第49話

 軍事用魔法道具のコーナーを歩いていたときに、とうとう私のスマホが「ピコン」と鳴った。


「きた!」


 私は小さく歓喜の声をあげた。


「えー、ズルい!」


 サトコが不満そうな顔をしながら私のスマホを覗き込んだ。まあ、ここで結果を出せるトコが、私とアンタの差ってことよ!


「大丈夫、サトコもすぐに見つかるって」


 私は上から目線でサトコに微笑みかけた。サトコは私の意図を正確に読み取り、「むー」と頬を膨らませる。やっぱりコレくらい察しが良くないと、嫌味の言い甲斐もないってもんだ。


「ケータ、来て!」


 私は背伸びをして陳列棚から顔を覗かすと、右手を振ってケータを呼んだ。


「どんな効果なんだ?」


 私の呼びかけにケータとユイナさんが合流すると、ケータが瞳を輝かせて聞いてきた。


「今から店員呼ぶとこ」


 それから私は、呼ばれてやって来た先程の店員に、チェーンの先に小箱の付いた、ペンダントみたいな魔法道具のことを質問した。


「これは、拘束用の魔法道具ですね。コレを相手の首にかけると、箱から発生した光の輪で拘束するコトが出来るのです」


「はあ、首にかける……ですか」


 使い勝手が良いとはとても思えない。


「お察しのとおり、相手の隙をつくか、無力化してからでないと使えないという難点はあります」


 店員は私の表情を読み取り、捕捉説明を始めた。


「しかしチェーン部分は付け替え可能であり、過去には『オーガ』を拘束したこともある優れた逸品なのです!」


 店員は右拳を振り上げながら力説した。しかしどうなんだ?私たちが選ぶのは「なんだかなー」な代物ばかりだ。


 そして、この店員の「店員魂」をくすぐるモノでもあるみたい。


 だけどコレで納得した。値札が、定価5万リングから1万5千リングに下がっている訳を…。決して質が悪い訳じゃないってコトか。


 私はケータの顔を見た。ケータはニッコリ笑って頷いてくれた。


「すいません、コレください」


 私は店員に商品とお金を渡した。


   ~~~


 私は魔法道具をスマホにインストールさせると、聖女のアイコンをタップした。純白のローブに早変わりした私の姿にユイナは少なからず驚いていたけど、ま、いっか。この状態でないと、スキルが確認出来ないんだよね。


 案の定、スマホの画面に『新しいスキルが追加されました』とインフォメーションが入った。続いてスキルを画面で確認する。


 聖女(純白のローブ)

 衣装スキル:魔法及びスキルの対象にならない

 職業スキル:結界術(自身及び任意の相手に身を護る結界を張る)

 追加スキル:捕縛結界術(任意の対象を結界術で拘束する。さらに結界を自在に操り連行可能)


 確かにスキルが追加されてる。さらに追加効果がプラスされてる。でもって、あくまで結界術なんだから、相手を弱らせなくても使えるってコトだ。いやー自分で言うのもなんだけど、聖女強くね?


「はー、これがレアモノ補正か…」


 ケータが深い溜め息をついた。


   ~~~


 結局サトコのスマホは最後まで反応しなかった。


 店の端まで行ったサトコは、壁に掛けてある帽子を見上げて不意に立ち止まる。


 まるで魔女が被ってるような黒くてブリムの広いトンガリ帽子だ。何してるんだろ?て思ってたら、背伸びしながら懸命に手を伸ばし始めた。


 なんだか手が届かないみたい。私はサトコをボーッと眺めていた。しかしこれが油断だった。一瞬の隙をついて事件が起こってしまった。


 サトコの背後から近寄ったケータが「よっ」と背伸びして帽子を取ると、「ほいっ」とサトコに被せたのだ。


 驚いたサトコが振り返り、真後ろにいたケータに気付くと、顔が真っ赤になった。


「これくらい、言えよな」


 ケータが微笑んだ。


「あ、ありがと」


 サトコは両手で帽子を目深に下ろしながら顔を伏せた。そのときトンガリ部分の先端に付いていた「赤いのハート」のキーホルダーがシャランと揺れた。


 私は声を出すことも出来ないまま、この一部始終を見せつけられていた。

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