第132話
「誤解のないよう言っておきますが…精霊使いとは、聖女の次に希少な最強種の
そう言いながら、アリスが皆んなの顔をゆっくりと見回した。
「ただ先代の聖女は、この者を片時もそばから離さなかったため、戦場で活躍する機会は殆ど無かったそうです」
なるほど、そういうことね。活躍してないから誰の記憶にも残らず、聖女の文献に少し記述が残っている程度なのだろう。
「では、どんな重要な役割を果たしていたんですか?」
サトコが素朴な疑問を発する。
「戦場全体に風を巡らせ、敵味方の位置を正確に把握していたそうです」
「ホントですか?」
アリスの答えに、ルーが唖然とした。
「そんな大規模な魔法、とても信じられません…」
「いやでもちょっと待ってよ!」
私は思わず声を張り上げた。
「仮にその精霊使いさんには分かってたとしても、聖女が全体に結界を使ってた理由の説明にはならないわよ!」
「残念ながら、それに関する記述は何も残っていません。唯一お二人はご夫婦だったとしか…」
「夫婦だからツーカーってか?そんなバカな!」
何この文献?昔の聖女ファンが書いただけの、ミーハー日誌じゃなかろうか?
「それと、魔族との戦争のことも気になります」
私がブツブツと悪態をついていたところに、アリスが強引に話を続けた。
「聖女の結界は魔界の瘴気も防ぐのでしょうか?」
「さあ?見たコトないから分からないけど、それが空気みたいなモノなら多分ムリね」
「やはり、そうですか」
私の答えにアリスは神妙な面持ちになった。
「その文献には、魔界での戦闘中は精霊使いが常に上空から風を送り込んでいたと記述があります」
「それって、新鮮な空気を戦場に供給してたってことじゃないの?」
サトコが呆れたように声を上げた。
「聖女を英雄たらしめたのは、全部この人のおかげじゃない!」
なんだろ…?なんだか小馬鹿にされたような気がする。気のせいだと思いたいが、私を見てくるサトコの視線に何だか悪意を感じる。
「いや、聖女が凄いということは間違いないよ。その
ケータのフォローが入る。うー、やっぱりケータは優しーよー、うるうる…
「あらかじめ言っておきますが、私には絶対ムリですよ」
ルーが申し訳なさそうに言った。
「こんな大規模な魔法、とても人間業とは思えません。勇者とはこれ程の存在なのですね」
「風使い」のルーの発言に、勇者のチート振りを改めて認識させられた。ちなみに、私たちが勇者だってことはルーにも説明済である。
てか、ちょっと待って!
「え?精霊使いって勇者なの?」
私はルーに詰め寄った。
「違うのですか?アリスさんの言い方で、そうなのかと思ったのですが…?」
「アリス、そうなのか?」
ショウが横に立つアリスに確認した。
「ええ、その通りです。よく気付きましたね」
アリスが驚いたようにルーを見た。当のルーは照れたように「エヘヘ」と笑って頭を押さえている。ホント、コイツの洞察力には舌を巻くわ。
「だったら『精霊使い』を探すのはムダか…」
ケータが残念そうに呟いた。そりゃそうだ。私たち以外には、今のところ勇者はいないのだから…
「まあ今までどおりボクらだけで戦えば、何も問題はないさ」
そう言ったケータも多分気付いてる。魔物の襲撃がドンドン本格化し始めてる。敵が本腰を入れ始めたんだ。全ての敵を私たちだけで倒すなんて、さすがに現実味がない。どこかで支え切れないときがきっと来る。
私は何か少しでもヒントがないかと聖女の文献をペラペラとめくっていた。そのとき、とある記述にふと目が止まる。
「へー、前の聖女の名前、ミナコさんていうんだ」
「え、ミナコ?」
私の何の気ない呟きに、ケータが反応した。
「何か気になりますか?」
アリスが不思議そうに質問した。
「あ、いやー……まあ少し」
ケータがバツが悪そうに応えた。何だか歯切れが悪い感じ。
「でしたら行ってみませんか?先代聖女の住んでいたお屋敷に!」
アリスが両手を「パン」と叩いて、嬉しそうに提案した。
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