第129話
ボクは半ば放心状態のまま、シャワーを浴びて外に出た。脱衣所を出たとこでいきなりハルカとルーに詰め寄られる。
「ケータ、大丈夫?本当に何もなかった?」
「う、うん、何もなかった」
ボクは心ココに有らずな感じで答えながら、目線でサトコを探す。すると食卓の席に座って、両手で持ったマグカップに口をつけていたサトコと目が合う。少し照れたようにマグカップを置くと、ニッコリ笑いかけてくれた。
うはーーっ!
ボクはクラッとして、少しよろけた。
「ちょっとケータ、ホントに大丈夫?」
ハルカが慌ててボクの身体を支える。
「次は私が入ろっかな」
サトコがなんだか楽しそうに立ち上がると、着替えを持って脱衣所に入っていった。
ボクは食卓の自分の席に座ると、「ふぅー」と大きく息をついた。
「どうぞ」
ルーが飲み物を持ってきてくれた。喉が渇いてたから、とても助かる。
「ああ、サンキュ」
ボクが飲み物を飲んでいると、向かいに座ったハルカの視線に気が付いた。凄いジト目で睨まれてる…
「あんな短時間でさすがに何もないとは思うけど、やっぱりケータちょっと変」
「そうですね。無意識にサトコさんを目で追ってますからね」
ルーがボクの横に立ち、ボクを見下ろしてきた。ルーに見下ろされるのがとても新鮮で、何だか少しゾクゾクする。ヤバイ、クセになりそう…
「いきなり入ってこられて驚いたけど、それだけだって」
ボクは飲み物を飲みながら、それだけ答えた。
その後ハルカとルーのたわいない会話を聞きながらボーとしてると、サトコが脱衣所から出てきた。生地の薄いサトコの寝間着姿が、見慣れてる筈なのに何だか色っぽい。
「サトコさん、シッシです。寝室の準備をお願いします」
ルーがサトコの方に手の甲を向けて、動物を追い払うように手を振った。
「飲み物くらい飲ませてよ」
サトコが苦笑いをしながら冷蔵庫に向かう。
「飲んだら直ぐに行ってよ!」
「はいはい、分かりました」
ハルカに凄まれながら、サトコは軽く受け流す。
そ、そうか、寝るのか…まあ当然だよな。二階に上がるサトコを見送りながら、何だかいつになくモヤモヤしていた。
~~~
ボクはハルカに勝手に二階に上がらないように釘を刺されていたので、二人の風呂上がりを待ってから三人で二階に上がった。
ボクらが二階に上がると、サトコはベッドにうつ伏せに寝そべりながらスマホをいじっていた。
実はグループチャットが開放されたとき、ミニゲームのアプリも同時に開放されていた。「マインスイーパー」と「ソリティア」である。暇つぶし用のクセに、何だか意地になってしまうゲームだ。
「あ、やっと来た」
サトコが待ちくたびれたように顔をコチラに向けた。いつも通りのサトコの姿に、ハルカとルーも少し警戒を解いたようだ。
「なに堂々と、いつもの場所に陣取ってんのよ」
「だってココじゃないと落ち着かないのよ」
ハルカの呆れ声にサトコが普通に応える。
「仕方ないですねー」
ルーも苦笑いしながら、いつもの端っこの布団に寝転がった。
「ほらケータくん、何してるの?」
ボクも誘われるように、ハルカとサトコの間に寝そべった。
部屋の明かりが消える。
ハルカとサトコから漂ってくる石鹸の香りにギンギンに火照ったボクの身体は、とても眠れる気がしない。
そのときモゾリとサトコの動く気配がした。ボクの右腕を抱き寄せるように、自分の胸に押し当てる。
き、来た…ボクは「ゴクリ」と唾を飲んだ。それからゆっくりとサトコの方に顔を向ける。
直ぐそこにサトコの顔がある。そして…
スースーと寝息が聞こえた。
え…あれ?寝てる?
その瞬間、ボクの左脇腹に激痛が走った。
「何あからさまに残念そうな顔してるのよ!」
四つん這いのハルカに、ギリギリと脇腹をつねられていた。
「アンタやっぱり何かあったんでしょ?」
「ない!ホントに何もない!」
ボクは涙目になりながら首を何度も横に振った。
「ま、いいわ」
ハルカは諦めたように溜め息をつくと、ボクの左腕を枕にして抱きついてきた。
「今日はここで寝るから、構わないよね?」
「は、はい」
反論を許さないその瞳に、ボクは素直に頷いた。
「だったら私はココです」
突然の声に顔を向けると、ルーがボクとサトコの間に収まっていた。
「はい、仰せのままに」
ボクは観念した。
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その日、ボクは天にも昇るようないい夢を見た。
しかし明け方に、洗面台で下着をこっそり洗う羽目になってしまった。
シクシク…
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