第52話

「私たち西門隊は『落ちこぼれ部隊』と囁かれています」


 ユイナは歩きながらボソリと話し始めた。ボクたちは彼女の方に顔を向ける。


「魔族との戦争時から防衛の要だった『東門』、王都や商業都市にも繋がる流通の要の『南門』、街を警護する『警備隊』。その中で私たち『西門』は、果ては王都まで繋がっていますが他領との流通が基本ですので、どうしても人通りは少なく仕事量も多くはありません」


 あー、そういう格差意識て、どこの世界でもあるもんなんだな。


「私たちのことは、何と言われても別に構わないのです。だけどカミラ隊長だけは…、実力を妬まれて『西門』なんかに押し込められた隊長まで同列に扱われるのが、我慢出来ないのです!」


 ユイナは本当にカミラのことが好きなんだな、としみじみ考える。


「てことはユイナは、カミラさんに活躍してもらうために、早く『西門』から出て行ってほしいと思ってるの?」


「え?」


 サトコの言葉にユイナは言葉を詰まらせた。


「も、もちろんっ!…でも、あれ?」


 ユイナは口元を押さえた。たぶん、活躍してほしい気持ちと離れたくない気持ちが、ぶつかっているんだろう。


「カミラさんの評価を上げる方法は他にもあるよ」


「な、何ですか?」


 ユイナはサトコに詰め寄った。


「ユイナたちが皆んなに認められること。そしてカミラさんもそれを望んでる」


「で、でも…どうやって?」


「近道なんてないよ。与えられた仕事をひとつずつ誇りを持ってこなしていくだけ。そしてアナタたちの隊長は、それを既に実践なさっているのでしょう?」


 サトコは微笑んだ。それを受けて隊長の背中でも思い浮かべたのか、ユイナにも笑顔が戻った。


「そ、そうです。その通りです!」


   ~~~


 ボクたちはユイナの案内で武器屋を覗いていたが、扱い慣れないモノを持っても役には立たないだろうと、諦めて店を出た。


 そこで少し閃いたことがあったので、ユイナたちも懇意にしている鍛冶屋に連れて行ってもらった。


「今ある素材の中で、一番硬い材質?」


「はい」


 ボクは親方の男性に相談をもちかけた。


「そうだな、扱ってるモノの中なら『ミスリル銀』だな」


 ミスリル!見たことはないけど、メジャーどころがきた!ボクのオタク心的にも申し分ない。


「端材で構わないので、3センチ四方程度に固めて鍛えてもらえませんか?形は適当で構いません。3つ4つあると助かります」


「ふむ」


 親方は「変なことを言うガキだな」というような目でボクを見てくる。確かに、前代未聞の依頼だろうな。


「どんな形でもいいのか?」


「あ、ポケットに入れるので、角はない方が助かります」


「分かった、そこで1時間ほど待ってろ。すぐに鍛えてやる」


 言いながら親方は、奥の工房に入って行った。


「そんなモノ、どうするのですか?」


 ユイナが首を傾げながら聞いてきた。そりゃ分かる訳ないよな。


「うーん、まあ、端的に言えばボクの武器だな」


「武器?指弾術みたいな?」


「うーん、そんな感じかなぁ?」


「何それ?」


 ユイナは全然納得してない顔をしている。先の衣装のこともあるし、スキルについてどこまで話していいのかちょっと悩む。


「ちなみにユイナは、どんな武器使うの?」


 ハルカが話題をすり替えて助け船を出してくれた。


「私?私は、片手剣と火球杖よ。衛兵には、このスタイルの人が多いわね」


「火球杖?」


「炎の塊を飛ばす魔法道具よ」


「あ、ファイヤーボールね。さっきの店にも置いてあった!」


「多く量産されている、ポピュラーな魔法道具のうちの一つよ」


 少しテンションの上がったハルカを見て、ユイナが「フフッ」と笑った。


「あのさ、ユイナ」


 そこでボクも再び話に割り込んだ。


「なに?」


「スキルって、知ってる?」

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