第117話
「
ケータがタタラを踏んで2、3歩よろける。赤く腫れた頬を押さえながら、放心状態になった。
私は固唾を飲んだ。お願い、目を覚まして…
しかしそのとき、地面にめり込んでいたトライメテオがフワリと浮き上がった。
その瞬間、矢のように突っ込んできたカリューが私のローブの襟元を咥えると、強引に振り回した。
「うわわっっ」
私は遠心力で数歩走ると、足がもつれて「ずべしゃ」と盛大にヘッドスライディングする。そのとき「ドゴン」という轟音とともに、さっきまで私がいた場所にトライメテオがめり込んでいた。
「ウソ…」
私はうつ伏せのまま顔をあげる。顔の体温が一瞬で冷えていくのが分かった。冷や汗が頬を伝って地面に落ちる。
「だから、ムダだって!」
ベルが手のひらで口元を押さえながら「キャハハ」と笑った。
「なんで、なんでよぉ…ケーたぁあ」
私は涙が溢れた。次から次へと頬を伝い、地面を濡らしていく。
「おい、恵太!オマエ、とうとう春香ちゃん泣かせたな!」
春日翔が腹の底から響くような声を出した。
「オマエのエロ本の隠し場所、春香ちゃんにバラしてやる!覚悟しろよ!」
「ちょっ…待てよ、翔!それは協定違反だろ!」
ケータが慌てて駆け寄り、春日翔の胸ぐらを掴む。
「は?」
「え?」
ベルを含む全ての女性陣の目がまん丸になった。
「いいや、赦さねー。絶対バラす!」
「頼むよ、翔。ホント勘弁してくれ!」
「えええーー!」
私は仰天して絶叫した。一瞬で涙が引っ込んだ。
「ケータ、エロ本持ってるのー?」
~~~
私は実家にいた頃、ケータの部屋を
「そりゃ持ってるよ!男子高校生舐めんなよ!」
「え、だけど…」
春日翔の言葉に、私はそこで口ごもる。勝手に入ってたなんて、さすがに言う訳には行かない。
「恵太に相談されたんだよ。春香ちゃんが時々部屋の掃除をしてくれるのは助かるけど、バレたらヤバいから隠し場所考えてくれって」
「うへっ?」
私は顔中に血液が集まるのを自覚した。コイツ、今何て言った?
「お前、もう黙れ!」
ケータが春日翔の胸ぐらを掴んだまま、グラグラと揺さぶる。
「ちょ…ちょっと待って!」
何がなんだか分からない。キツイ目眩に襲われる。
「ケータ、ひょっとして気付いてたの?」
「何を?」
「私が部屋に入ってたこと…」
「あ…うん。ボクがあまりに片付けないから、見かねてやってくれてたんだろ?」
「ギャーーッ!」
私は自分の顔を両手で隠してしゃがみ込んだ。バレてないと思ってたから、ベッドの下とか四つん這いで覗き込んだりもしてたけど…まさか…?
「春香ちゃん綺麗好きだから、隅から隅までやってくれるのは嬉しいけど、気が気じゃないって言ってたよな」
春日翔がニヤニヤした目で私を見てくる。
「いやーーーっ!」
私は絶叫した。いっそ殺してくれーー!
そのとき「ポン」と肩を叩かれた。振り返るとサトコとルーが並んで立っていた。にこやかな笑顔だ、肩に置かれたサトコの手から「ギリギリ」と伝わる力を除いて…
「この件に関しては、あとでジックリと話を聞かせてもらうね」
私は無言で「コクコク」と頷いた。
「あれ?そういえば…」
春日翔がサトコとルーを交互に見ながら、思い出したように口を開いた。
「眼鏡巨乳の委員長モノに、ツインテールのロリッ娘モノ…恵太オマエ夢叶えてんじゃねーか!」
「お…おま…お前ぇー、殺す、今すぐ殺す!」
ケータは顔を真っ赤にしてワナワナと震えた。それから素早く春日翔の背後に回り込むと、チョークスリーパーで締め上げ始めた。
しかしサトコとルーの当の二人は、意味も分からずキョトンとして「ん?」と首を傾げてる。
私は即座に立ち上がるとケータの元に駆けつけた。春日翔からケータを引っ剥がすと、胸ぐらを掴んで締め上げる。
「ハ、ハルカ、苦しい…」
「ねぇ、私のは?」
「え?」
私の刺すような眼光を受けて、ケータが戸惑う。
「私のは、持ってないの?」
「な、何の話だよ?」
「私のも持ってるって言いなさいよぉーーお!」
魂の叫びが、大きく木霊した。
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