第163話

「ショウ、本当に良かったのですか?」


 アリスが横に立つショウを見上げた。ショウはアリスの頭をグシャグシャと乱暴に撫でると、そのまま自分の胸に抱き寄せた。


「日本には、アリスはいないからな」


 その言葉を聞いて、アリスは涙を流しながら両腕をショウの背中に回した。


「ありがとう、ショウ。愛しています」


「ああ俺も愛してる、アリス」


 アッチは何だかハッピーエンド。コッチはちょっと、そー簡単にはいかない感じ…


 そのときルーが口を開いた。


「ケータお兄ちゃんが居なくなったら、どーしようかと思いました」


 ルーは「アハッ」と笑って戯けた風を装ってるけど、心底安心した気配が伝わってくる。


「心配かけてゴメンな」


 ケータがルーの頭を優しく撫でる。ルーは頬を赤らめながら「エヘヘ」と笑った。


「私は別に還っても良かったんだけど…」


 サトコが「ツン」とソッポを向いた。


「何でよ?」


 私はジロリとサトコを睨む。


「だって日本あっちなら、一番チャンスがあるのは私だもの」


 サトコは「キッ」と私を睨んだ。これは怒ってる瞳じゃない……これはきっと…


「だけど…」


 サトコは不意に顔を伏せた。その瞬間、涙の雫が頬を伝って地面に落ちる。


「ここにいたら、勝負が着いちゃうじゃない…」


 サトコが「うわーーん」と声を出して泣き出した。


「死ぬほど悔しいけど、死ぬほど苦しいけど、殺したいほどアンタが憎いけど…」


 サトコは私に詰め寄ると、両手で私の両肩を「ポカポカ」と何度も叩いた。


「なのに……心のどこかで、ハルカが選ばれて良かったって思っちゃったー」


 サトコの目から大粒の涙が次々と溢れる。


「『想いに時間は関係ない』なんて台詞も確かにあるけど、永くずっと想い続けてきた人が報われないなんて……そんなのやっぱりダメだよー」


「サ、サトコー」


 私も涙がこみ上げ、思わずサトコに抱きついた。


「おめでとう、ハルカ」


「ありがとう、サトコ」


 私たちはすすり泣きながら、そのまま抱き合っていた。そんな私たちの元に、ルーが「てくてく」と近付いてくる。


「どうかしたんですか?」


 ルーがポカンとした表情でコチラを見てくる。


「モチロン第一夫人の座は欲しかったですけど、皆んなで結婚すればいいじゃないですか!」


「え?」


 私とサトコの涙が引っ込んだ。


「結婚て、相手ひとりじゃないの、ルー?」


 サトコがゆっくりとルーの方に顔を向けた。


「何でですか?出来る人は何人でもすればいいじゃないですか!」


 ルーがケータに駆け寄り、左腕に抱きつく。


「へ?」


 ケータが心底マヌケな顔をした。そんなケータに、ルーはとびっきりの笑顔を見せる。


「モチロン私も選んでくれますよね、ケータお兄ちゃん!」


「え?」


「も…もしかして、私も選んでもらえるの、ケータくん?」


「え?え?」


 サトコとルーに詰め寄られ、ケータは2、3歩たじろいだ。


「ちょっと待って…ちょっと待ってよ!」


 ワナワナと身体が震えだす。体の奥底からこみ上げてくる何かを抑えることが出来ずに、とうとう私は大爆発を起こした。


「ちきしょー!異世界なんて大キライだーー!!」

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