第146話

『レイナードは俺が始末したぜっ…ヒャハハ!』


「バラスは上手くやったようだな」


 聞こえてきた放送を受けて、ガイエンはニヤリと笑った。それから足下の有象無象に目を向ける。少し時間を与えた甲斐があったようだ。


 そのとき治癒術を受けたカミラがなんとか立ち上がった。しかし限界を超えてしまったのか、ユイナの意識は未だ戻らない。


「お前たち、ユイナを連れて後退しろ。アイツは化け物だ」


 カミラはガイエンを見上げたまま、厳しい口調で命令した。


「しかし…」


「口答えするなっ!」


 男の反論を一蹴し、カミラは初めて部下を怒鳴りつけた。男は「はっ!」と敬礼すると、全員を連れて後退していく。


「結局全員死ぬんだから、同じコトだぜー」


「させはしない!」


 カミラは両手で剣を握りしめると、空中のガイエンを睨みつけた。


「おうおう、活きがいいねー」


 ガイエンが頭上に右手を構えると、そこに多数の炎の剣が出現した。あれ程の数、避け切れるとは到底思えない。


「雷神の盾!」


 カミラが魔法を唱えると、正面に6個の雷球が円状に出現し、間に電磁場が発生した。


 カミラの脳裏に、先程のキングリザードマンを葬った威力が蘇る。果たして受け切れるか?


「さあ、オレを愉しませてみな!」


「来い!」


 ガイエンが右手を振り下ろした。同時に多数の炎の剣がカミラに向けて降り注ぐ。


 カミラが魔法壁の維持に魔力を集中した瞬間、多数の氷柱つららが出現し炎の剣を迎撃する。炎と氷で打ち消し合い、シューシューと水蒸気が発生した。


「あん?」


 ガイエンが不機嫌そうに顔をしかめた。カミラ自身も何が起こったのか全く分からず困惑する。


「ここからはお手伝いしますよ」

「てか、どっちかつーとボクらの役目だよな」


 銀狼の背の上から、ケータとルーがカミラに微笑みかけていた。


   ~~~


「オマエ確か、レアモノと一緒にいた…」


 ガイエンがケータの顔をマジマジと見つめながら呟いた。


「レアモノはどーした?」


「ここにはいねーよ」


 ケータは不機嫌そうにガイエンを睨みつけた。


東門アッチ側か。仕方ねー、オマエらサッサと片付けて狩りに行くか」


「行かせるか!」


 ケータがスマホを操作すると、3メートルほどのトライメテオが2個、ガイエンを挟むようにポンと現れた。そのまま有無を言わさず、アメリカンクラッカーのように「ガン」と打ち付けた。


「当たるかよ!」


 ガイエンは身を翻して余裕で躱す。しかしケータは2個のトライメテオを交互に操り、次々とガイエンに攻撃を仕掛けた。


 最初は余裕で躱していたガイエンも、その重量の一撃は無視出来ないモノであり、徐々に苛立った表情に変わっていった。


鬱陶うっとーしーな!」


 ガイエンのイライラが頂点に達し、瞬時に2本の炎の槍を創り出すと、トライメテオに向けて同時に放った。目標に命中した2本の槍は大爆発を起こし、トライメテオを遠方に弾き飛ばす。


「今です!嵐竜のアギト!」


 その一瞬の隙を逃さずに、ルーは広げた両手をクロスさせながら魔法を唱えた。まるで竜の顎が閉じるように、2本の風の刃が閉じ合わさる。


「いいぜー!いい攻撃だっ」


 即座に反応したガイエンは炎の鉄槌を創り出し、風の刃を消し飛ばしながらケータたちに向けて打ち下ろした。


「だが脆い」


 打ち付けられた鉄槌は「ドゴォオオン」と大爆発を起こし、モウモウと爆煙が噴き上がる。しかし煙の中から現れたのは、氷の障壁に守られたケータたちの姿だった。


「やっぱ、練り込みが足りねーか」


 ガイエンはほくそ笑むと、右手を頭上に構えた。同時にまるで神殿の柱のような、1本の巨大な炎の槍が徐々に形成されてゆく。


「コイツで最後だっ!」


 ガイエンが吠えた瞬間、直上から垂直に降下してきたもう一つのトライメテオが、巨大な炎の槍を貫いてガイエンの脳天を強襲した。


「がっ!?」


 ガイエンはそのままトライメテオの落下に巻き込まれて、地面に叩きつけられた。


「ギン、合わせてっ!」

「任せな!」


 ルーの声に、ギンが即座に応える。


「嵐氷竜の咆哮!」


 ルーが両手を前に突き出し、声を張り上げ魔法を唱えた。透かさずトライメテオを移動させたその凹地に、鋭い氷塊を孕んだ竜巻が、唸りを上げて発生した。


「ガァァアアア!」


 ガイエンは絶叫した。


 竜巻の威力に身体は宙に持ち上げられ、四肢を引き千切らんばかりに捻りあげられる。更に鋭い氷塊によって体の隅々まで切り裂かれていった。


「カミラさん!」


 ルーが叫んだ。即座に理解したカミラが「ザン」と猛スピードで駆け出した。


 カミラが目標に到着する寸前、竜巻が「パッ」と消滅した。支えを失ったガイエンが落下を始める。その落下にタイミングを合わせるように、カミラは剣を突き出した。


 カミラの剣は、まるでガイエンを受け止めるように刺し貫いていた。

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