第136話

「ケータくん、どうしよう…」


 サトコがしゃがみ込んだまま泣きベソをかいてる。ボクはサトコのそばに膝をつくと、彼女の肩を抱き寄せた。


 どうしようったって、どうしようか…


 ハルカの例で言えば、同じスキルなら引継ぎが出来るようだ。とはいえサトコは精霊使いではない。


 そのとき、サトコの横で同じようにしゃがみ込んでいたルーと不意に目が合う。


 良く考えたら、同じ「風」繋がりならルーの方が適任なのではないだろうか?あーでも、ルーは勇者ではないから多分ムリか。


 だったら、どういうことだ?


 ボクは助けを求めるように、椅子に座る栞里を見上げた。しかし栞里は穏やかな表情で微笑んでいるだけだった。


「栞里は兄ちゃんに厳しいな」


「そんなことはありませんよ?サトコさんに渡した時点で答えは出ているでしょう?」


 その答えにハッとなった。まさか、そんな事が可能なのか?ボクはもう一度栞里の顔を見た。今度は栞里がゆっくり頷く。


「サトコ、そのスマホにステッカー貼ってみて」


「え?」


 サトコが驚いた顔をする。いや、ボクだって半信半疑だよ。だけどそれしか方法がない。


「分かった」


 サトコは最後のステッカーを呼び出すと、父さんのスマホにペタリと貼った。


 その瞬間、ピンクの光がスマホを覆い、サトコのスマホが「ピコン」と鳴った。


「ケ、ケータくん!『名前を登録してください』だって!」


「お、おおーー!」


 ボクは吠えた。こんな事が可能なのか!サトコのスキル、マジ半端ねー!


「でも、何に?」


 サトコの冷静なひと言に、現実に連れ戻された。でも確かに…いつもならココに対象がいるのだけど今はスマホだけ…


 まさかスマホに名前を付けるのか?いやいや待て待て、さすがにそれは無いだろう。だったら「風の精霊」か?ホントにそんなモノが存在するのか?


 とにかくここは、知ってそうな人に聞くしかない。


「ルー先生、少々よろしいでしょうか?」


 ルーは一瞬目を見開いて驚いたが、すぐに腕を組むと胸を張って偉そうに微笑んだ。


「何かね?」


「風の精霊は実在するのでしょうか?」


「ふむ」


 ルーはアゴに手を当てながらゆっくり目を閉じた。


「私は見たことはないが、『いる』と考えられておるぞ」


「そうか」


 ならばサトコのセンスに従って、直球でいこう。


「『シルフ』なんてどうかな?」


 ボクはサトコに提案した。


「シルフ?妖精の名前ね。うん、いいと思う!」


 サトコはさっそく「シルフ」と打ち込んだ。その直後、父さんのスマホがピンクに光り輝き、本体が消滅すると同時にそこから真っ白い一条の光が飛び出した。


 光はサトコの顔の周りをクルリと一周すると、サトコの正面でピタリと止まる。


「やっと逢えたね、サトコ。私は『シルフ』、これから宜しくね!」


 淡い金色の髪を頭の天辺でお団子にまとめ上げ、水色の瞳がサトコを真っ直ぐに見つめている。オフショルダーの緑色のミニのワンピースを着ており、背中にある4枚の透明な羽が羽ばたくと、白く輝く鱗粉が宙を舞い踊っていく。


 身長が10センチメートル程の、ボクらが思い描く「妖精」「精霊」そのモノであった。


   ~~~


「兄さんにはコレを」


 栞里が木箱の中から1通の封筒を取り出し、ボクに差し出した。


 ボクは受け取りながら、封筒の両面を確認する。すると裏面に「義明 美奈子」と記載されていた。


「これ…」


「はい、お父さんとお母さんからです」


 栞里が頷く。途端にボクの心臓が大きく跳ね上がった。恐る恐る中の手紙を取り出す。


 恵太へ

 栞里のおかげで、お前の彼女を知ることが出来た。3人とは恐れ入る。母さんには及ばないが、皆んな綺麗でよくやったと褒めてやる。本当は色々と謝りたかったのだが、どうやら必要ないようだ。

 そこで3人の嫁候補たちに言葉を残そうと思う。

 君たちなら俺も美奈子も大歓迎だ。思い切り尻に敷いてやるといい。俺はそれで幸せだったから、恵太もきっとその方が幸せになる筈だ。

 最後に、俺たちの大事な息子を宜しく頼む。


 何だよコレ!ホントにコッチにはひと言も無しか…薄情すぎて涙も出ねーよ!……いや違うか。


 同時に3人も彼女を連れてきたバカ息子を、それでも受け入れてくれたんだ。それで充分だ…ありがとな、父さん、母さん。

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