第51話

 サトコのアバターが被っている帽子には『ウィッチハート』の表示が付いていて、「非表示」「詳細」のアイコンが並んでいた。


「どうしよ?」


 サトコが困った顔してケータを見た。ちょっとサトコさん、顔近すぎない?てか、ケータもこの距離感に慣れてきてない?なんだか、自然な距離感を醸し出している。ウソでしょ?違和感の正体はコレか!


「まずは、『詳細』かな」


「分かった、そうする」


 サトコが詳細をタップすると、下にウインドウが開いた。


 衣装スキル:使い魔お供キャラのスキルが使用可能になる


「え…、あのコたちのスキルて、何だろ?」


 サトコが再びケータを見上げたので、私はサトコの腕をとり自分の方に引き寄せた。


「それはケータに聞いても仕方ないし、本人たちに聞くしかないよね」


 突然の私の行動に面食らったのか、サトコは驚いた顔を私に向けた。それからケータと自分との距離に気付くと、私に「ははーん」と笑いかけた。


 帽子の件といい、今といい、コイツ本当にワザとじゃなかったの?「恐ろしい子…」と白目になってしまう。どういう訳か、以前のサトコに戻りつつある。


 こんなコトってあるの?ケータを本気で狙っていながら、その行動が天然を取り戻すなんて…。そんな無敵融合…


「ハルカの言う通りスキルは後で確認するとして、『非表示』てのも試してみようぜ」


「そうね」


 サトコはケータの提案に頷くと「非表示」アイコンをタップした。すると『衣装の脱着を切り替えます。ただしスキルの効果は表示中しか受けられません』とインフォメーションが入った。サトコが「OK」を選ぶとアバターの帽子が消え、サトコの帽子も瞬時に消え去った。


 スマホの画面を確認すると、『ウィッチハート』の横のアイコンが「表示」に変わっていた。サトコが「表示」をタップすると瞬時に帽子が現れ、「非表示」「詳細」のアイコンに切り替わる。


「ナルホドな、ハルカの衣装と同じだな。戦闘形態への変身みたいで羨ましい」


 ケータが子どもみたいなキラキラした瞳で、私とサトコのことを見てきた。私とサトコは思わず顔を見合わせると、「可愛いー!」と笑ってしまった。


   ~~~


「アナタたち、一体どうなってるの?」


 お店を出た途端、ユイナが声を張り上げた。


「いきなり服装が変わるとか、訳が分からない」


「えと、あの…、収納魔法、だよ?」


 私はしどろもどろ、アヤフヤな返事をした。現在私とサトコは衣装を着た状態のままだが、この調子じゃ元の姿に戻るのは控えた方がいいかも?


「収納魔法で着替えが出来るなんて、聞いたことがない」


 ユイナがジト目で私を見つめる。


 う…、確かに私、収納魔法のことなんて何にも知らないもんな。適当では誤魔化せないか…


 よく考えたら私たち、この世界の知識が圧倒的に足りない。上手い言い訳が全く出てこない。


「おいおい、西門隊がこんな所で何を騒いでるんだ?」


 そのとき、ユイナと同じような黒い軍服を着た三人組の衛兵が、ニヤニヤしながら現れた。なんだかユイナを見下してるように見える。


「警備隊の皆さん…」


「俺たちはお前らと違って忙しいんだ。余計な問題を起こしてくれるなよ」


 言いながら三人で「ハッハッハッ」と笑う。うわー、いかにもな感じの人たちだなー。しかし神はいるもんだ。この人たちのお陰で、ユイナの意識が完全に逸れた。


「以後、気を付けます」


 ユイナは頭を下げると、踵を返して歩き出した。


「皆さん、行きましょう」

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