第93話 バトル大会未就学児部門11だぜ!

『お~っと~、これはまさかまさか、我らがヒポドラゴンゴーレム部隊のエース、パパラチア=ゴーレムマスターの登場だ~! パパラチアさん、突然どうしたのですか?』


 パパラチアさんの登場に会場もざわざわしてる。っていうか俺とジンクもざわざわしてるぜ!


『いやなに、この2人とは知り合いでね、私が相手しようと思っただけだ。本来戦う予定だった4人には悪いが、譲ってくれないか?』

『え~っと、ありがたい申し出ではあるのですが、ゴーレムマスターの称号持ちのパパラチアさんが出てくるのは、いささか問題があるかと、一応ランク5っていう体裁ですし』

『そんなものただの建前だろう? 過去にもランク5より強いやつがいくらでも出ているじゃないか。それに、言ったろう? この2人とは浅くない知り合いなのだと』

『う~ん、そうですね~。少しお待ちください。一応みんなで協議をしますので』

『うむ、構わない』


 司会者さんのもとに対戦相手のはずだった4人に加え、運営スタッフなのかな? 何人かのドワーフ達が集まって話し合いを始めた。


「おいジンク、今の内に俺達もちょっと作戦会議しようぜ」

「ああ、わかったぜ」


 俺達と司会者さん達がそれぞれ話し合いをしているなか、1人パパラチアさんはウォーミングアップをする。飛んだり走ったり剣を振ったり、意外とマイペースな人だよね、パパラチアさんって。


 でも、ウォーミングアップだけでも実力差を思い知らされるな。ジャンプをすればスタジアムの観客席よりも高い位置まで飛んでるし、走りも速い。2号君の最高速は時速100kmだけど、この速さの敵を相手に逃げながら撃つのは厳しいな。剣の一振り一振りも、俺が今まで見てきた中でも最速レベルといっていい速さだ。


 うう~ん、正直勝つのはかなりきびしくないか? これ。


 そうこうしているうちに、司会者さん達の話し合いが終わったみたいだ。


『え~、協議の結果、パパラチアさんの参加を認めることになりました! パパラチアさんの戦いともなると、観客の良い子達も興味あると思いますし、何より、挑戦者のよい子2人のお知り合いみたいですからね!』

「「「「「うおおお~!」」」」」

『そう言う訳だから、2人ともよろしく頼むよ』

「おう! 望むところだぜ!」

「よろしくお願いします!」


 会場の左右で、俺とジンクはパパラチアさんと向かい合う。


「ジンク、頼んだぜ」

「ああ、アイアンこそ頼むぜ」

「任せとけって!」


 パパラチアさんの武装ゴーレムは以前ヒポドラゴンベースで見てるからな、武装や装甲配置はある程度分かってる。というか、本人に聞いたから間違いないはずだ。


 その話が事実なら、武装はメインウェポンの長刀が1振りに、サブウェポンの短い刀が2振り、それと、遠距離攻撃用の投げナイフのような物が数本。その他にサポートアイテムとして煙幕なんかが積んであるんだそうだ。


 盾は持たないみたいなんだけど、小手の部分とかブーツの部分なんかはかなり頑丈で、そう言ったところでガードも出来るんだって。


 んで、武装ゴーレム本体の特徴としては、他のヒポドラゴンゴーレムと比べると、速度重視だから装甲はそんなに厚くないみたいなんだ。特に動きを阻害されやすい関節の装甲が薄いって話だな。つまり、俺達が付け入るスキはそこにあるってわけだな。




 対して俺の2号君の武装は76mm砲と76mmのミサイルだけだ。機関銃もあるけど、まあ、役には立たないだろう。搭載している砲弾はぴかぴか弾が10発、通常弾20発、ミサイルはぴかぴかミサイル2発と通常ミサイル2発だ。それと、スモーク弾に歩兵用の装備って具合だな。一応切り札であるG弾も2発積んでいる。


 このG弾、フランス製のHEATのことじゃないぜ? グランドファザー&マザー特製弾の略だ。つまり、父ちゃんからの手紙で俺の2号君のことを知った爺ちゃんと婆ちゃんが作ってくれた、特製の砲弾ってわけなんだ。鍛冶屋である父ちゃんの爺ちゃんと婆ちゃんが金属部分を作り、魔道具屋である母ちゃんの爺ちゃんと婆ちゃんが中にいれる火薬を作ってくれたみたいなんだぜ!


 ただこのG弾、どうやら爺ちゃん婆ちゃん達が自重なく作った一品みたいで、父ちゃん曰く、いつものぴかぴか弾のつもりで魔法を込めて撃つと、反動で2号君が壊れるから撃っちゃダメってレベルで威力があるんだって。ちょっと張り切り過ぎだよな。




 ちなみにジンクも、いつもの武装ゴーレムと見せかけて、ジンクの爺ちゃん婆ちゃん達からプレゼントされた、切り札を装備している。って言えるんならよかったんだけど、ジンクが貰ったのは貴重な回復薬らしくって、今日は出番なしっぽい。


 というわけで、俺とジンクの作戦は決まってる。いつもの母ちゃんのゴーレムと遊んでるときと同じように、ジンクが前衛、俺が火力支援だ!


