第二章 リース領へ
第21話
あの大きさではかなり目立つので、カリューのサイズは再び10分の1に縮小している。もし誰かに見られても、鳥…は無理でも、竜とは思われないと思う。
私たち3人はカリューの背に乗り、空の旅を満喫していた。王都の場所はよく知らないが、馬車の目指していた方向とは逆の方向に向かう。
なんとなく気持ちも落ち着いたところで、私はケータに質問した。
「昨日の夜は、何もなかったでしょうね?」
「え?」
ケータがビクリとした。
「な、何もない。夜は何もなかった!」
あからさまに慌てた様子でケータが答えた。
「夜は…?どういう意味よ?」
私はケータをジロリと睨んだ。
「こ、言葉の綾!本当に何もない」
「せっかく黙っててあげたのに、ケータくん、自分から白状するなんて…」
誤魔化すケータを尻目に、サトコが照れたように頬を両手で押さえた。
「明け方に川で水浴びしてたら、ケータくんが入って来ちゃったの」
はあーーー!?
「ちょ…あ、あれは、起きたらサトコ居なくて、まさか水浴びしてるなんて思わなくて…」
ケータの目が泳いだ。私は思わずケータの胸ぐらを掴んだ。
「見たの?」
「み…見てない」
「本当に?」
私が追及すると、思い出したかのようにケータの顔が赤くなった。
「ち…ちょっとしか、見てない」
「それは、『見た』て言うのよーー!」
「わー、やっぱり見られてたんだ!もうお嫁に行けないー」
サトコがワザとらしく両手で顔を覆った。
「あ、ご、ごめん!でも本当にほとんど見えなかったから」
ケータがオロオロしながらサトコに謝った。
「責任、取ってくれる?」
指の間からチラリと覗きながら、サトコが呟いた。
「え…?責…」
「ちょっと待ったーー!」
私はサトコの両肩に両手を置いた。
「だったら私なんて、何度も一緒にお風呂に入ってるんだけど!」
「な、何年前の話だよ!」
ケータが慌てて反論してるが、今は置いとく。
「私にも権利があるよね?」
「えー、ご兄妹の話と一緒にされてもなー」
不服そうな顔をするサトコを、私はギロリと威嚇した。するとサトコは、自分の肩に乗っていた私の両手を下ろしながら私を見た。
「冗談、冗談。でもね…」
言いながらサトコは、ケータの方へグイッと身を乗りだした。
「本当に驚いたんだから、お返し!」
サトコはケータの額に右手を伸ばすと「ペチン」とデコピンした。ケータは一瞬呆気に取られていたが、真っ赤に染まったサトコの表情に気付き、ケータの顔も真っ赤に染まる。
「その…、悪かったな」
「そうだよ。来るときは前もって言ってくれないと…ちょっと困る」
「え……?」
「わーー、待て待て!」
私は叫んで、場を乱した。
あれ、ちょっと待って?コレ、どう考えても私の方があからさまに劣勢だよね、どうなってるの?
いっそ兄妹じゃないことを私も知ってると宣言してしまうか。だけど、それでもケータに選んでもらえなかったら、私はケータとの繋がりを全て失ってしまう。もしそうなったら、私はどうなるの?
一体私は、どうしたらいいんだーー!
~~~
「サトコ、人里が見えてきた。どうする?」
カリューがサトコに声をかけてきた。それから同じ場所をクルクルと旋回し始める。私たちに考える時間をくれるようだ。
「とりあえず、ボクたちの一番の問題はお金がないてことだ」
ケータが心底困った顔をした。
「異世界モノでよくあるのが、『冒険者ギルド』で生計をたてるというモノだけど…」
「このファーラスにも、その『ギルド』てのがあるのかな?」
サトコがもっともな疑問を口にする。
「分からない。それにあったとしても、あの規模の人里には無いかもしれない」
「じゃあ、通過する?」
私はケータの方を向いた。
「うーん」
ケータは目を閉じて思案している。
「誰かが襲われているぞ」
カリューがこちらに頭を向けた。私たちの結論がでるより前に、問題の方が先に舞い込んできちゃったみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます