第74話
「ではこの勝負、ここまで!」
審判の教官が終了の合図を宣言したとき、私とサトコは思わず顔を見合わせた。瞳を潤ませながら、感極まってお互い抱き合う。
「やった、やった!」
どういう理由があったのか分からないけど、結果的にはアインザームたちに何もさせない一方的な勝利だった。
しかし喜んでいられるのも束の間、お胸のあたりに襲いくる衝撃のボリュームに現実に連れ戻される。
私はゆっくりサトコから離れた。
「ハルカさん、サトコさん、ケータさんて本当にスゴい、スゴいです!」
ユイナが私たちに、興奮冷めやらぬまま声を張り上げた。瞳がキラキラと輝いている。
「申し訳ありませんが、正直勝てるなんて思ってませんでした。本当にスゴい…」
ユイナが私とサトコの手を握りしめながら「スゴいスゴい」と繰り返している。
あれ…、ちょっと待って…。私、ユイナとは普通の友達でいたいんだけど…
チラリとサトコの表情を確認すると、サトコも怪訝な視線をユイナに向けている。
「ちょっと、ユイ…」
「よお、ユイナ!」
ユイナに念のため確認しようと呼びかけたとき、私の声を遮るように長身の女性が現れた。ユイナと同じ黒い制服に身を包み、身長はケータと同じくらいでモデルのような体型だ。少し年上だろうか。浅黒の健康的な肌に黒いショートヘア。黒く細い目で私たちを見下ろしてきた。
「ローゼリッタさん!」
ユイナが振り返って、驚いたように彼女の名を呼んだ。
「さっきから気になってたんだが、アンタ、あの空間術士と知り合いか?」
ローゼリッタがクイっとアゴでケータの方を指した。
「ケータさんですか?はい、まあ…」
「付き合ってんのか?」
「ええ!?」
ユイナが突然の質問に飛び上がった。同時に私とサトコの中に警戒信号が鳴り響く。グレーのユイナとは違い、明確な意思表示。パターン赤だ!
「ちち、違いますよ!尊敬はしてますけど、そんな、私なんかが…」
ゴニョゴニョと声が尻すぼみになる。限りなく濃いグレーだが…。しかしそれより、突然現れたこのオンナの方が問題だ。
「そうか、なら遠慮する必要はなさそうだな」
ローゼリッタは私とサトコに聞こえるように、コチラを見ながらそう言った。
「そこは、遠慮してよね!」
「そうよ、いきなり失礼ね!」
私たちは負けじとローゼリッタを睨み上げた。
「ローゼリッタさん、こちらは…」
ユイナがオロオロしながら、ローゼリッタの左腕を掴んだ。
「オマエら、誰だよ?アタシは知り合い以外に遠慮するつもりなんて、更々ないぜ」
カチーーーン!どうやら私の堪忍袋もここまでのようだ。
「皆さん、ただいまですーー」
そのとき、なんとも緊張感のない声が私たちのもとに届いた。
「あれ?ユイナの知り合いか?」
続いて見慣れない顔の存在に気付き、その制服から予測したような声がかけられる。
ケータとルーだ。
しかしこの二人の登場にいち早く反応出来たのは、新参者のオンナであった。なんてこった…
「アンタ、ケータってんだってな。アタシはローゼリッタだ」
「あ、うん、よろしく、ローゼリッタ」
「よろしくです、ローゼリッタさん」
ケータとルーが、全くの無警戒でローゼリッタに挨拶を返す。
「さっそくで悪いんだけどさ、ケータ、アタシとデートしてくんない?」
はあーーー!?
私の堪忍袋が弾け飛ぶ音がした。
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