第116話

「あーだけど、私は戦うの得意じゃないから代理をたてるね」


 ベルはケータと向かい合うように半回転すると、ケータの耳元に自分の顔を寄せた。


「怖ろしい魔物が、お兄ちゃんの友達を皆殺しにして、姿を偽って襲ってきたよ。皆んなの仇を討たなくちゃ!」


「ちょ、ちょっと、何言ってるのよ?」


 いくら何でもそんなバカな話、信じる訳ないよね?


「赦さない、よくも皆んなを…」


 ケータが激しい憎悪の瞳で私たちを睨みつける。何でよ、何でそんな瞳で私を見るの?ホントに私が分からないの?


「ケータくん、お願い、目を覚まして!」

「ケータお兄ちゃん!」


「黙れっ!魔物のクセに皆んなの声で喋るな!」


 ケータの憎悪の瞳がサトコとルーを射抜く。ふたりは半泣きで言葉を失った。


「ムダだって。私が解除しない限り、絶対解けないから」


「だったら、オマエを倒せばいいんだろ?」


 春日翔が白銀の剣をスラリと抜くと、一瞬で間合いを詰める。弾丸のような凄まじい突きは、しかしベルに簡単に躱された。


「キャー怖い。お兄ちゃん助けて!」


 ベルが甘えたようにケータの陰に隠れる。


「安心して!せめてベルだけは、絶対護ってみせるから!」


 ケータがスマホを操作すると、30センチメートルほどのトライメテオが出現した。それからその内の2個がケータとベルの周りを高速で回転し始める。


「おいおい、こんな能力あるなら先に教えとけよ」


 春日翔がギロリとこっちを睨んだ。


「カメラの向きさえ気を付けとけばいいと思ってただろうが!」


「ショウ、上!」


 アリスの声が突然響いた。その瞬間、ケータの頭上に浮いていたもう一つのトライメテオが、春日翔に強襲した。ギリギリで躱した春日翔は、地面にめり込むミスリル塊を見て蒼ざめた。


「当たったらシャレにならんな」


 春日翔は一旦ケータから距離をとった。アリスが春日翔の元に駆け寄っていく。


「ケータ!ホントに私が分からないの?こんな事もうやめて!」


「黙れ黙れ!妹の…ハルカの声で喋るな!」


 どーして私が分からないの?一体何年一緒に生きてきたと思ってるの?何で私のことを魔物と思いこめるの?


 そのとき私の頭の中で何かが「ブチン」と切れた。


「魔物と、この私を一緒にするんじゃねーよ!アホケータ!」


 私は天を仰いで吠えた。何かカリューみたいな言い回しになったのは気にしない。


「サトコ、ルー、私を手伝え!ケータのヤツを一発ブン殴る!」


   ~~~


「ギン!」

「おうよ、サトコ!」


 サトコの掛け声にギンが応えると、高速回転する2個のトライメテオの軌道上に無数の氷の柱が立ち並ぶ。


 トライメテオは氷の柱を難なく粉砕するが、壊された端から再建させる。


「ギン、頑張って!」


「へ!他ならぬサトコの頼みだ!血反吐を吐いたってやってやらー!」


「私もいますよ!嵐竜壁!」


 ルーが声を張り上げた瞬間、竜巻の壁がケータたちを包みこむ。トライメテオの回転と逆回転の風が渦を巻く。


 トライメテオの回転速度が急激に減少し、その姿を視認出来るようになる。何も打ち合わせとかしてないのに、ほんと最高の恋敵ライバルだよ、アンタたち!


「捕えろ!」


 私は捕縛結界でトライメテオを捕まえた。「ガツン」と大きな音をたてて回転が停止する。最初の一撃で結界が破れないか心配だったけど、止まってしまえばコッチのモノ。ケータが次の手に出る前に決着をつける!


「な、なんで…魔物が皆んなの技を…?」


 ケータは私が思ったよりも狼狽した。チャンスだ!


「ケータ!!」


 私は声を張り上げると、ケータに向けて一直線に猛ダッシュした。氷の柱も嵐の壁も一瞬で消失し、私の進路がクリアになる。


「この、浮気者ぉおお!」


 私は渾身の力でビンタした。「バチーーン」と凄まじい音が湖に響き渡った。

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