第91話 バトル大会未就学児部門9だぜ!

「よう、どうやら、情けないところを見せちまったようだな」


 シュタールは戦いが終わり会場から去った後、はわざわざ俺達に会いに控室に来てくれた。


「お疲れシュタール、惜しかったな」

「そんなことないさ、何発も耐えてたじゃん」


 ジンクと俺はそんなシュタールの健闘を称える。


「サンキュ、でも、耐えれたのは俺の功績じゃねえよ。俺は魔法大砲に専念してたからな、防いだのは一緒に乗っててくれた他の二人のおかげだ」

「そ、そうだったんだ」


 う、ちょっと失敗したぜ。


「よ、シュタール。なかなか粘ったじゃん」

「あれ? ベリルさん?」

「私達もいますよ」

「私もいる」

「わたくしもおりますよ」

「おお!? なんでみんながいるんだよ?」


 シュタールは俺とジンクがいることは、2号君と武装ゴーレムおかげかすぐわかったようだったが、ベルちゃん達がいることには気付いてなかったようだ。っていうか、みんなであえて隠れてたっぽいな。


「アイアン君とジンク君の戦いが終わった後、あたし達が声を掛けたんだよ」

「そうだったのか」

「あたしらだってシュタールとプロンが二人と知り合いって知って世の中狭いっておもったんだよ?」

「ははは、違いないな。ちなみにアイアン、ジンク、前に言った同じ道場のめっちゃ強いやつってのは、ベリルさん達のことだぜ」

「おお、そうだったんだ。でも、確かに強かったよな」

「とはいっても、俺としてはベリルさん達ともかく、アイアン達があっさりランク4を突破したことの方が驚きだったんだがな」

「まあ、今年は絶対勝つ気でいたしね」

「俺とジンクはランク5に勝って、豪華賞品ゲットが目的だからな。こんなところで負けるわけにはいかないんだぜ!」

「アイアン、お前ランク5に勝つつもりだったのか?」

「ああ、もちろんだぜ。シュタールやベルちゃん達だってそうだろ?」

「いやあたし達はランク4突破狙いまでだよ。ランク5ももちろん勝負は挑むけど、っていうかシュタール、あんた教えてあげてないの?」

「いや、俺もそのくらいのことは知ってるのかと思ってよ」


 なんだ? 豪華賞品ってもう決まってるの? パンフレットには豪華賞品とだけ書いてあって、具体的に何かは書いてなかったんだけど。


「もしかして、豪華賞品ってもう決まってるのか?」

「いや、違うんだよ。これもプロンの兄さんと姉さんから聞いた話だからあくまでも噂話なんだけど」

「なんだけど?」

「ランク5は、高ランクの軍人と戦えるっていうその事実こそが豪華賞品で、勝っても何も出ないっていうか、勝つことなんてほぼ不可能って話らしいぞ?」

「へ?」

「いや、だからな。ランク5の試合ってのは、めっちゃ強い軍人が出てきて、参加者により高レベルな試合をっていうか、技なんかを、こう見せてな、教えてくれるっていう試合らしいんだ」

「んじゃあ、勝った時の豪華賞品は?」

「だから、戦うことそのものが豪華賞品だ。だから無いっていわれてる」

「んなバカな! ベルちゃんそうなの?」

「ん~、一応そう言われてるな」

「私の知っている範囲では、未就学児部門でランク5を突破出来た子はおりません。過去に圧倒的な実力でランク4を突破したプロンさんのお兄さんお姉さんの時ですら、ランク5で出てきた軍人さん相手には完全に勝ち目のない試合だったそうですよ」

「そもそもその時の戦いで出てきた軍人はランク6だったって噂。つまり、ランク4までの戦いを見て、出てくる相手が決まるって言われてる」

「むむむむむむむ!」

「まあ、アイアン達が倒しちまえばいいんじゃね? 流石にアイアン達が勝って、豪華賞品がないとかは言えないはずだから、急遽でも用意するだろうぜ」

「それもそうだな! うん、そうするぜ!」

「それはそうとよ。アイアンとジンクのランク4の戦いを見て思ったんだが、パラージの街って、アイアン達クラスの奴がいっぱいいるのか?」

「あ、それはあたしも気になるな」

「私もです!」

「私も」

「う~ん、どうなんだろ? 俺、同年代の友人はジンクしかいないから知らないんだよな。お~いジンク」


 んったくジンクの野郎、ちょっとでも時間があれば、即二人で甘々空気を作り出すな。こっちも見てらんないぜ。


「なんだアイアン?」

「ジンクって、パラージの街の子供が強いかって知ってる?」

「この街と比べてってことか?」

「ああ」

「わたくしも興味ありますわ。よかったらジンクさん、教えてくださいませんか?」

「アクアが知りたいならもちろん構わないが、正直俺もその辺のことは詳しくないんだよな」

「でもほら、ジンクって俺よりは友達多いじゃん」

「そりゃあアイアン、俺はアイアンと比べると家の手伝いもするし、買い物とかによく行くからな。そのおかげで知り合いも多いっってだけだぜ? ただそこまで多いわけでもないんだよな。しかも俺の家は家名の通り馬車屋だろ? 知り合いも必然的に戦闘好きっていうよりは、生産職の家の子が多くなるんだよな」

「待てジンク、それじゃあまるで俺が手伝いをしてねえみたいじゃねえか! ここに来る前なんて、家の手伝いどころか、ジンクの家の手伝いまでしてたっていうのによ!」

「すまんアイアン、ちょっといい間違えたな。家の手伝いの中でも、買い物とかそっち系だ。買い物にでかければ、同じく買い物に来た同年代の他のやつに会う機会もあるだろ? でも、タングおじさんの仕事手伝ってたって、同年代の知り合いは増えないぜ?」

「う、ま、まあな」


 う~ん、そう言われるとそうだな。俺のしてるお手伝いって、父ちゃんの仕事の手伝いか、母ちゃんの畑の手伝いがメインだから、ぜんぜん人に会わないんだよな。自称気難しい鍛冶屋の父ちゃんの仕事場に入ってくるのなんて、基本母ちゃん、時々ガリウムのおっちゃんだし。母ちゃんの畑も似たようなもんだな。でも、俺だって母ちゃん関連の知り合いはそこそこいるんだぞ! まあ、同年代の知り合いじゃなくて、母ちゃんと女子会やってるメンバーだけどさ。


「なるほどな、でも確かにそうだな。俺も道場行ってるから戦闘職の知り合いがいるけど、そこに行ってなかったら同業者の子供としか出会わなかっただろうしな」


 シュタールはジンクの説明で納得したみたいだ。まあ、シュタールも俺達と同じ生産系の家業の家の生まれだから、その辺理解があるな。


 その後は、シュタールも交えて7人でまったり見学を再開する。シュタールがランク4の負け賞品としてもらったチョコも、勝利のチョコではなかったがめっちゃ美味しかった。


 そして、ランク4のバトルがすべて終わった。結局勝ったのは、俺達とベルちゃん以外だと、武装ゴーレム3機のパーティーだけだった。


「結局、ランク4に勝ったのは俺達以外だと一組だけだったな」

「まあ仕方ないよ。この年齢だと肉体が育っていないせいで、ドワーフの得意とする身体強化魔法を駆使しての戦いが出来ないからね。例年ランク4の勝率が高いのは、戦士系じゃなくて魔法使い系なのさ。例えば、金属強化魔法が得意な、武装ゴーレム乗りって言われるタイプの魔法使いとかね」

「なるほどな~、そう言われると俺とジンクも同じだな。生身じゃあかなりきつい」


 そういえば、ジンクが武装ゴーレムに乗るようになったのも、金属強化魔法が得意だったからって言えば聞こえはいいけど、身体強化魔法で戦うには、肉体が育ち切ってなくて辛いって理由があったな。


「さ~ってと、それじゃあ、そろそろあたし達は行くよ。ランク5の準備をしないといけないしね」

「ランク4の時に装備がキズになってたと思うけど、大丈夫なの?」

「そういうのは大丈夫ですよ。この大会には、大会中の装備の修復のためのサポートスタッフもおりますので」

「下手な街の鍛冶屋よりも腕がいい」

「そっか、それなら安心だな。じゃ、健闘を祈るぜ! もし勝ったら、一緒に豪華賞品食べようぜ!」

「ああ!」

「はい!」

「ん!」


 さあってと、ようやく俺にとっての本番、ランク5の戦いだぜ!



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