第78話

 ケータ、なんだか元気なかった…


 晩ご飯食べたあと解散になり、それぞれ自室に帰ってからずっとモヤモヤしてる。


 何もやる事がなく、ベッドの上でゴロゴロと寝返りを繰り返していたが、さすがに飽きた。


 仕方ない。コンビニで何か買おう。


 部屋を出たとこで、サトコたちにも声をかけようか悩んだけど、なんだか気分じゃなかった。ひとりで行くことにする。


 寮を出てコンビニの入り口に向かうと、ちょうど店内から出てきたアインザームと鉢合わせになった。


「げ…」


「ハニーか。どうした、ひとりか?」


 薔薇の舞うような笑顔で両手を広げながら、私にハグしようと近付いてくる。


「ち…ちょっと!アンタ負けたんだから、もうちょっかい出さないでよ!」


 私は後退りしながら、声を張り上げた。するとアインザームがおかしな表情になった。


「何故だ?」


「何故…て、そういう約束でしょ?」


「なんの話だ?そんな約束をした覚えはないのだが…」


「は?」


 おいおい、何シラを切ってんだ、コイツ…


「そういう約束でケータと勝負したでしょーが!」


「ハニーこそ、何を言ってるんだ?俺はあの男が気に喰わなかったから叩き潰そうとしただけだが?」


「へ?」


 今度は私がおかしな表情になった。


 待て待て、冷静に思い出せ、私…


 あー…でも確かに、アインザームはケータが「嘘ついたからムカつく」とかケータはケータで「イラつく」とか…


 あ、コレ、ホントにただの喧嘩だ!


 わー、いっぺんに色々ありすぎて、ゴッチャになってるー!


「だが確かに、負けたままハニーに愛を囁くとかは主義ではない」


 アインザームは真面目に頷いた。


「最初から本気でやれば次は必ず勝つ。そのときに改めて貰い受けに来るとしよう」


「次だってケータが勝つわよ!舐めるな!」


 私はキッパリと宣言した。


「すぐに俺に夢中にさせてやる。楽しみに待ってろ」


「誰がアンタなんかに!」


 アインザームは楽しそうに笑いながら、男子寮の方へ去っていった。あー腹立つーー!


 塩!そうだ、コンビニで塩買おう!


   ~~~


「待ちなさいよ!」


 コンビニに入ろうとしたら、女性の声に呼び止められた。あーもう、今度は何?


 振り返ると、深緑のワンピと白スラックスの制服の3人組がいた。


 あー、昼間の過激な追っかけの人だ。あとの二人はお仲間なのかな。まるで私を取り囲むように、コチラを睨んでくる。


 茶髪のセミロングの彼女の他に、黒髪ポニテと金髪おさげの3人だ。


「なんでしょーか?」


 正直メンドくさい。なんで次から次へと、面倒事が押し寄せるんだ?私、何かした?


「気のないフリして、アインザーム様に色目使ってんじゃないわよ、雌ガキ!」


 どこをどー見たら、そんな風に見えるんだ?ホント勘弁してほしい…。てかアンタたち、もしかしてアインザームのことつけ回してるの?それってストーカーなんですけど?


「それにアンタんとこのあの男、何か卑怯なことでもしたんでしょ?そうでもなきゃ、アインザーム様が何も手を出せずに負けるなんてあり得ない!」


「はあ?」


 私はカッとなって、声を張り上げた。言うに事欠いて、ケータを卑怯者扱い。コイツらホント、人間腐ってる。


「急に勝負を挑まれたのはケータの方なのよ!そんなコトをする暇がどこにあったってのよ!」


「だって、じゃないと絶対おかしい!」


「だったらアナタたち自身で試してみたら?ケータがただの卑怯者かどうか。そうすればアインザームのためにもなるんじゃない?」


「そ、そんなコト…」


 私の提案に、3人の女性は急に尻すぼみになる。


 そーだよね、怖いよね、だってアインザームに勝った相手なんだものね。ちゃんと分かってるじゃない。私は「ククッ」とイヤらしく笑った。


「何、馬鹿にしたように笑ってるのよ!」


 金髪おさげに腕を掴まれた。3人の表情が醜く変わった。「ちょっと裏まで来な!」的な空気になる。


「ハルカ、知り合いか?」


 そのとき急に、ケータの声がした。


 ケータ、アンタってホント、私のヒーローだわ!

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