第145話
『た、大変だ!レイナード様が…グワッ』
突然戦場に男の声で緊急放送が流れたかと思うと、呻き声を最後に沈黙してしまった。
「何かあったのでしょうか?」
アリスが心配そうにショウに目を向けた。
「さあな…」
ショウが厳しい表情で都市の方へ振り返ったとき、更に放送が続いた。
『レイナード様は俺が始末したぜっ…ヒャハハ!』
耳障りの不快な笑い声が響き、拡声器が「キィーーン」と甲高く鳴る。
『もう諦めて、ここを明け渡しな!』
戦場に動揺が走った。
「この声…バラスか!」
ショウが「クソッ」と吐き捨てる。
「ショウ…」
ショウを見つめるアリスの瞳の中には、動揺が色濃く映っていた。ショウはアリスの頭に優しく手を添えると、自分の胸に抱き寄せた。
「アリス、お前はこの戦線の維持を一番に考えてくれ。コレはアリスにしか出来ないことだ」
「だけど…」
「大丈夫だ。いるのが分かったのなら、後はあの二人に任せておけばいい」
ショウはアリスの肩に手を乗せ替えると、アリスに目線を合わせて「ニッ」と笑った。
「そ、そうですね!そのとおりです」
アリスが頷くのを確認すると、ショウは上空を見上げて叫んだ。
「カリュー!」
一呼吸の間もなく、カリューが真上に姿を現す。
「アリスを乗せて飛んでくれ」
「心得た」
カリューは静かに舞い下りると、アリスの足元にこうべを垂れた。
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「シルフ、お願い出来る?」
サトコが肩のシルフに声をかけると、退屈そうに座っていたシルフがフワリと舞い上がった。
「まだ死んでなきゃね」
両手両足をグンと伸ばして「うーん」と大きく伸びをしながらシルフは答えた。
「じゃあお願い!」
「はいよー」
シルフは気怠そうな返事をすると、輝く鱗粉を残しながらスィーッと防壁を飛び越えていった。
「じゃあ私たちは、あのゴミ虫を探さなきゃね」
ハルカは「パシン」と右拳を左の手のひらに打ち付けた。
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刻は少し遡り、ここはシシーオ家宮殿内の軍本部。
レイナード=シシーオは総司令の席上で、顔の輪郭を覆うように繋がる髭をさすりながら、感嘆の溜め息を漏らした。
「まさか…火竜とはな」
レイナードは「ククッ」と苦笑いした。
魔物の軍勢発見の報告を受けたレイナードは、その物量差から門を堅く閉ざし籠城戦を覚悟していた。
しかし援軍に駆けつけたアリス姫が迎撃に討って出るという。ここまで馬鹿とは思っていなかったが、はやる気持ちを抑え切れないというのは若者にはよくあることだ。
レイナードはアリス姫の進言を了承した。
どうせ直ぐに敗走するだろうとタカをくくり、撤退の援護のために信頼のおける衛兵を配置した。
しかしあの姫は、火竜というとんでもない隠し球を用意していたのだ。これで我がシシーオ家はキーリン家に二度と頭を上げられなくなってしまった。
まあ、それも善かろう。強い者が人の上に立つのは世の常だ。我らもそれに従おう。
「西門より報告。魔物の軍勢を発見、援軍を求めています」
「兵は回せん!東門に用意していた魔砲台を西門に向かわせろ!」
男の報告に、レイナードは即座に対応した。
「は!」
男は「ビシッ」と敬礼すると、直ぐさま部屋を退出していった。
敵もなかなか考えている。一筋縄ではいかないようだ。
その瞬間、レイナードは背中に凄まじい衝撃を感じた。喉の奥から熱いモノがこみ上げてくる。鉄の味が一気に広がり「ガハッ」と口から血を吹いた。
震える身体を無理に動かし背後の様子を覗き見る。
そこには、椅子の背もたれ越しに短刀を突き刺している緑肌の小男の姿があった。
「キサマ…バラス」
「遠慮せずに、ゆっくり休みな!」
バラスは「ヒャハッ」と笑うと、再び姿をくらました。
「クソが…」レイナードは口の中で呟くと、机の上に倒れ込んだ。
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