第144話
「壁の上をコッチに向かって移動してくる複数の人間がいるぞ」
ギンが背中のケータとルーに声をかけた。
「もしかして、ユイナたちの援軍か?」
ケータは防壁の上に視線を向けるが何も見えない。
「ギンの存在があらぬ誤解を招くかもしれません。魔物も粗方片付いたので、一旦死角に避難しませんか?」
ルーの発言にケータが「そうだな」と頷き、それを受けてギンは西門隊舎の方へ駆けていった。
~~~
銀狼の活躍で、魔物の部隊はほぼ壊滅状態である。
そこで手の空いた衛兵たちが、次々とカミラの援護に入ってきた。しかし残念ながら、ここは「西門隊」である。窓際職として知られるこの部隊に、有能な人材が配属される筈がない。
カミラは着任以降、地道な訓練を実施してきたが、それでも「ちょっとはマシ」になった程度である。大型魔核級の魔物を相手にするには、まだまだ力不足だったのだ。
(潮時か…)
カミラは苦笑いした。ここはリース家の方たちに討伐を任せよう。
「カミラ…隊長」
そのとき意識を取り戻したユイナが、フラフラと立ち上がった。片手剣を両手で握りしめ、戦闘体勢をとる。その姿は、カミラにとって驚異的なモノであった。
「ユイナ、無理はするな!お前は休んでいろ!」
実力差は身に染みて分かった筈だ。何故まだ闘志が衰えない?何故心が折れない?
「私たちはっ!カミラ隊長が最高の隊長だと、必ず証明する!」
ユイナは喉も張り裂けんばかりに叫んだ。
「そうだ!俺たちを見放さなかったカミラ隊長に恩返しを!」
「カミラ隊長に恩返しを!」
次々と衛兵たちに伝播していく。「おおー!」と雄叫びが湧き上がった。
「お、お前たち…」
カミラは周りの部下たちに視線を向けた。まさか士気の根源が
「カミラ隊長、必ず勝ちましょう」
ユイナの意志の強い視線に射抜かれ、カミラは一瞬でも弱気になった自分を恥じた。
「ああ、そうだな」
カミラは「キュッ」と唇を噛みしめると、再び気合いを入れ直した。
~~~
突然「キュルキュル」と大きな音をたて、西門隊舎から信号弾が打ち上がった。
『標的から距離をとれ』の合図だ。
「散開!」
指示の意図など分かりもしないが、カミラは躊躇わずに号令を発した。ユイナたちも何の淀みもなく隊長の指示に従う。
その瞬間、「ドウ」という轟音と共にキングリザードマンが吹き飛んだ。「ガッガッ」と跳ねるように転がっていく。
カミラは反射的に防壁の上を見上げた。魔砲台だ!
「援護がきた!一気に畳み掛けろ!」
カミラは声を張り上げると同時に雷爪を放った。ヨロヨロと立ち上がったキングリザードマンは、盾を構えてカミラの雷爪を弾く。更に頭上から降り注ぐ火炎弾や氷針を鬱陶しそうに弾き飛ばすと「グオオオ」と吠えた。
直後、魔砲台の一撃が再びキングリザードマンに直撃する。盾が空高く弾け飛び、キングリザードマンの身体は後方に跳ね飛ばされた。
瞬時にカミラとユイナが駆け出した。
正面から真っ直ぐ突っ込んでくるカミラに向けて、キングリザードマンは上体だけ起こし、槍をカウンター気味に突き出した。
一切躊躇いを見せず突進するカミラに槍が突き刺さる瞬間、キングリザードマンの右方向から接近していたユイナが、その槍を跳ね上げた。
懐に飛び込んだカミラの渾身の一撃はキングリザードマンの首を狙ったモノだったが、反射的に身をよじったキングリザードマンの右肘を斬り落とした。
「ガァアアア!」
キングリザードマンは左手で右肘を押さえながら、悲鳴にも似た咆哮を発した。
「トドメだ!」
カミラが片手剣を両手で上段に構えた。
その瞬間…
「お勤めご
声と同時に、炎の長槍がキングリザードマンを脳天から刺し貫いた。直後に大爆発を起こす。
カミラとユイナは爆風に吹っ飛ばされ、蹴飛ばした空き缶のように跳ね転がった。
次いで防壁の上でも爆発が起こり、魔砲台が大炎上を起こす。
「こんな予定じゃなかったが、面白そーなのがいるじゃねーか!」
空から声が降ってくる。カミラとユイナの元に駆けつけた衛兵たちが空を見上げると、背中に蝙蝠のような飛膜の羽の生えた男が、足場のない空中に立っていた。
朱色の皮膚に白い頭髪、前髪の生え際から一本突き出た黒いツノ。男はその表情を不気味に歪めながら口角を吊り上げた。
「頼むぜー、オレを愉しませろよー!」
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