第90話 バトル大会未就学児部門8だぜ!
俺達は4人仲良くその後も観戦していた。ただ、流石はランク4のモンスターゴーレムだ。勝てる子供は俺達以降全然でなかった。
「あ~、今の子達惜しかったな」
「そうかい? 重武装で耐えるっていう戦法は多少評価できるけど、ちょっと微妙じゃない?」
いま負けた子達は、全員ものすごく分厚そうなゴムの鎧を着て2本角ウサギの雷魔法に耐え、ちまちま接近しながら銃で攻撃するというスタイルだった。
「そういえば、みんなはああいう雷対策はしなかったんだな」
「あたしらも試したんだけどね~」
「はい。もっとランクの低いモンスターの雷魔法なら良かったのですが、ランク4のモンスターの操る雷魔法ともなりますと、ただ絶縁体を着込むだけでは、絶縁体をあっさり破壊されてしまうのです」
「それを防ぐには絶縁体を強化する魔法が必要。難しかった」
なるほどな~、ゴムなんかの強化用の魔法か、あれ? でも2号君の履帯ってゴム履帯だけど、俺ってば割と簡単に強化出来てるよな? 有機物ってくくりじゃ体と同じだし、ようは身体強化魔法の親戚みたいなものだろ? 簡単に出来てもいいと思うんだけど。
「絶縁体って、ゴムなら有機物だろ? 皮鎧の強化魔法や、身体強化魔法の親戚みたいなもんじゃないの?」
「皮の強化と身体強化とゴム系の強化はぜんぜん違う。それを親戚扱いするって、あり得ない」
「アイアン君、あたしもその区分は酷いと思うぞ。そもそもゴム製品と皮製品、人間の体じゃ、手入れの仕方の時点で全然違うだろ?」
「アイアン君、アイアン君にとってはその程度の認識の魔法なのでしょうが、みんながみんないろいろな種類の強化魔法を使えるわけじゃないのですよ?」
「ううう、ごめんなさい」
「バツとしてこのチョコはもらった」
「あ、じゃああたしはこれな」
「私はこれにします」
ううう、高級チョコの消費スピードがさらに上がってしまった。ま、俺の本命はこの次、軍人さんに勝ってもらえる豪華賞品狙いだからな。チョコは景気づけに全部食べちゃっても問題ない。なにより、圧倒的に食いまくってるのは、俺と母ちゃんだしな。
その後もまったりと観戦していると、シュタールの一個前の試合が終わる。
「おいジンク! 次シュタールの出番だぜ!」
「ああ、分かってるよ」
俺達参加者には誰がどの順番で出るのか、事前に知らされていたから、シュタールの出番はバッチリ把握済みだった。流石のジンクも、シュタールの試合だけは忘れてなかったようだな。甘々な空気よりも試合を見ることを優先したようだ。
「アクア、どうだ? 見にくくないか?」
「はい、とっても見やすいです。ありがとうございます」
いや、前言撤回だ。ジンクは武装ゴーレムの腕の位置を細かく調整して、二人で武装ゴーレムの腕に腰かけて甘々な空気のまま観戦するようだ。っていうか、最初はアクアマリンさんって呼んでたのに、いつの間にか呼び捨てなんだな。まあいいや、あいつらは無視だ無視。
「そういえばこの部屋って、控室の割に選手いないよな? シュタール達もいなかったし。ランク3までは結構いたと思うのに、なんで?」
「それは、みんな観客席でギリギリまで親と一緒に作戦の確認や、他の人の戦いを見ながらシミュレーションをしてるからだな。ここよりも観客席のほうが見やすいんだよ。あたしらはもう完全に勝てると踏んでたし、ランク4の一番手だったからずっとここにいたけどな」
「なるほどな~」
前の試合の人たちが完全にはけると、司会者のアナウンスと共にシュタール達が会場に現れる。シュタールはいつものカノーネ88、ドイツの6号戦車こと虎さんそっくりな戦車に乗って登場だ。シュタールは砲塔上部のキューポラから上半身を出して手を振ってるな。キューポラの横のローダーズハッチと、車体左前方上部のドライバーハッチからも同じように顔を出してるやつがいるから、そいつらがシュタールの仲間なんだろうな。
「あれ? もう1両いる?」
そう、シュタールの愛車であるのカノーネ88の後から、もう1両戦車が出てきやがったんだ。見間違えるはずがねえ、そう、俺が見間違えるはずがねえんだよ。だってあれは、ドイツの5号戦車、豹さんじゃねえか!
