第161話

「申し訳ありませんがケータさん、どなたかお一人選んでもらって構いませんか?」


「は?ボクが選ぶのか?」


「ええ」


 戸惑うケータを余所に、ベルがまるで品の良い令嬢のようにニッコリ微笑む。


 アイツさっきからホント何なのよ!まるで他人事みたいに…あ、いや、そりゃ他人事なんだろーけど…女神って皆んなこんな感じなの?なんか思ってたのと随分違う。


 ケータは座ったまま、腕を組んで考え込む。


 しかし直ぐに伏せていた顔を上げると、真っ直ぐコッチを見た。バッチリ瞳が合う。


「ハルカ、悪いけど付き合ってくれ」


「え、そんなアッサリ!?」


 ベルが飛び上がって驚いた。ツインテールがピョコンと跳ねる。…てか、なんでアンタが驚くのよ?


 私はサトコとルーの手を離すと、無言でスタスタ歩き出した。


「ちょっ…ちょっと!」

「ハルカさん!」


 サトコとルーの焦った声が聞こえたけど、右手をヒラヒラ振って振り向かずに応えた。


 私は座り込んでいるケータの元まで歩いていくと、腕組みして仁王立ちで見下ろす。


「怒ってるか?」


 ケータがポリポリ頬を掻きながら、私を見上げた。


「怒ってないけど、参考までに私を選んだ理由を聞かせてもらえるかな?」


「そ、そうよ!もう少しちゃんと考えた方が…」


 ベルが「アハハ」と愛想笑いをする。コイツさっきから、ちょくちょく言動が変だな。私はベルを「ジー」と見つめた。


 ベルは私の視線に気付くと「ハハ…」と笑って顔を背ける。何だかちょっと…いや、かなり変な気もするけど、正直構ってる場合じゃない。


「えーと…」


 ケータはケータで、顔を背けて言い淀んでる。


「もしかして、私が『妹』だから?」


 その瞬間、ケータがハッとしたように私を見た。何だか「その手があったか!」みたいな顔をしてる。


「そ…そう!やっぱこんな事頼めるのは、肉親にしか無理だよな!」


「ウソね!」


 私は一蹴した。


「な…何で?」


「何年アンタを見てきたと思ってるの?そのくらい分かるわよ!」


 私に見下ろされ、ケータが益々縮こまっていく。


「言っても怒らないか?」


「怒らないわよ!」


 たぶん怒る。でもフラグ立てたのはケータ本人なんだから、しょーがないよね。


「こんな事になってしまって、ボクにだって色々と心残りはあるんだ。特に…ハルカとサトコとルーの事。だからボクの事なんか早く忘れて、幸せになってほしいと思ってる」


 ケータは哀しい顔で笑った。


「だけどさ、気付いちゃったんだ……ハルカだけはダメだって」


「え…?」


 え、どういう意味?話の流れでいくと、幸せになってほしくないってこと?そりゃー、ケータのいない世界で幸せになれるなんて考えられないけど、だけどそれを去ってく側が言う?


「ボクのこと、ずっと忘れないでほしい……ボク以外の誰かと幸せになんて、なってほしくない…て」


「!?」


 え?コレって嫉妬!?


「そしたらさ、突然こんな話が舞い込んできた。ちょうどイイと思った。コレでハルカも連れて行けるって。つまりこれは自分勝手な無理心中。なかなか最低だろ?」


「ホント、サイテーだよ!」


 私は思わずケータに抱きついた。なによ、無理心中って…もちろんついて行くわよ!気付くと涙が溢れて、ケータの右肩を濡らしていた。


「お、怒らないのか?」


 ケータの戸惑った声が聞こえる。私はケータの肩から顔を離すと、ケータを真正面に見て精一杯声を張り上げた。


「怒ってるわよ!」


 しかし残念ながら、口元は緩みきってたと思う。


「はー、ご馳走さま。良い対価を頂きました」


 そのときベルが、頬を赤らめながら微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る