第122話

「さて、それでは私は自分の世界に還ります」


 ベルがアッケラカンと事もなげに言った。それを聞いて、私たちは唖然とする。


「ベルは自分の世界に還れるのか?」


 ケータが驚いたように質問した。


「ええ、まぁ…あーでも、ケータさんたちを元の世界に戻すのは、今の私には無理ですよ」


 あーそうなのね。まぁ私は還りたい訳じゃないんだけど、聞きたいことを先に言ってくれて時間の短縮にはなったよ。


「ベルさま、帰る前にひとつ宜しいでしょうか?」


 アリスがベルを引き留める。


「何ですか?」


「辺境の様子、勇者のこと、分かることがあれば教えていただけませんか?」


 ベルは自分のアゴに右手の人差し指を当て、「ふむー」と考え込む。


「別人格だったせいか、よく覚えてないんですよ」


「そうですか…」


 アリスがあからさまにションボリしする。


「だけどえーと、向こうの勇者は、私を入れて4人だったと思います。あ、でも、私は普通と違ってかなり規格外でしたから、私より強い勇者は流石にいないですね」


「ほ、本当ですか!」


 アリスの表情が目に見えて明るくなった。


「ええ、こう言っては何ですが、よく私を倒せたなと感心してるのです」


 ホントに「こう言っては何ですが」だよ!でもまー勇者の力も本体ベースと考えるなら、ベルの言ってることも一理ある。女神候補生の転生者なんて「チート」以外の何物でもない。今思うと、ホントよく勝てたな…


「それと、とても大きな『門』のような魔法道具が印象に残っていますね」


「門…」


 アリスが呟くように繰り返した。


「あまりお力になれずに、申し訳ございません」


 ベルが頭を下げた。


「と、とんでもない。とても参考になりました。ありがとうございます」


 アリスは両手のひらを振って、焦ったように感謝を表した。


「それでは皆さん、ご機嫌よう」


 ベルは深々と頭を下げると、魔法杖で縦に一本線を引いた。するとカーテンがめくれるように空間が開き、溢れ出た光がベルを包みこむ。


「ケータさん、それではまた」


「ん?ああ、またな……テっ!」


 突然苦痛を表したケータに驚いて視線を向けると、サトコに耳を引っ張られているトコロだった。


 ベルは口元に手を当て「フフッ」と笑うと、光と共に還っていった。


   ~~~


 それから私たちは、今までのことをショウとアリスに順に説明した。


 説明の間、カリューとギンもケータによって一旦原寸大に戻される。二人は呆然と火竜を見上げた。そりゃ流石に驚くわよね。


 説明を聞いていた間、ショウとアリスの口は、ポカンと開いたまま閉じられることはなかった。


「あの火竜と大型魔核級の魔物が仲間に…」


 アリスが呆けたように呟いた。


「お母さま、私たちはとんでもない戦力を手放していたようです…」


「それで、オマエらこれからどうするんだ?」


 ショウがケータに問いかける。


「そ、そうです!私から女王に口添えをいたしますから、是非一度王宮に」


 アリスは「パン」と両手を叩くと、明るい笑顔でそう言った。


「風使いのルーさんも、勿論ご一緒に!これ程の戦力、女王が反対する筈がありません」


 王宮かー。


 結局行きそびれてたから、皆んなと一緒なら行ってみたい気がする。王都もきっと華やかだろうし、ケータとデートとか出来たら最高だろーな。


「アリスさま、誠に申し訳ございませんが、私たちのことは誰にも秘密にしてください」


 しかしサトコは、ズイッと前に進み出るとキッパリとアリスの提案を断った。

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