『それでは、ただいまよりセントラルシティーバトル大会、未就学児部門ランク5の部、初戦を開始します! 審判さん、始めちゃってください!』

『はじめ!』


 審判さんの合図と共に試合が始まる。


 俺とジンクの隊形はジンクが俺の斜め前だ。始めの合図と同時にジンクがパパラチアさん向けて走り出す。んでもって俺は、ぴかぴか弾を発射する!


 ド~ン!


 パパラチアさんは先に動く気はないみたいだ。棒立ちで突っ立っている。これは100%当たるな! ち、動く気0なら、胴体と言わずに股関節当たりをしっかり狙っときゃ良かったな。


 俺の本気も本気、超本気のぴかぴか弾が、パパラチアさんのヒポドラゴンゴーレムに突き刺さり、そして爆発した。


「何!?」


 このぴかぴか弾の爆発の仕方、まさか、ジンクに防がれたときと同じか!? いや待て、ヒポドラゴンゴーレムがいくら強かろうと、パパラチアさんのは速度重視だって話だろ? 盾も持ってないんだし、防御出来っこねえなんてうぬぼれるつもりはなかったけど、これでノーダメージはあり得ねえぞ?


 でも、その爆炎の中から現れたのは、無傷のヒポドラゴンゴーレムだった。


「馬鹿な!」

「アイアン! 今のは頑丈な小手で防がれただけだ! 次は関節を狙え! 隙は俺が作る!」

「わかったぜ!」


 俺はすぐさま次弾を装填しながら、ぴかぴか弾に魔法を込める。


「うおおお!」


 開始と同時にパパラチアさんに向かって走っていたジンクも、パパラチアさんに十分接近し、思いっきり切りかかる。


「「何い!」」


 だが、パパラチアさんはジンクの振り下ろしを、ヒポドラゴンゴーレムの右手の、親指と人差し指の側面で挟むようにして、難なく受け止めた。


 馬鹿な! いくら武装ゴーレムの大きさが違うとはいえ、仮にもミスリルの真剣だぞ? しかも、ジンクの金属強化魔法は俺よりも上だ。だから、ジンクの武装ゴーレムの最大出力は、並みの5m級の武装ゴーレムよりも上のはずだ。それが、こうも簡単に止められるだと!?


 信じられない光景にジンクが固まっていると、パパラチアさんは軽く蹴りを入れる。本当に軽い蹴りだ。何気なく道端にあった小石を蹴る時のような、本当に軽い蹴りに見えたその蹴りは、ジンクの武装ゴーレムを軽々と10mくらい吹き飛ばした。


「おいジンク!」

「大丈夫だ、蹴りは盾で防いだ! 武装ゴーレムにも異常はない!」


 ふう、よかったぜ。そう思っていると、パパラチアさんがスピーカーで話し出す。


『まずアイアン君、君の砲弾は見事だ。ただの金属強化魔法では、ミスリルの盾でさえ貫くだろう。その年にしてはなどという枕詞なく、驚異的な遠距離攻撃手段と言わざるを得ないね。でも、愚直に正面から撃つだけじゃあ芸がない、それでは私には通じない』


 悔しいがその通りだぜ。でも、2号君は正面から撃ち合う戦車じゃないんだってば!


『次にジンク君、次は本気で切りかかってきなさい』


 いやいや、何言ってんだよ。ジンクが本気じゃなかったわけねえだろ?


『もちろん君の狙いもわかる。君はこのパーティーにおいては鉾ではなく盾だ。だからこそ自ら攻めるのではなく、アイアン君が攻撃をする時間と隙を稼ぐことを重視しているのだろう? だから、攻撃時にも常にいつでも防御できるように、かなり防御よりの魔力の使い方をしている。だが、そんな遠慮は不要だ。全力で攻撃してきなさい。こちらから攻撃する際は、君が防御できるよう調整してあげるから』


 むむむむむむ。さっき聞いたランク5の試合の趣旨からすれば、こういう試合になるのはしょうがないのかもしれないし、向こうの方がこっちよりはるかに強いのもわかっちゃいたけど。わかっちゃいたけどさあ。こっちはランク5を突破して豪華賞品ゲットが目的なんだっての!


 母ちゃん達も無線の向こうで文句を言ってる。私のゴーレムちゃんなら一撃なの! とか、あたしが出て行って切り刻んでやりたいとか、物騒すぎるぜ。でも、二人の手を借りるわけにはいかないしな。


「おいジンク」

「ああ、分かってるよアイアン。向こうの方がはるかに格上だ。提案を断るよりも、提案に乗って油断させて、一気に叩こうってわけだろ? いいぜ、乗ってやるよ」


 奇襲でも何でもないところで油断なんて、する方が100%悪いんだ。そのヒポドラゴン、母ちゃん達みたいにぶっ壊してやるぜ!


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