第134話
「シオリ…、失礼ですが、もしやシオリ=ネオランドさまでしょうか?」
アリスが驚いたような声を上げた。
「あらあら、私をご存知なのですね。そうです、シオリ=ネオランドです」
栞里は少し目を見開いたが、すぐに穏やかな表情に戻る。
「どういう人物なんだ?」
ショウが横のアリスに小声で問いかける。
「とても高名な占い師です。活躍されていたのは何十年も前になりますが、的中率は8割を超えていたと聞いています」
伝説の占い師として、祖母からよく聞かされていたとアリスが興奮気味に話す。
「あまり支障の無い結果が出たときは、わざと間違えて伝えるようにしていましたから。そうでもしないと高名な…では済まされませんので」
そう言って栞里は「フフ」と笑った。
「え…?」
アリスが目をパチクリとさせながら言葉に詰まる。
なんだか物凄い爆弾発言があったような気がしたが、あまり気にしないようにしておこう…
「セバスチャン、あれをお願い」
「セバスチャン!?」
栞里が執事に呼びかけたとき、ボクは思わず素っ頓狂な声を出した。思ったより大きな声が出てしまったので、慌てて口を押さえる。そんなボクを栞里が「フフ」と笑った。
当のセバスチャンは「かしこまりました」と恭しく頭を下げると、静かに部屋から出て行った。
「お母さんが言うには『有能な執事』の称号らしく、ココでは代々筆頭執事には、その称号が与えられます」
「か、母さん、何やってんだよ…」
今の両親から聞いていた母の人物像が少し揺らぐ。どうやら親戚の前ではネコを被っていたのかもしれない。
しかし「聖女」という響きには「神秘的な淑女」というイメージがあるのだが、どうしてこう…
いや、ハルカがお淑やかでないとは言ってない!
ボクは首をブンブンと横に振った。
「兄さんの彼女さんたちと、少し話をさせてもらってもいいですか?」
栞里が微笑みながらコチラを見た。ボクは頷くとハルカたちを呼び寄せた。
3人は栞里の膝の周辺に屈んで膝をついた。少し緊張した面持ちをしている。それを待って、栞里は大きく息を吸い込んだ。
「アナタたちなんてお兄ちゃんに相応しくない!」
「え!?」
突然の大きな声に、ハルカもサトコもルーも、ついでにボクも目を見張って驚いた。
「言ってやりました」
そして栞里が「フフ」と笑った。
「時々夢を見ます。私はまだ少女で、兄の連れてきたアナタたちと初めてお会いしたとき、私は顔を真っ赤にして怒鳴るのです」
言いながら栞里は、ハルカに左手を差し出した。
「親戚のお姉ちゃん」
「新島春香です」
ハルカが栞里の手を取る。
「隣の席の『くらすめーと』」
「真中聡子と言います」
栞里の差し出した右手をサトコが握る。それから栞里は、顔をゆっくりとルーの方に動かした。
「『風使い』の少女」
「ルーです」
ルーも栞里の右手を握る。
「それから私はアナタたちの人柄に触れ、苦虫を噛み潰しながら、いつかはこう言うのです。『お兄ちゃんをよろしく』と…」
そう言って栞里は優しく微笑んだ。
「はい!」
3人が揃って返事をした。栞里は満足したように頷くと、今度はコチラに顔を向けた。
「お兄ちゃん、こんないい人泣かせたら承知しないよ!」
ボクは面食らった。シワがれている筈なのに、少女の声にしか聞こえなかった。
「ハハ、参ったな…頑張るよ」
幼い栞里を中心に、ボクたちは幸せそうに笑っている。あり得ない、無かったハズの光景なのに容易に目に浮かぶ。本当に不思議な気持ちになった。
そのとき部屋の扉がノックされ、セバスチャンが中に入ってきた。入り口の横で頭を下げる。
「大奥様、お持ちしました」
「あらあら、現実に戻されてしまいましたね」
栞里が残念そうに微笑んだ。
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