第11話

 私たちは洋館の中に案内されると、玄関ロビーの大階段を上がった。なんだか、映画の中にいるみたい。それから左の廊下を真っ直ぐに行った突き当たりの扉の前で立ち止まる。


「ここは?」


 春日翔がアリスに尋ねた。


「女王の執務室です。失礼の無いように」


 アリスの声が少し厳しくなる。


「女王さまがこんな所にいるの?」


 私は思わず声を張り上げた。途端にアリスに口の前で人差し指を立て「しっ!」と注意された。不味った、反省。


「私だけで問題ないと進言したのですが、自分で勇者さまをお迎えするのだと聞き入れられませんでした」


 アリスがちょっと困った顔をした。


 そんな偉い人にこれから会うの?失礼の無いようにと言われても、何が失礼に当たるのかさえ分からないよ。


「それでは、入ります」


 アリスがコンコンと扉をノックした。するとキィーと扉がゆっくり開き、給仕服を着たメイドさんの姿が見えた。


「お入りください」


 メイドさんが頭を下げながら扉の横に控える。


 私たちはアリスを先頭に部屋の中に入った。老人たちはこの中までは入って来なかった。


「勇者さまをお連れしました、お母さま」


 アリスが頭を下げた。


 お、?私はビックリして大声を出しそうになった。そういえば、さっき誰かが「姫」とか呼んでた気がする。失礼の無いようにしてほしいなら、そういう大事なことは先に言っといてよ!


「歓迎するぞ、勇者どの。妾はマリアである」


 女王は長い銀髪を頭の上でメッシーバンのアップスタイルにしている。アリスと同じ茶色の制服を着ていた。女王も同じ服を着ているから、王宮の執務服とかなのかもしれない。


「異世界の方に王宮の作法など求めておらん故、気楽にするが良い」


「恐縮です」


 春日翔が頭を下げた。私も一応合わせておく。それからアリスが、私たちのことを女王に紹介してくれた。


「さっそく、宜しいでしょうか?」


 物怖じしないと言うか何と言うか、春日翔が一歩前に出て女王に質問した。


「なんじゃ?」


「俺たちは、どうして呼ばれたんですか?」


「それは、私が」


 アリスが女王の横に移動した。


「結論から言いますと、敵が勇者召喚の禁忌を破ったからです」


 アリスの話をまとめると、辺境に巣食っていた魔術士集団が魔界の魔族の残党と手を組み、封印していた召喚術を復活させたらしい。


 彼らの召喚術は魔族の技術を融合させたため、より魔界に近い異世界からの勇者の召喚に成功したというのだ。


 勇者の強大な力により、数で勝るファーラスの軍勢も連戦連敗。対抗手段として、とうとう禁忌を破ることになってしまった。


 しかし禁忌を破るなど国民に宣伝出来る訳がない。私たちの召喚は女王の周りのごく一部の者しか知らない極秘事項となってるみたい。


「つまり、敵の勇者を倒せということですか?」


「そうじゃ」


 女王が、いかにも当然というような顔で頷いた。


「それと、魔界の魔族というのは?」


「ああ、その説明がまだでしたね」


 アリスが焦ったように声を出した。


 ここファーラスを南北に分けるボーダー連峰の北側を魔界と呼ぶみたい。以前は国家があったらしいけど、そこに召喚された勇者のスキルによって人の住めない土地になったというのだ。


 そのスキルというのが「異界の門」を開くことだった。開いた門から瘴気と魔族が溢れ出し、人が死に絶え、国が滅んだ…


 その勇者が不憫でならない。おそらく善かれと思ってスキルを使っただろうに、そんな結果を招いただなんて…

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