第五章 合同演習1日目
第59話
ボクたちがファナの元に呼び出されたのは、シシーオの事件から数日後のことだった。
「ボクら3人で」とのことだったので、家のことはルーに任せてファナの元に向かうことになった。
「よく来てくれた、ケータ殿」
書斎に入るなり、待ってましたとばかりにファナが立ち上がった。そしてボクの顔色をジロジロと眺めながらニヤニヤした。
「どうやら皆との生活にも慣れてきたようだな」
「お…おかげさまで」
ボクは軽く赤面しながら、ファナから目線を逸らした。慣れたと言われれば、確かに慣れてきた。相変わらず騒がしい日常を送っているが、それが(悪い傾向かもしれないが)楽しくて心地良い。
夜もちゃんと眠れるようになった。ただ、寝ている間にサトコの胸元に顔を埋めているのか、ハルカに蹴飛ばされて起こされることも何度かあった。
ボクは正座でお叱りを受けるのだが、本来被害者であるハズのサトコにフォローされるという不思議な図式が成り立っていた。
そういうときは決まって、
「そもそもアンタがケータに近すぎなのよ!気付いたら抱きついてるしっ!」
「私だって気をつけてるんだよ?でも無意識なんだから仕方ないじゃない」
サトコがシレッと言い訳する。
「そう見えないから言ってるんでしょ!」
ハルカがおツユを撒き散らしながら抗議した。
ただ…とボクは考える。決してハルカが小さい訳ではないが、サトコの双子山は健全な男子高校生には反則だと思う。まさに夢見心地とでもいうのだろうか、まあ、実際寝てるんだけど…
そんな朝の騒がしい一幕も、いつのまにか抜け出していたルーの「朝ごはん出来たよ」の一言で収束を迎えるのだ。
「楽しそうで大いに結構」
そんなボクの内心を瞬時に見抜いたかのように、ファナが愉しそうに笑った。
「何か用事があるんですよね?」
サトコが警戒しながら言った。また大変なお願いをされるかもしれない、と考えているように見える。
「そうだな、だがとりあえずは情報だ」
「情報、ですか…」
ファナの言葉にサトコは少し警戒を緩める。
「先日シシーオ領で、敵性勇者の確保に成功したそうだ」
「アイツ、勇者だったの?」
ハルカが思わず声を張り上げた。それを受けてファナが「ククッ」と笑った。
「やはり君らも関係者か」
「あ…」
ハルカは焦って口元を押さえた。
「まあ、日程的に考えて予想はついていたよ。それに私の興味はそんなところにはない」
ファナは悪戯っ子のように笑った。
「どういう意味よ」
開き直ったようにハルカが声を出した。
「『勇者』という存在に何の疑問も抵抗もないのだな?禁忌の秘術だというのに…」
ファナがボクら3人を見定めるように順に見た。
しまった!また、やられた!ボクはファナを睨みつけた。ハルカが蒼い顔で口をつぐむ。サトコはボクの背後に隠れるようにシャツの裾を掴んできた。
どうしてもファナの手のひらの上から抜け出せない。大人は皆んなこうなのか?それともファナがスゴイのか?
「どうかしたか?」
ファナが不思議そうな声を出した。
「疑問に感じないんだな、と質問しただけで、特に何も言ったつもりはないのだがな」
ファナはククッと嗤う。
「まあ雑談はこれくらいにしておこう。本題はこれからだ」
「本題?」
ボクは敢えて見逃してくれたファナの次の話題に、すかさず乗った。
「ここより西に『オイーヌ家』と『ネッコ家』の2家が合同で治める複合領地がある。先日の火竜の被害も比較的多かったとかで、若い戦力の向上のために、若い兵士を集めて合同演習をしたいと他家に申し出があったのだ」
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