第10話
私と春日翔は黙って女性の後をついていく。正直、残してきた恵太のことが気になって、気が気じゃない。
途中にあった螺旋階段を登ると、急に明るい場所に出た。何処かの中庭みたい。目の前には洋館のような大きな建物が建っていた。
そこで初めて、今まで私たちがいた場所が地下だったのだと理解した。
「ここは、何処ですか?」
春日翔が女性に質問した。
「ここは、今は使われていない魔導の研究所です」
女性は洋館を見上げながら言った。
「ああ、申し遅れました。私はアリスと申します。以後お見知り置きを、ショウ、ハルカ」
アリスは私たちにお辞儀をした。その立ち居振る舞いがなんとも優雅で気品に満ちている。私はホーッと思わず見惚れた。
「どうして今は使われていないのですか?」
春日翔がさらに質問した。
コイツ、軸がブレないというか、ちょっとスゲーな。アリスが少し唖然としてる。多分、今までこんな反応をされたことが無いんだろうな。
裏を返せば、私の魅力が劣ってないってことかもだけど、コイツ相手だとちっとも嬉しくない。
「以前はここで、勇者召喚が何度も行われていました」
アリスが気を取り直して話し始めた。
「しかし先先代の国王の時代に、ここファーラスが統一され、魔族との戦争にも勝利した時、道徳的見地から勇者召喚は禁忌とされました」
「道徳的見地?」
春日翔がアリスの言葉を拾い上げた。私もちょっと気になってた。
「何の確証もないのですが…」
「姫さま!」
その時、私の後ろに控えていた老人のひとりがアリスの言葉を遮るように声を出した。
「良いのです。この方たちは賢い、その内きっと知られてしまいます。聖騎士さまと聖女さまのお力を貸していただけるように、今はこちらの誠意を示すときです」
アリスの言葉を受けて、その老人は黙って引き下がった。
「先程も申しましたように、勇者召喚は死亡した魂を呼びよせ、儀式によって肉体を再構築するというものです。転生者の強力な身体能力やスキルは、その再構築時に発現します。しかし…」
アリスは少し言葉を躊躇った。かなり言いにくいことなんだろう。
「しかし当時の学者が、召喚の儀式自体が『あちら』の世界の理に干渉し、素質のある者の魂を肉体から強制的に解放させている可能性がある、と発表したのです」
それって…。私は絶句した。
「俺たちは、儀式に殺されたということですか?」
アリスは黙って答えない。
「確証はないんじゃ!本当のところは分からん」
後ろの老人がアリスの代わりに声を張り上げた。
「そうですか、大体分かりました」
春日翔が頷いた。
そう、私も大体分かった。
確証はなかったけど、一度生まれた疑問は「召喚」という行為に罪悪感を生んだ。だから皆んなはヤメたんだ。
「分かったって、それだけですか?」
アリスが納得いかない顔をした。
「俺の目的のためには、ここは都合がいい」
「私の幸せのためには、ここは都合がいいの」
ゲッ!こんなヤツとハモってしまった。気持ち悪い。春日翔がニッと笑いかけてきたが、無視無視。塩があったら撒きたいところだ。
アリスもさすがにバカ正直すぎる。私たちだったから良かったものの、こんな話、真中聡子さんには聞かせられないよ。
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