第126話

「コレ、私に?」


 念のため横のケータに確認すると、小さく頷いてくれた。向かいに座ってるサトコの視線がビシバシ突き刺さるけど、そんなの全然気にしない。


「ハルカ、誕生日6月だろ?ボクらがここファーラスに召喚されてもうすぐひと月だから、そろそろだと思って」


 うそっ!ケータ覚えててくれたの?私自身、カレンダーもないし、スッカリ忘れてたのに…


「前にさ、高校の合格祝い何がいいか聞いたら『誕生日のときでいいから指輪が欲しい』て言ってただろ?」


「え…ウソ!これ指輪!?」


 私は紙袋を覗き込んだ。中には包装された小さな箱が入っている。


「開けてもいい?」


「うん、モチロン」


 ケータが頬を赤らめながらニッコリ笑う。


 私は小箱の包装を丁寧に開けると、折りたたんで紙袋に仕舞う。中から出てきたのは、いわゆる「パカッ」と開く指輪ケース。ヤバイ、心臓が飛び出そうなほど暴れ回ってる。


 箱を開くと銀色の指輪が入っていた。ピンクのハートの小石が四葉のクローバーのようにデザインされている。


「わー、可愛い指輪ですね。ハルカさんだけズルイです」


 突然背後からルーの声がした。驚いて声のした方に顔を向けると、私の肩越しに覗き込んでいた。それから食卓の向かいに移動すると、サトコの隣の席に腰を下ろす。


「私は来月ですよ、ケータお兄ちゃん!」


 ルーがケータに目を向けてニッコリ笑った。


「わ、私9月!9月だよ、ケータくん!」


 サトコも身を乗り出して宣伝する。


「まだ過ぎてなくて良かったよ、安心した」


 ケータは頬をポリポリ掻きながら、顔を真っ赤に染めた。


 あー「皆んなが好き」てこういうコトか。私は本当の意味でやっと理解した。ケータからのアプローチを独占するのは難しいようだ。


 まぁでも一番乗りってのは、やっぱり気分がいい!私は思わず「フフン」と勝ち誇った。


 あ、でも、ちょっと待って…。ケータはどうやって指輪のサイズを調べたの?見ただけで分かるとか、そんな百戦錬磨の強者でもないのに!?


「ケータ、私の指のサイズどうやって調べたの?」


「何言ってんだよ、ハルカが自分で教えてくれたんだろ?」


「え…?」


 ちょっと待って!言ったっけ?確か、合格発表のあと…


「あー、言った!私、言った!」


「だろ?」


「え、まさか…そのサイズで作ってくれたの?」


「当たり前だろ!それしか知らないんだから」


 ケータの答えを聞いて、私は耳の先まで熱くなるのが分かった。


 これが現実だなんて信じられない。夢なら醒めないで欲しい。例えホントに貰っても、一生人前ではつけられないと思ってたのに…今なら、ちゃんとつけられる。


「どうせなら、ケータから私の指につけて」


 私は指輪の箱をケータに渡すと、両手の指を差し出した。


「つけて…て、どの指だよ?」


「どの指だと思う?」


 ちょっと意地悪く笑う。


「ヒント!私は何歳になったでしょう?」


 ソレを聞いて、ケータがハッとした表情になる。続いて「ボン」と顔中真っ赤になる。


「お前、まさか…?」


 言いながらケータは私の左手をとる。それからゆっくりと、私の薬指に指輪をつけた。


 ピッタリだった。途端にケータの脳天から湯気が噴き出した。どうやら限界に達したようだ。


「正解!ありがとう、ケータ。ホントに…本当に嬉しい!」


 私はケータに抱きついた。もはや半分抜け殻のケータは、私にされるがままになっていた。


 私、やっと…やっと16歳になったよ!とうとうケータと結婚が出来る年齢にたどり着いたんだよ!


「ハルカさー、そろそろ現実見て大人になったら?」


 そのとき私の余韻を切り裂くように、サトコの視線が突き刺さった。









   ~~~


 補足


 婚姻年齢は2019年現在の制度です。



 新法案が可決される頃にはハルカも18歳を超えますので、まあそこはOKてことでお願いします。

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