第86話 番外編 6
「銀色の仔犬を連れた、黒帽子被った眼鏡の女にやられたんだよ!」
「それがコイツを捕らえた、ここの衛兵なのか?」
バラスの言葉を受けて、ショウはレイナードに確認をした。しかしレイナードは首を横に振る。
「銀色の仔犬の姿と、そういう身なりの女性がいたとの情報は入っている。しかしながら、たまたま現場に居合わせた一般人のようなのだ」
「一般人が捕らえたのですか?」
アリスが驚いた声を出した。
「ああ、違う、捕らえたのは我が衛兵だ。バラスは発見時、氷漬けで錯乱状態だった。おそらくは記憶が混同しているのだろう」
「思い違いなんかじゃねーよ!俺はあの女にやられたんだ!」
バラスが喚いているが、それ以上は誰も取り合わなかった。
「その衛兵には会えるのか?」
「使いは出している。すぐに来るだろうから、上に戻ろう」
レイナードの提案にアリスとショウは頷くと、薄暗い牢獄を後にした。
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「西門隊隊長のカミラと申します。
再び応接室に戻ると、ひとりの女性が立っていた。癖のない金色の髪を背中まで伸ばした、若草色の瞳の女性だった。
「はじめましてカミラ隊長、私もお会い出来て嬉しいわ」
アリスは優雅にお辞儀を返す。それからカミラの視線に気付き、説明を付け足した。
「こちらはショウ。私の従者です」
「…っ!?姫さまの従者になるほどの騎士の名を存じ上げずに申し訳ない!」
カミラがショウに深く頭を下げた。
「見てのとおり、若輩者だ。気にしないでくれ」
ショウはカミラに返事を返すと、レイナードの方に向き直った。
「この人がそうか?」
「ああ、いや…、カミラ、ユイナはどうした?」
「ユイナは今日明日の合同演習のため、3日前にオイーヌ・ネッコ領に向けて出立しております」
「そうか、アイツもメンバーだったか!」
レイナードは「しまった!」という表情になった。
「合同演習?」
ショウはアリスの顔をチラリと見た。
「ああ、そういえば!」
アリスは思い出したように「パン」と手を叩いた。
先の火竜襲撃の際に被害の大きかった「オイーヌ」「ネッコ」複合領地で、若手戦力の育成のために、同じく他家の若い衛兵を集めて士気の向上を目指す演習を行うと連絡がきていた。
アリスは少し躊躇いがちに説明した。ショウはその意図を察し、過剰な反応は避ける。
「火竜…か。しかし何故、そこに被害が集中したんだ?」
「ああ、それは…」
ファーラスと魔界とを隔てるボーダー連峰は、標高の高い山が連なる山脈である。魔族や魔物と言えども簡単には越えて来ることが出来ない。それ故、連峰の両端は危険であり、7家の中でもナンバー2、ナンバー3の「シシーオ」「クマン」が請け負っている。
そことは別に、連峰には比較的標高の低い山が集まる、魔物の襲撃頻度の高い地域がある。
それが「オイーヌ」「ネッコ」両家が治める複合領地であった。
「竜は基本、そうそう魔界から出て来ません。大抵の場合は、魔物が意図的に連れて来るのです」
「なるほど、それでか…」
ショウは納得したように頷いた。
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