「マジかシュタールのやつ、あんなもんまで隠し持ってるとは、やるじゃねえか!」
「へえ、ライバルと一緒に参戦なんて、今回はずいぶん気合入ってるんだね」
「ライバルと一緒に参戦? どゆこと?」
「え~っとですね。あの後から出てきた戦車は、シュタールさんのライバルの戦車なのです。ですので、前回大会まではそれぞれ別々に出場していたんです」
「その2両が手を組んだ。ついにシュタール達も高級チョコの誘惑に負けた」
へ~、ライバル同士が手を組んでランク4の突破を狙うってか。なかなか熱い展開じゃねえかよ。シュタールと一緒に登録されていたメンバーは全部で6人。カノーネ88が虎さんと同じなら5人乗りじゃね? って思ってたら、こういうことだったのか。ってことは、それぞれ3人乗りか! 本来は5号戦車も6号戦車も、コマンダー、ガンナー、ドライバー、ラジオオペレーター、ローダーの5人乗りだけど、3人ってことは、たぶん乗員の構成は俺の2号君と同じだな。
「シュタール以外の5人のこともみんなは知ってるのか?」
「いや、知らないね。シュタールはあたしらの通ってる道場に来てるんだけど、残りの子達は来てないからね。確か、シュタールと同じ生産系のエリアの子達だったはずだよ。ま、どこまでやれるか見ものだね」
「ああ、ちょっと楽しみだぜ」
そして、ついに戦いが始まった。
2本角ウサギの初手は相変わらず高威力の雷魔法、雷球の構えだ。そしてシュタール達はシュタールのカノーネ88が前に出て斜に構えて待ち受ける。って、昼飯の角度かよ! シュタール、やるじぇねえか! 5号戦車によく似た相方の方はシュタールのカノーネ88の斜め後ろにいる。ってことは、装甲の分厚いカノーネ88に守らせて、2両で攻撃する気だな。
2本角ウサギの雷魔法に合わせて、2両の戦車が同時に主砲を発射した。
「お! やっぱ狙いは俺と同じか!」
「ダメだね。あれじゃあ通じない」
「ダメですね」
「ダメ」
え? ダメなの? 俺がそんな風に思った次の瞬間、砲弾と雷球が当たる。砲弾は俺の時同様雷球を突破、することはなくその場で粉々に砕け散った。カノーネ88の砲弾も、5号戦車の砲弾もだ! あれ? この砲弾の砕け方、こないだジンクの盾に吹っ飛ばされた時に似てる?
そして、雷球はそのままカノーネ88に突き刺さる。すると、凄まじい閃光が周囲を襲う。閃光が収まった時、カノーネ88は大きくその装甲を歪めていた。だが、なんとか耐えきったみたいだ。
「な、なんでだ? 俺のぴかぴか弾は貫通したのに!?」
「アイアン君の砲弾は、込められてる魔力量が2本角ウサギの雷魔法よりも多かったからね。それと比べるとシュタールの砲弾は、材質こそ同じようなミスリル系の合金っぽいんだけど、込められてる魔力量がだいぶ少ない。そんなんで突破出来るような甘い攻撃じゃないさ」
「シュタールの砲弾の威力は私の槍の一突きと似たようなレベル。あれじゃあウサギ本体に当たっても何十発も撃ち込まないと倒せない」
「マジで? でも、耐えることは耐えたわけだし、いけるかな?」
「耐えたことは称賛に値します。恐らくですが、攻撃役のシュタールさん以外の二人で乗り物を強化したのでしょう。ですが、そう何度も耐えれるものではないはずです」
「マジで? それやべえじゃん。シュタールファイト~!」
その後シュタール達は大砲による攻撃を継続する。だが、2本角ウサギはぴょんぴょん飛び回って狙いを絞らせないようにしてるみたいだ。くう、上下左右にああも軽やかに動かれると、大砲は当てにくいだろうな。おまけにロッちゃんが言うように当たってもそんなダメージにはなってないみたいだ。
そして、反対に2本角ウサギの雷魔法はシュタール達に100発100中で当たっていく。最初こそシュタール達は耐えていたんだけど、次第に魔力切れになったのか、カノーネ88がボコボコになっていく。カノーネ88がやられる前に5号戦車が変わりに前に出たんだけど、絶え間なく攻撃をするウサギの雷魔法の前に、5号戦車も徐々にやられていく。2両の砲弾と2本角ウサギの雷魔法の撃ち合いはしばらく続いたんだけど。
『そこまで、勝者2本角ウサギ!』
勝利したのは、2本角ウサギだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます