第4話 1号君、初心者用ダンジョンへ出陣だぜ!

 俺の異世界初の戦車造りが終わったその日の夜。俺は父ちゃんと母ちゃんにとあるお願い事をしてみた。


「父ちゃん、母ちゃん、ゴブリン狩りに行きたい!」


 そう、折角対ゴブリン戦を想定して1号君を作ったのだ。どうせなら実戦に行きたいと思うのは、男なら当然だろ? ちなみに数いるモンスターの中でも、なんでゴブリンなのかといえば、どうやらこの街の近くにも、ちょこちょこ出没するらしいからだ。これは父ちゃん母ちゃんも想定していたようで。


「ああ、いいぞ」

「ええ、いいわよ。ただし、条件があります」

「条件?」

「ええ、母ちゃんも一緒に連れてってね」

「母ちゃんも? 別にいいけど、俺の1号君には母ちゃん乗れるかな」

「私は荷台でいいわ。アイアンちゃんが1人でゴブリンを倒せるのか、その辺を見守りたいの」

「そういうことならいいぜ!」

「あと、出発は明後日な。明日はお前の1号君の性能の確認をもっとじっくりやりたい。アイアンもゴーレムを使っての1人操縦の練習をしないとだろ? あとは、追加装備をいろいろと増やすぞ!」

「確かに父ちゃんの言うとおり、ゴーレム使っての練習は必須だな。追加装備か、そいつは楽しみだな!」

「がっはっは、そうだろそうだろ!」


 1号君の完成の翌日、俺はゴーレムに運転を任せて、ガンナーとしていろいろな練習をした。ゴーレムに前進と思念を伝えれば前進し、後進と念じれば後進するように、人馬一体ならぬ、ドワーフゴーレム戦車一体を目指して訓練した。


 父ちゃんも新装備をいろいろとつけてくれた。中でも周囲300mのモンスターの反応を教えてくれるレーダーは便利そうだ。この世界の生き物はドワーフもモンスターも問わず、すべての生き物は魔力を持っている。神様もどきの言っていた魔力体ってやつだな。そして、恒温動物が赤外線を発するように、モンスターは魔力をわずかに放出しているらしい。モンスターやドワーフはそれぞれ種族固有の魔力波長があるとかで、それのデータベース化も行われてるんだとか。そのため、周囲の魔力を感知して表示する、対魔物レーダーというものがあるようだ。そしてそれを父ちゃんはおれの1号君に付けてくれた。それだけじゃねえ、他にもいろいろ付けてくれたが、残りは後のお楽しみだぜ。


 そしてついに、この日がやってきた。俺の1号君、出陣の日だ! 今日の俺のは、この晴れの日にふさわしい、ヘルメットに迷彩服という完全装備に身を包んでいる。


「アイアン、準備はいいか?」

「おう!」

「睡眠は?」

「ばっちりだぜ!」

「体の不調は?」

「一切無いぜ!」

「魔力は満タンか?」

「当然だぜ!」

「え~っと、それから」

「あなた、そんなに心配なら付いてきますか?」

「いや、それはだめだ。俺はアイアンを信じて待つことに決めたんだ!」

「なら、もういいでしょう?」

「あ、ああ」

「アイアンちゃん、行くわよ」

「おう、父ちゃん、行って来るぜ!」

「おう、気をつけろよ」


 こうして、父ちゃんと別れ、俺と母ちゃんは家を出た。倉庫に向かって1号君を取り出す。父ちゃんが燃料タンクをフルチャージしてくれただけじゃなく、15mm機関銃の弾もたっぷり用意してくれたため、1号君も心なしかうれしそうだぜ。俺は車体中央へ乗り、ハッチから上半身を出す。そして、土のゴーレムを車体前方の運転席へ乗せる。母ちゃんは車両後方の荷台に乗った。


「じゃあ、母ちゃん行くぜ!」

「ええ、いいわ」

「行くぜ、相棒!」


 ゴーレムに合図を出して、1号君を発進させる。家の敷地を出て、止まった。そう、俺は街の中くらいは父ちゃんや母ちゃんとお出かけしたことはある。だけど、行ったのはお店とかだけだ。街の外、ゴブリンのいる場所なんて、そういえば調べたことはなかった。


「なあ母ちゃん、ゴブリンって、どこにいるんだ?」

「そうね、北門に向かいましょうか。北門の先にある、初心者用ダンジョンに今日は行きましょう」

「わかったぜ!」


 俺は道路をすいすい進んでいく。運転免許はドワーフの国にはないようだ。馬車とかが走る道路を、まったり進む。そして北門に到着した。北門は朝から様々な武器を持ったハンター風のドワーフでいっぱいだ。荷物運びようの大きなトラック型の魔道自動車も結構並んでいる。みんな街から出る手続きをしているようだ。俺達もその列に並ぶ。


「北門からは山岳地帯に行けるんだけど、そこにいろいろなダンジョンがあるの。だから、ハンター達からも人気があるのよ」

「へ~、じゃあ俺達の行く初心者用ダンジョンにも、行く人がいるのかな?」

「ん~、それは無いかな~。初心者用ダンジョンは本当の初心者向け、大人が行くことは少ないわね。基本的には、子供がお小遣い稼ぎに行くことが多いのよ」

「じゃあ、同い年くらいの子がいるかもってこと?」

「ええ、もしかしたらいるかもしれないわね」


 こうして俺と母ちゃんが他愛も無いことを話していると、俺達の順番になった。


「次の方どうぞ」


 母ちゃんが荷台から飛び降り、カードを見せながら門番に挨拶する。俺も一緒に飛び降りる。


「おはよう」

「おう、エメラさんじゃないか。めずらしいな」

「ええ、お久しぶりね」

「それにしても変わったもんに乗ってるな。魔道自動車か?」

「そうよ、この子が作ったのよ」

「ほう、この年齢でか? そりゃすげえな」

「そうでもないさ。父ちゃんにだいぶ手伝ってもらったしな」


 門番のドワーフはこちらを向いてくる。


「そんなことねえよ、坊主。これだけのもん、俺には作れねえからな。おっと、俺は門番やってるグラファイトだ。よろしくな」


 名前の通りの真っ黒の髪と目と髭をしたドワーフだった。背は150cmくらいだろうか、父ちゃんと同じくらいだ。グラファイトは身をかがめて手を差し出してくる。俺も手を出して握手しながら挨拶する。


「アイアンオア。アイアンって呼んでくれ、こっちこそよろしく!」

「おう! じゃ、確認OKだ。2人とも気をつけてな。アイアン、母ちゃんの言うことちゃんと聞くんだぞ」

「もちろんだ!」

「ありがとう。それじゃあまたね」


 こうして北門を出た俺達は、道なりに進んでいく。しばらくすると、初心者用ダンジョンこちらという看板が、道路の左にわざわざ立っている。その看板の通りに進むと、すぐにダンジョンの入り口が姿を現す。ダンジョンの入り口は馬鹿でかい洞窟の入り口のようになっている。


「ここが初心者用ダンジョンか、結構入り口が大きいんだな」

「ええ、内部もかなり広いわよ。強いモンスターのでるダンジョンほど広いから、気をつけてね」


 ダンジョンの通路は、馬車2台が余裕ですれ違えそうな広さだ。1号君なら3台は並べそうな広さだな。


「地図は持ってる?」

「ああ、持ってるぜ! 父ちゃんが用意してくれたからな、見やすい場所に貼っておいたぜ」

「じゃあ、いきましょうか!」

「おう、出発進行だぜ!」


 ドライバーゴーレムに制御用魔法を飛ばして出発する。俺はハッチから上半身を出すのをやめて、キューポラから外の様子を見ながら進んでいく。不思議とダンジョンの中は明るい。ゲームとだと当たり前なんだけど、現実としては不自然だ。


「母ちゃん、なんで洞窟っぽいのに明るいんだ?」

「そういうもの、としか答えられないのよね。ダンジョンにはいろんなタイプがあるんだけどね、どんなタイプのダンジョンであっても、外と同じ明るさなの。ここみたいな洞窟タイプのダンジョンだと、床や壁、天井の岩石の一部に、外の明るさと同じ強さの光を発する岩石が一定数混ざってるみたいなのよ」

「不思議だけど、暗いよりはいいな!」


 まあ、実際明るいのは都合がいい。暗闇の中をライトをつけて走るのもかっこいいっちゃかっこいいがな。そして、俺は快調に飛ばしていく。折角の戦車なのだ、ちまちま進むより、ぐんぐん進みたくなるのが男心というものだ。父ちゃんからもらったレーダーもあるしな。流石に壁の向こうのモンスターがわかったりはしないようだが、通路の前方にモンスターがいれば、例え曲がり角の向こうにいても反応してくれるらしい、なかなかの優れものだ。


 そしてさっそく反応があった。反応があったのはこの通路の先、広場みたいになっているところだ。数は3、種類はゴブリン。図鑑で見た事があるだけだが、身長100cmくらいで、頭が大きく見た目は醜悪。体色は周辺環境で変化するらしく、森に住んでいると緑に、洞窟にいると茶色になるようだ。小さい見た目どおりパワーもなく、1対1なら成人にはまず勝てない。ドワーフなら同じくらいの背の子供でもパワーで勝てるはずだ。個々の能力は弱く、少数なら脅威ではないが、巨大な群れを作ると非常に強くなる。戦いは数だよ、を地でいく、そんなモンスターだ。よって、3匹ならそこまで脅威ではないはずだ。


「母ちゃん、ゴブリンの反応だ。3匹」

「わかったわ。気をつけてね。確実に殺すまで、油断しちゃダメよ」

「ああ、わかったぜ」


 俺は機関銃を構えながら、ドライバーゴーレムにゆっくり進むように指示を出す。そして、部屋に近づくと、ゴブリンを視界に捕らえた。武器は3匹とも棍棒持ちのようだ。距離は30mくらいだろうか。俺は躊躇無く引き金を引く。15mm機関銃から銃弾が大量に発射される。


 タタタタタタタタッ


 15mm機関銃から放たれた銃弾は、見事に1匹目のゴブリンを蜂の巣にする。2匹目と3匹目のゴブリンもこちらに気づいた。俺は容赦なく銃口を残りのゴブリン達に向け。タタタタタッっと発射する。発射音が静かになっているのはサプレッサーのおかげだ。洞窟型ダンジョンの内部で、大音響は不味いということで、父ちゃんが付けてくれた追加装備だ。サプレッサーが大きくてちょっと機関銃が長く太くなっちゃったが、それはそれでかっこいいのでいいとしよう。


 それにしても見事にスプラッタだ。撃ちすぎだろって? 俺も最初はそう思ったさ。でもよ、俺にすら効かないらしいんだぜ? この15mm機関銃。地球のそれと同じ威力なのかはわかんねえけど、ゴブリンに効かなかったらどうしようかと思っちゃったわけさ。だから、つい撃ちまくっちゃったぜ。


 精神的には平気なの? って思うかもしれないが、ぜんぜん平気だ。昔はゾンビを撃ち殺しまくったりしてたからな。まあ、ゲームの中でだけど。それに、こっちに来てから、俺がいつも見ている時代劇があるんだが、モンスターを切り殺すシーンとかが、がっつり生々しいんだよな。なので、これも見慣れた光景だ。


「やったのかな?」


 ゴブリン達はぴくりとも動かない。


「ええ、そうね、死んでると思うわ。だって、原型が残ってないもの。ちょっとまっててね」


 そういうと母ちゃんはゴブリンの死体に近づいていく。そして、ミニ宝箱のような箱をゴブリンの死体の前で開けると、すぐに閉じて戻ってくる。


「おまたせ」

「今何してたの?」

「この箱にね、死んだモンスターの魔力体を回収してたの」

「モンスターの魔力体を回収するの?」

「ええ、そうよ。モンスターを倒すとね、体は死体になって残るけど、魔力体は一部は死体にくっついたままだけど、一部は自然にもどっちゃうの。それで、自然に戻る魔力体をこれで回収していたの」

「そんなものどうするの?」

「ハンターギルドに売れるのよ。それで、ハンターギルドは街に売るの。そうして街に売られた魔力は、魔道パイプを通って、街中で利用されるのよ。お家の台所の火とか、照明の光とかね。もちろん、アイアンちゃんの1号君を動かしている燃料タンクに入ってる炎の魔力も、もとは何かのモンスターの魔力なのよ」

「そうなのか、すごいな。あと、死体はどうするの?」

「放置かな。そのうち自然界の掃除屋ことスライムちゃんが現れて、綺麗に食べてくれるわ。素材が高いモンスターなら、持って帰るのだけど、ゴブリンは素材としての価値が低いのよ。持って帰る労力を考えると、ね」


 その後も俺達はどんどん進んで行く。それにしても、出てくるモンスターはゴブリンばっかりだ。けっこう数も多い。だが、そのおかげで、俺もゴブリン狩りにだいぶ慣れてきたぜ。最初の頃はちょっとびびって、ばかすか1匹に連射しちまってたが、いまではそんなことはしなくなった。1ゴブリンにつき3発で仕留めてるぜ。


「ここって、ゴブリン以外はでてこないの?」

「そうよ、ちょっと飽きちゃうけどね。でも気をつけてね。このダンジョンは4層構造なんだけど、奥の2層には、ゴブリンの上位種、ゴブリン10人隊長がいるからね」

「ゴブリン10人隊長か~、図鑑で見たことがあるけど、部下を10人連れてるんだよな」

「ええ、そうよ。普通のゴブリンを10匹引き連れてるわ。でも一番注意しないといけない点は、本体も130cmくらいあって、ちょっと大きくて強いのよ。だから、ゴブリン10人隊長が、他の雑魚ゴブリンみたいに、あっさり死ぬとは思わないほうが良いわよ。とはいえ、勝てない相手じゃないからね。どんどん進みましょう。それから、リーダーがいるゴブリン達は、なぜか装備がよくなるのよね。だから、雑魚もちょっとだけ強くなるの。でも、10人隊長程度だと、ほんのちょっとだから、それは気にしなくてもいいわ」


 そして、普通のゴブリンしかでない1階層と2階層をなんなくクリアした俺達は、ついに3階層フロアに突入する。


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