第36話

 サトコは銀狼にステッカーを貼り付けると、スマホで「ギン」と登録した。すると銀狼はピンクの光に包まれ、身体に染み込むように光が収まっていく。


 ボクらが見守っていると銀狼が夢遊病のようにムクリと起き上がり、大きく開いた口から紅い光を吐き出した。その紅い光は、すぐに大きく紅い結晶へと姿を変える。しかしその紅い結晶も、一瞬で姿を消した。


 同時にハルカのスマホが「ピコン」と鳴った。


「なんか今のが、『大型魔核』だったみたい」


 ハルカがスマホを見ながら、呟いた。


 次の瞬間、銀狼が跳ね上がり後方宙返りをした。


「オレ様はギン!何かあったら頼ってくれてイイぜ、サトコ」


 スルドい牙がキラリと光る。


「な…な……」


 ハルカとサトコの態度が、なんだかおかしい。ギンを見ながらワナワナと震えている。


「何コイツ、カワイーーー!」


 ハルカが飛びつき、毛並みをモフモフした。


「コ、コラ、やめろ!オレ様に気安く触るんじゃない!」


 ギンは必死に抵抗し、ハルカの拘束から逃れようとしている。


「ダ、ダメ…なの?」


 サトコも「ハァハァ」言いながら、ギンを見つめていた。メガネの奥の瞳が完全にイッている。


「ぐ…。サトコが言うなら、仕方がない…」


 ギンが折れた。


 次の瞬間、ギンはふたりの少女に揉みくちゃにされた。


「コ、コラ、ちょっとは加減しろ!聞いてるのかっ!」


 ギンの悲痛な叫びが木霊する。


 ボクは目立つといけないので、カリューをいつも通り10分の1に縮小した。


   ~~~


「なんだなんだ。撒き餌の反応が消えたから、さぞかし大軍が現れたのかと思ったが、誰もいねーじゃねーか!」


 突然、上空から声がした。


 その瞬間、今まで揉みくちゃにされていたギンが強引にハルカとサトコから脱けだすと、前傾姿勢で空に向けて「グルル」と威嚇した。


 ボクたちも釣られて空を見上げる。


 何者かが空中に


 朱色の皮膚に白い頭髪。髪はひとつに束ねられ背中に届いている。上半身は裸で、下は白い長ズボンを履いていた。前髪の生え際から黒いツノが一本突き出ており、背中には蝙蝠のような飛膜の羽が生えていた。


 その男は何もない空中を、左手で下から上にスワイプさせた。すると引っ張り出されたように、そこに画面が現れた。


 ボクは瞬時に理解した。


 ボクらとは技術体系が異なるが、ハルカに聞いていた「アッチ側の勇者」だ!


「んーいるなー。人間が2匹に獣が2匹」


 男は画面を見ながら呟くと、スルドく吊り上がった目で足下のボクらを見下ろした。


「数が合わねーな?状況はよく分からねーが…」


 男は右の手のひらを、天に向けて頭上に挙げた。同時に「炎の短剣」が多数出現する。


「オマエら死んどけ!」


 男は右手を振り下ろした。


「ハルカ!」


 ボクは咄嗟に叫んだ。しかしボクの声より先に、ハルカ自身が反応していた。両の手のひらを空に向けて突き出し、結界を張って全ての攻撃を防いだのだ。


「私のはケータを護るためにあるんだから、任せなさいって」


 ハルカが可愛くウインクする。


「お、おう。助かる…」


 なんだかハルカが急に可愛く見えて、ちょっと困る。


「サトコもついでに護ってあげるから、離れないでよ」


「あ、ありが……て、ついでって何よ!」


 サトコが顔を真っ赤にして怒鳴る。仲が良いんだか悪いんだか、分からないな。


「思ったより、やるなー」


 男が感心したように、ボクらをマジマジと見た。


「お?その白い服…」


 男が再び、画面に目を向ける。


「やっと、お出ましか。ただの人間を相手にするのも、いい加減飽きてたからな。…しかも過去に1例だけ?超レアモノじゃねーか!」


 男は興奮した。


「頼むぜー。オレを愉しませろよー」


 男は再び、右手を天に向けた。

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