第50話
ちょっと待って!
なんだかサトコばっかり、その…何というか…「ヒロイン」的なイベントが多くない?絶対気のせいなんかじゃないよね?一体どうなってるの?
さっき上から目線で「それが私とアンタの差」とか勝ち誇ってたのに、私の方が「差」を見せつけられてるじゃない!
「サトコはそういうのが好きなの?」
頭を抱えてのたうち回っている私を他所に、ふたりの会話が進んでいく。
「な、なんだか気になっちゃって」
言いながらサトコが顔をあげた。
「ど、どうかな?」
頬を赤らめながら真っ直ぐケータを見つめる。
ブリム幅の広い黒いトンガリ帽子は(このファーラスという異世界では)、サトコの縁なし眼鏡と黒い三つ編みにとてもマッチしていた。
こんなの、元々そっち方面に需要のあるケータの心に響かない訳がない!
「え…?あ…、似合ってる、とっても…」
ケータは口元を右手で押さえながら、消え入りそうな声でサトコを褒めた。
「ホント?嬉しい!」
サトコがパッと明るい笑顔をケータに向けると、ケータの脳天から「ボフン」と湯気が吹き上がった。
「私、コレにする!」
サトコは帽子を胸元でギュッと抱きしめた。おうおう、ソリャ嬉しいでしょうよ!
くっそーサトコのヤツ、魔法道具無かったクセに完全に私の負けな気がする。ホント泣きそう…
「さすがお客さま、お目が高い」
呼んでもないのに店員が現れた。え?しかも、お目が高いて言った?
「それは一応値札を付けさせていただいておりますが、魔法道具ではありません」
確かに、壁に小さな値札で「3000リング」と表示されている。サトコも今気付いたのか、驚いた顔をしている。商品と知らずに買うつもりだったのかよ!
「実は魔族の『魔女』が被っていたとされる帽子でして、当時の勇者によって持ち込まれたきり、不思議と誰の目にも留まらず現在に至っております」
アレ…なんか雲行きが怪しくない?
「きっとお客さまと出逢う運命だったのでしょう」
コレ、売れ残りを押し付けようとする、ダメな方の「お目が高い」だ!
だけどサトコの瞳は星のように輝いて、完全にその気になってる。
ケータの表情を確認すると、「まあ、3000リングくらいなら…」と諦めた顔になってる。
あれ程のイベントをこなした後だ、サトコに何を言っても聞かないだろう。結局ケータの判断に倣うしかない。
「毎度ありがとうございます」
店員の爽やかな挨拶が、私たちの耳に届いた。
~~~
代金の支払いが済んだ途端、サトコのスマホが「ピロリン」と鳴った。
「あ!」
画面を確認したサトコが驚いた声をあげる。
「どした?」
ケータがサトコの横に寄り添うように立った。仕方がないから私は、正面からサトコのスマホを覗き込む。正直嫌な予感しかしない。これ以上、差をつけられるのは勘弁願いたい。
スマホの画面には、『衣装を登録しますか?』とインフォメーションが出ていた。一体何だってんだ!アレだけの神イベントこなしといて、さらに能力まで強化するなんて、ちょっと依怙贔屓すぎない?
「それじゃ、押すよ」
サトコの視線を受けてケータが頷いた。ん?なんだろ、この違和感…
サトコが「OK」をタップすると、『マイルームにクローゼットが開放されました』とインフォメーションが切り替わる。
サトコがマイルームを開くと、カリューのスロットの上に『クローゼット』のスロットが追加されていた。さらにクローゼットを開いてみると、サトコを模した二頭身のアバターが表示され、頭には今買ったトンガリ帽子を被っている。
今思うと、現実のサトコもまだ帽子を被ってる。魔法道具のときと、なんだか勝手が違うみたい。
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