第92話 バトル大会未就学児部門10だぜ!

『会場にお越しの良い子のみんな~! ついに、ついに今日最後の種目、ランク5の戦いがはっじまっるよ~! ここまでたどり着くことが出来た子はたったの9人! パーティー数だと3組だ~!』

「「「「「うおお~!」」」」」

『ここまでたどり着けなかった子の方が多いと思うけど、気にすることはないぞ! まだまだ君たちは伸び盛りだ! 特に身体強化魔法が得意な子達は、体が育っていない就学前という年齢制限での勝負は厳しかったと思う。でも、本当に気にすることはないぞ、よい子のみんな! かの伝説の瑠璃翠の瑠璃さんだって、強くなったのは学校を卒業するくらいの年齢から、劇的に強くなったのは卒業後のヒポドラゴンとの戦いの中でと言われている! え? 翠玉さんはどうだったのって? あの人は良くも悪くもミステリアス! その強さの詳細等、謎多き女なんだ! 私も知らないぞ! とにかく、私が言いたいのは、今日負けたことは悔しい思い出として心にとどめて、未来へ向けて歩いてほしいってことだ! 可能性は無限大なんだからね!』

「「「「「司会者~!」」」」」


 おお、司会者さんなかなかいいこと言うな。にしてもラピおばちゃん、エメラは生まれた時からあほみたいに強かったって、そんな大声で言ってたら正体ばれちゃうぞ。


『とはいえ、現時点での強い子を見ることにも十分に意味がある! みんな心して応援してくれ! それでは、ただいまより、ランク5の試合の開幕だ~!』

「「「「「うおお~!」」」」」

『では、早速第1試合を行うよい子の発表だ! 第1試合を行うのは、ランク4モンスターゴーレムを、圧倒的なはやさで撃ち破ったパラージライトからの刺客! ジンク=カーター! アンド、アイアンオア=スミスのコンビだ~!』

「「「「「うおお~!」」」」」


 そう俺とジンクはまさかの初戦にあたっちまったんだぜ! ま、ランク5に挑むのは3組だけだったから、3分の1の確率だったわけだが、ちょっと緊張しちまうよな!


「アイアン、行くぜ!」

「おう!」


 そして、俺とジンクは会場へと足を進める。


「「「「「がんばれ~!」」」」」


 へへへ、なんかここまでの大歓声に応援されちまうと、ちょっと照れちまうな。


『対する対戦相手はこの4人。武装ゴーレム部隊からランク5の軍人が操る武装ゴーレムと、装備研究所から試作型戦闘用魔道自動車だ~!』

「「「「「ぶ~ぶ~」」」」」

「何考えてんだ~!」

「子供2人に大人4人ってきたねえぞ~!」

「そうだそうだ~!」


 観客からブーイングが巻き起こるけど、俺もそう思う。なんで2対4なんだよ!


 そんなことを思っていたんだけど、登場した試作型戦闘用魔道自動車を見て、俺は言葉を失った。なんだよこれ、象さんじゃねえか! ドイツの象さんじゃねえかよ!


 そう、シュタールの乗ってる虎さんのバージョン違いの奴を駆逐戦車に改造した、あの象さんだよ!


『ジンク君、アイアンオア君、今までと違ってランク5の相手は初見だからね。今からちゃちゃっと作戦を相談しちゃって~! 準備できたら教えてね!』


 流石にこっちばかり一方的に手の内がバレてる状況での戦闘は、フェアじゃないって言う事で、対戦相手が出てきてからの作戦タイムが認められている。なので、通信を開いてジンク、母ちゃん、ラピおばちゃんと作戦会議だ。


 ちなみに、親からのアドバイスは試合中でもありなんだぜ!


「おいアイアン、あの戦闘用魔道自動車、どんな感じの物かわかるか?」


 どんなものかわかるかって? 有名だからもちろん知ってるぜ。なにせ特徴的な駆動方法を採用してるからな。


 普通の戦車は車と一緒で、エンジンの力でクローラーを動かすんだが、象さんはエンジンで発電してモーターでクローラーを動かすっていう、ガス・エレクトリック方式を採用していた戦車なんだ。第2次大戦の頃に電気自動車なんてあったの? って思われるかもしれないけど、電気自動車って、第1次世界大戦よりも前、1900年のパリ万博の時に展示されてたくらいだから、結構古いんだぜ。


 おっと、ちょっとだけ脱線しちまったぜ。中身が特徴的な戦車っていうか重駆逐戦車なんだけど、目の前のやつの中身はきっと魔道エンジンだろうからな。ここはあくまでも戦う上でのポイントだけジンクに伝えればいいか。


「俺が知ってる戦車と同じ構造なら、2号君より砲も装甲も強力だ。まず、砲はシュタールのカノーネ88に搭載されている8、8cm砲の砲身を、更に長くして初速を上げた強化版だと思ってくれ。んで、装甲なんだが、正面は200mmの厚さがあったはずだ」

「200mmって、マジかよ? 俺の盾の倍も厚いじゃねえか」

「ああ、その通りだ。おまけに敵の数は全部で4人だろ? 武装ゴーレムに複数乗りなんて聞いたことねえから、あの戦車に3人乗ってるはずだ。つまり、シュタールみたいにガンナーが魔法大砲、ドライバーとローダーが装甲への金属強化魔法って役割分担をしてくるだろうぜ」

「つまり、使える魔力の合計はアイアンの3倍ってことか。だとすると、正面切っての戦いでは不利だよな?」

「悔しいがその通りだぜ。本来2号君は屋根がないことからくる視認性の高さと、軽量ボディからくる足の速さを駆使して、先に敵を見つけ有利な位置から一方的に狙撃するための戦車だからな、そもそもこういう狭いところでの戦闘には向かないんだよな」

「そういやそうだったな。じゃあ、勝ち目はないってことか?」

「いや、敵にも付け込める欠点がある。敵の戦車はその巨大な大砲と強力な装甲を使って正面戦闘をすることに特化した戦車なんだが、それ故に移動速度が遅い。しかも2号君みたいに回転式の砲塔を持っていないんだ。つまり、向こうは向こうで接近戦向きじゃないってわけだ」

「なるほど、砲塔が旋回しないってことは、横を取れれば車体の旋回でしか砲をこちらに向けられないってことか」

「ああ、しかも車体の旋回性能も低いから、横を取れればそれだけで勝てる可能性は高いぜ。他にも、別に車両そのものを壊せなくても、クローラーさえ破壊できれば、無力化できるしな。あとは、外すリスクもあるが、この距離だからな、敵の主砲にこっちの砲弾を叩きこむって手もあるな」

「なるほど、つまり奴の初撃を俺が防げば、十分勝機はあるってことだな」

「そう言う事だ、頼んだぜジンク!」

「ああ!」


 俺とジンクがそんな風に作戦会議をしていると、母ちゃん達も参戦してくる。


「あのね、アイアンちゃん。そんなことをしなくても、正面装甲をど~んってやっちゃえばいいの」

「え? それじゃあ通用しなくないか?」

「アイアンちゃん、よく見て敵の戦車、ただの鉄製なの。ミスリル製のぴかぴか弾を防ぐことは不可能に近いの。それと、大砲も鉄製なの。だから、敵がミスリル弾を撃ってくる可能性も低いの、撃ってきたとしても性能を引き出せないの。ジンク君なら余裕で防げるの」

「あたしも同感だね。あの戦車、装備研究所の試作型戦闘用魔道自動車って言ってたけど、ただ倉庫に眠ってただけの骨董品じゃない? それに、戦車に乗ってるのだって、正規の軍人じゃなくて、装備研究所の研究員じゃないかな。たぶん、このランク5の戦いのコンセプトから、無理やりこちらに合わせようとした結果だろうね」


 なるほど、武装ゴーレムと戦車のコンビである俺とジンクに向こうも同じ編成で合わせようとしたってことか。双眼鏡でより子細に観察すると、確かにあっちこっちに埃や錆が見える。まじで骨董品で俺の2号君に挑もうとしたってのかよ。なんか、ちょっとだけムカついてきたぞ。


「ジンク、こうなりゃ速攻でぶっ潰して、本物の戦車の強さってのを思い知らせてやろうぜ」

「ああ、そうするか!」


 対武装ゴーレム戦の想定はバッチリしてるし、なんなら母ちゃんのゴーレムと日々戦いまくってるからな、そっちは今更対策なんてしないぜ。


 そして、俺とジンクが司会者さんに、作戦会議終了準備おっけいと伝えようとした時、空から1機の武装ゴーレムが降ってきた。


 ズッド~ン!


『この勝負、ちょっと待ってもらおうか』


 この声、あのカバ頭の武装ゴーレム。間違いない、乱入者はパパラチアさんだ!


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