第39話
今日もこの時間がきてしまった。
……就寝時間。
昼間に寝室を確認していたのだが、やはり今確認しても状況は変わっていない。当たり前か…
運び込まれた新しいベッドは、元のベッドと横並びにされており、その上に1枚の大きな布団が敷いてあった。
てか、なんだよ、この巨大な布団は!ファナは一体何処でこんな布団を手に入れたんだ?何で存在するのか理由が分からない。需要が本当にあるのか?
いや、確かに今ここになら需要があった。
まさか、特注か?……あり得る。「あの人ならやりかねない」という確信がボクの中に確かにある。
しかしこれで、ボクの思惑が見事に打ち砕かれた。
あわよくば2台のベッドを離し、1台をボクが使わせてもらえるよう頼みこむ予定だったのに、コレではそうもいかない。
ファナの手のひらの上から抜け出せる日が果たして来るのだろうか…
ハルカたちは「誰がどの位置で寝るのか?」という論議を始めていたが、ルーの「端っこでいいですよ」の一言で案外簡単に決着した。
その結果ベッドの下側から見て、右からハルカ、ボク、サトコ、ルーの順番に決まった。残念ながらボクには選択権が無かった。
全員でベッドに入る。「脱け出したら怒るからね」とハルカとサトコに釘を刺された。
ボクは手足を真っ直ぐピンと伸ばし、緊張で硬直状態だ。昨日もそうだったが、眠れる訳がない。
ボクはゆっくりと顔を左に向けた。するとハルカと目が合った。その真っ直ぐな瞳に、ボクは思わず顔を真上に戻した。
「おやすみ、ケータ」
ハルカはボクにだけ聞こえる声で言いながら、額をボクの肩にコツンと当てた。フワッとシャンプーのいい香りが漂ってくる。
昨日は気付かなかったが、サトコは寝つきが良いのか既に寝息をたてていた。しかも抱きグセでもあるのか、ボクの右腕をギュッと抱きしめている。同時に伝わる柔らかな感触に、「思ったよりあったよなー」とか思い出してしまう。いかんいかん、そんなこと考えるな!
とはいえ、ボクを包み込む「いい匂い」とか「柔らかな感触」とかに目がギンギンになる。
なんだ、ここは?天国という名の地獄か?
こんなの眠れるかっ、コンチクショー!やっぱ脱け出す。絶対脱け出す!
昨日はふたりも緊張していたのか理由は分からないが、今日は昨日よりかなり密着状態だ。しかし、このミッションを成功させる以外にボクが生き残る可能性はない。
ボクは意を決した。
「眠れないですか?」
突然、ルーが上体を起こしボクの方を向いた。
「わ、悪い。起こしたか?」
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
言いながらルーは、四つん這いで移動してボクの枕元までやってきた。それからボクの枕を抜き取ると、自分の太ももを挟み込んだ。
「ル、ルー?」
突然の膝枕にボクはドギマギした。
「レンとロンが来たばかりの頃はなかなか寝付けなかったので、よくこうしてあげてたんですよ」
ルーのボクを見る瞳がとても優しい。
「ゆっくり目を閉じて……」
ボクは素直に従う。
「お腹が大きく膨らむように、ゆっくり鼻から息を吸ってー、口からゆっくり吐いてー」
ルーはボクのお腹を優しく撫でる。
「上手ですよー。眠れるまでそばにいますからねーずっと繰り返してくださいねー」
~~~
「ぐっ!」
突然感じた左脇腹の激しい痛みにボクは呻き声を出した。
思わず目を開けると、逆さ向きのルーの顔のドアップが目の前にあった。
あまりの衝撃に、ボクの身体が硬直する。
「ケーーーターーー!」
地の底から響くような声に顔を左に向けると、髪の毛をユラユラと逆立て、目が真っ赤に輝いているハルカの姿があった。
「ふあー?」
その時、ルーが右目をこすりながら目を覚ました。
「あらら?私、あのまま寝ちゃったんですね」
ルーは膝枕をしたままの自分の姿に「アハハ」と照れ笑いをした。
「一体何がどーなったら、こんな状況になるのよーー!」
ハルカが頭を搔きむしりながら吠えた。
「サトコもいつまで寝たフリしてんのよ!いい加減離れなさい」
ハルカはサトコの顔をグイグイ押して、ボクから離そうとする。しかしサトコは、ボクの右腕を強く抱きしめながら抵抗を続けていた。
朝から騒がしいけど、ちゃんと眠れたことがなんだか嬉しかった。
皆んなとのこの生活が続けていけそうで、ちょっと安心した。
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