉しそうに嗤う。春日翔が白銀の盾でベルの鎌を受け止めていた。


「シ…ショウ」


「アリス、退がってろ!」


 春日翔がベルに斬りかかり、次々に攻撃を繰り出した。ベルは鎌の柄を巧みに使って受け止めると、時折り鎌を回転させるように反撃に出る。


 春日翔も盾や回避を駆使して、ベルと互角に渡り合っていた。


 二人は猛スピードで跳躍しながら、戦闘場所が転々と移動する。次元が違い過ぎて援護も出来ない。


 しかしその時、パッと二人の距離が離れ、ベルの動きが一瞬止まった。チャンス!私はその一瞬を見逃さず、ベルを捕縛結界で捕らえることに成功した。


「やった!」


「ウザいっ!」


 私が喜んだのも束の間、ベルが鎌を横に薙ぐと「スパン」と結界を斬り裂いた。


 え…一撃?たったの一撃?私は唖然とした。春日翔のヤツ、あんな攻撃を何度も受け止めてるの?


「どーやら先に、死にたいみたいね?」


 ベルがコッチ見て嗤ったと思ったら、もう目の前にいた。


「ハルカ!」


「え?」と思った瞬間、私は誰かに突き飛ばされた。顔を横に向けると、ケータの姿があった。そして鎌を振りかぶるベルの姿。それから漆黒の鎌が無慈悲にケータに振り下ろされた。


 感覚が研ぎ澄まされ、全てがスローモーションに感じられる。


 そのとき、何かの種が私の中で弾けた!…ような気がした。


 やったことは無い。出来るかどうかも分からない。だけど、やらなくちゃいけない!


「こんのぉおお!」


 私は右手をケータに向けた。「パリンパリン」と連続で乾いた音が響く。やがてベルの鎌の動きが止まった。


「へー、見直しちゃった!あの一瞬で、一体何枚の結界を張ったの?」


 ベルが興味深そうに微笑んだ。


「…12枚」


「手応え的に割ったのは7枚かー。結構やるね」


 ベルが私を見ながら、満足そうに嗤った。

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