第131話

「まずは、王立の図書館に行きましょう」


 アリスが提案する。なんでも大陸随一の蔵書数らしく、過去の文献などもたくさんあるらしい。勇者の功績が記された本とかもあるようだ。まあ、ボクとかサトコのような「はみ出し者」は論外だろうが…


 ボクたちは「バス」のような巡回馬車に乗り、図書館近くの停留所で降りる。先程とは街の雰囲気も変わり、若者の姿も多く見かけるようになった。


 途中の屋台でクレープに似たスイーツを発見し、女子たち皆んなで購入する。実は、ルーはおろかアリスも初めてだったようで、「キャッキャ」言いながら頬張っていた。楽しそうで何より。


 着いた図書館は、まるで「イオン◯ール」のような大きさだった。入り口前から見上げて唖然とする。


「大丈夫ですよ。ちゃんと検索用の水晶球がいたる所にありますから」


 アリスがボクらの心を読んだかのように微笑む。


「さ、入りましょう」


 アリスに促されるまま、ボクたちは中に入った。


「今日ここに皆さんをお連れしたのは、特にハルカに知ってもらいたいことがあったからです」


「私に?」


「ええ」


 答えながらアリスが手近にあった水晶球に手を当てて何やら検索をする。それから受付カウンターに顔を出すとスタッフが驚いたように奥に消え、暫くすると壮年の男性と共に戻ってきた。


 その男性はボクらを個室に案内すると、別の女性スタッフから受け取った一冊の本をアリスに渡した。


「それでは失礼します」


 男は最敬礼で深く頭を下げると、部屋から出て行った。ボクらは円卓の座席に、思い思いに座った。


「私に話って何?」


 ハルカがアリスに顔を向けた。ただ一人座らずに立っていたアリスが、持っていた本をハルカの前に置いた。


「先代の聖女のことです」


「先代の…、どんな人だったの?」


 ハルカが少し興味を持ったようで、本をペラペラとめくり始めた。


「戦争を終わらせた英雄です」


「え!?そんなにスゴい人だったの?」


 ハルカが本から顔を上げて、アリスに驚いた顔を向けた。ボクも椅子を寄せて本の見える位置に移動する。サトコもルーも、ついでにショウも近くに寄ってきた。思ったより大きな話になりそうだ。


「先先代のキーリン家当主は彼女を召喚出来たからこそ、国を統一し、魔界の魔族に勝利出来たと言われています」


 なんでも先代の聖女は、一番最後衛から戦場の味方全員に結界を張っていたらしい。結界に護られた無敵の軍勢でもって戦争に勝利したというのだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ!アリスには悪いけど、私にはそんなコト絶対ムリだよ!」


 ハルカが焦ったように首を横に振った。


「何故ですか?」


 アリスが真剣な眼差しでハルカを見た。


「だ…だって、何処にいるかも分からない相手に結界なんて張れないよ!」


「やはり、そうなのですね」


 アリスが何かに納得するように頷いた。


「キチンと調べた人でないと知らない事実ですが、実は聖女には、常に共にいた従者がいるのです」


「従者?」


 ボクはアリスの言葉をそのまま繰り返した。


「はい。風の精霊使いです」


「なんだか割と凄そうなのに、あまり知られてないのか?」


「それは彼の役割が、とても重要で、とてもだったからです」


 え…今、地味って言ったか?精霊使いなんて、確実に華やかな勝ち組系の職業クラスだと思うのだけど、地味って一体どういう意味だ?

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