第40話

 くっそーー!


 本当はコッソリ早く起きて朝食を作ってしまおうと考えていたのに、起きたときの状況があり得ないモノだったので、思わず全員を起こしてしまった。


「もう少し寝てていい」という私の提案にケータは賛同して寝室に残ったが、残りのふたりは丁重に辞退しやがった。


 そのせいで現在、ニコニコした表情のサトコとルーが、キッチンに一緒にいる。


「何を作るの?」


 サトコが楽しそうに聞いてくる。


「ハアァーー…」


 思わず大きな溜め息が出た。


 皆んなで食べるんだからメニューがバレるのは当然なんだけど、一緒に作ったら私のレシピなんて一瞬でこのふたりに盗まれる。


 とはいえ、時既に遅し。このふたりはテコでもここを動かないだろうし…。こうなったら!


「だったら、私のお願いも聞いてもらうからね!」


 私の発言に、サトコとルーが顔を見合わせた。


「ちなみに、どんな?」


 サトコが私に訝しげな目を向ける。


「り、料理…教えてよ…」


「え?」


「だから、料理教えてって言ってるの!」


 この提案が予想外だったのか、サトコもルーも目をパチクリさせていた。


「なーんだ、そんなこと?」


 サトコは笑った。


「私は厳しーですからね、覚悟してくださいよ」


 ルーは腕を組み、アゴを若干反らしながら偉そうに言った。


 コレで交換条件は成立した。正直不平等な条件だとは思うけど、無いよりマシだ。


「たまごサンドよ…」


 私はいきなりボソッと言った。


「え?」


 ふたりが聞き返してくる。


「だから、たまごサンド!」


「たまごサンド?」


 ルーがサトコに質問した。


「茹でた卵をつぶしてパンで挟むの」


「ああ、分かります。お手軽なヤツですね」


 ルーの率直な感想が胸に刺さる。大きなお世話だ!


「悪かったわね!私が小学生のときに初めてケータのために作った手料理よ。何が良かったのか、スゴく気に入ってくれたの!」


 私は恥ずかしくて顔が真っ赤になる。こんなレシピもクソもない料理、絶対バカにされる。


「あーあ、そういう料理アレか…」

「不利な条件飲んじゃいましたね」


 ふたりの落胆ぶりに驚く。


「え、な、なに?」


「私たちが、例えハルカより美味しく作ったって、ダメってこと」


「ど、どうしてよ?」


 サトコが「ハアァーー」とあからさまに大きな溜め息をついた。


「味とは別の次元にある、ってことですよ」


 ルーの言葉に、私はただポカーンと間抜けな顔を晒していただけだった。


   ~~~


 朝食後、私とケータは「大型魔核」の換金に行き、サトコはルーに「お供」の紹介をすることになった。


 サトコは付いて来たがったけど、ケータの「換金したらすぐに戻る」の一言に渋々承諾した。ま、私もこんなとこで「抜け駆け」するつもりも無かったけどね。


「わー、モフモフですーー!」


 私たちが玄関を出てすぐに、裏庭からルーの歓喜の声が響いてきた。この後のギンの受難を想像すると、思わず笑いがこみ上げてくる。


 ケータとふたりで楽しく歩いていると、先日の買取屋にすぐに着いてしまった。ちょっと残念。


「オジさーーん」


 私が中に声をかけると、店主がコッチに気付いて出てきてくれた。


「アンタか、やっぱ来ちまったか」


「え?」


「大型魔核、持ってきたんだろ?」


「は、はい。買い取ってもらおうと…」


「悪いな、お嬢ちゃん」


 店主が頭を下げた。


「そんな高価なモノ、ウチでは買い取れねー。扱い切れないんだ」


「じゃ、じゃあ、どうすれば?」


「そーだなー」


 店主が「ふーむ」と思案する。


「王都か南岸の商業都市か、大きな街に行かないとおそらく無理だな」


 王都はダメだもんなー。私は横のケータを確認した。ケータも考えこんでいるようだった。


「東の『シシーオ領』なら、もしかしたら…」


「シシーオ領?」


 ケータが店主に質問した。


「7家のひとつだよ。最近、魔法道具の生産に力を入れていると聞いたことがある。あそこなら、あるいは…」


「なるほど」


 ケータが頷いた。


「何にせよ、一度ファナさまに相談してみた方がいい。きっと力になってくれるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る