第6話
どのくらい眠っていたのだろうか。私は恵太の声で目を覚ました。そしてここが見慣れない部屋だと気付く。
実は私は恵太の部屋を
まあ残念ながら、まだアレを発見したことは無いので、異性の好みは把握出来ていないが…
話が逸れた。
だから私は瞬時に理解した。これが異世界召喚だということに。
私と恵太の他に、「真中聡子」さんと居なくていいのに「春日翔」がいる。どこまでも邪魔なヤツだ。
恵太は今、真中聡子さんを起こしている。それが失敗だった。
世の中には理不尽なものがたくさんある。
不良のみせる不意の優しさとか、気の強いあの娘の無防備な寝顔とか。
案の定、恵太の顔が不意に赤くなった。私は直ぐさま行動出る。
「恵太、私が代わるね」
私は恵太と真中聡子さんの間に割り込むと、憎らしい彼女の頬を軽く叩いた。本当は「グー」でいきたかったが、恵太の手前我慢する。
起き上がった真中聡子さんは、この状況に混乱しているようだった。まあ、当然か。
「恵太、これは一体どういう状況なんだ?」
ここにきて、やっと春日翔が声を出した。きっと今のやり取りはヤツの筋書き通りだったのだろう。油断した私が悪い。
「ボクにも分からない。でも…」
恵太のこの言葉は、部屋に入ってきたひとりの女性によって遮られた。
それから彼女は、挨拶もそこそこに予想通りの言葉を口にした。
「あなた方はこの世界に『勇者』として転生されました。元の世界に還ることは出来ませんので、ご理解ください」
私は瞬時に恵太以外のふたりの様子を伺う。
真中聡子さんは…ダメだ。どうやらコッチ方面の免疫は無かったようだ。春日翔は表情からは分かりにくいが、少なからず驚いているようだ。ザマミロ。
しかしこの状況、私にとってはかなり好ましい。
あの家にいると恵太はいつまでたっても「兄」なのだ。親不孝者と思われようが、私はこの機を逃すつもりはない。
「か、還れないって、どうして?」
春日翔と女性とのやり取りを聞いていた真中聡子さんが、意を決したように声を出した。
「大変心苦しいのですが、私どもの召喚術は生きた人間を召喚出来ません。死亡した魂をすくい上げ、転生降臨させるのです。つまりあなた方は一度死んだということになります」
やっぱり死んでたかー。還れないとなればその可能性が高いと考えていたが、それが事実なら仕方がない。お父さん、お母さん、私はここで幸せになります。
「死ん…だ」
真中聡子さんは全身で脱力すると、ポロポロと泣き始めた。
分かる、分かるよ。それが普通の反応だよ。誰だってこんな状況で平静でなんていられない。
でもね…
それを恵太の横でやらないで!
計算じゃないから、なおタチが悪い。真中聡子さんは本当に参っているのだ。
私は彼女の身体を瞬時に抱きよせた。しかし間に合わなかったようだ。恵太は焦ったような表情で、心配そうにこちらを見ている。
「俺たちをどうする気ですか?」
春日翔が女性に食い下がる。
あのヤロー、クラスメイトが泣いてるのに完全に無視ってか!状況が好ましいのはヤツも同様だったのか。ここにきて防戦一方だ。
そんな時、私たちに自分のスマホを見るように、女性から強い指示が発せられた。
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