第94話 バトル大会未就学児部門12だぜ!

「うおおお!」


 俺とジンク対パパラチアさんのバトルの第2ラウンドは、ジンクの攻撃から始まる。先ほどの言葉に甘えて、ジンクは攻撃全振りの攻撃だ。


 さっき蹴られて開いた距離を、ジンクは全力で走って距離を詰めると、勢いそのままに思いっきり剣を振り下ろす。魔力も振り下ろしの一撃に必要な箇所以外には一切使わない、正真正銘ジンクの全力の攻撃だ。


『ほう、いいね。こうでなくてはな!』


 パパラチアさんは右手で短刀を抜いてジンクの剣を受け止める。が、剣と短刀がぶつかり合ったその瞬間、ジンクがここのところもう練習していた瞬間強化が発動する。


「なめるなあああ!」

『これは、瞬間強化か!? くう!』


 パパラチアさんはジンクが瞬間強化をここまで使えることまでは想定していなかったみたいだ。短刀を抜いたとはいえ、子供の1撃と甘く見ていたパパラチアさんは、体勢的に威力のある攻撃を受けきれる姿勢じゃなかった。


 流石のパパラチアさんのヒポドラゴンゴーレムとはいえ、これは受けきれまい!


 そう思ったら、パパラチアさんは上手いこと重心をずらして、体をジンクの左にずらす。そして、奇麗にジンクの剣を受け流す。


『良い一撃だが、まだまだだな』


 突然パパラチアさんが正面から横に動いて、剣を受け流されたせいで、ジンクは勢い余って剣を持ったまま地面に突っ込む。でも、ジンクはそう簡単にあきらめる奴じゃないってな。


「まだまだ~!」


 ジンクは起き上がりながら、低い姿勢で素早く腰をひねり剣を横に薙ぎ払う。


『甘い! そんな腰も入っていない攻撃、私に通用すると思わないことだ』


 今度はパパラチアさんも力強くジンクの剣を受けようとする。これは、ジンクの剣を弾き飛ばす気か!


 ガキ~ン!


 案の定ジンクの剣は容易くパパラチアさんによって弾き飛ばされる。


 確かに甘い攻撃だ。ご指摘のように腰も入ってなかった。でも、この程度の甘い攻撃をジンクが仕掛けたと思ってるんなら、負けるのはあんただぜ。パパラチアさんよう。


 その証拠にほら、ジンクの姿勢は剣を弾き飛ばされたにもかかわらず、一切ぶれていない!


 そう、ジンクは剣を弾き飛ばされたわけじゃねえ。わざと緩く握って、弾き飛ばさせたんだ。ジンクの狙いはその次、タックルによる敵の拘束だ! ジンクは低い姿勢のまま一気に加速して、パパラチアさんのヒポドラゴンゴーレムの足に組み付く。その速度はさっきの打ち込みの時のそれよりも、更に速い! そして、思いっきり持ち上げて、その背中を俺へと向ける!


「アイアン!」

「っじゃあ!」


 ド~ン!


 俺はヒポドラゴンゴーレムの関節目がけてぴかぴか弾を発射する。え? いつの間に2発目を装弾して魔法までかけてたのかって? そんなのもちろん、パパラチアさんがしゃべってる最中に決まってるだろ! 油断してたらそのまま撃ってやろうかとも思ったが、流石にそんなに甘くなかったぜ。


 ただ、パパラチアさんもただではやられてはくれないらしい。ジンクに持ち上げられながらも、背中に強力な強化魔法を使用し俺の攻撃を防御しようとする。さらに、強化魔法で強化してもダメージを受けやすい股関節は、右手に持っていた短刀と、腰に装備されていた左手用の短刀を使って、ガードする。


 流石パパラチアさん、完璧に背後を取ったってのに、見事な防御だ。だが、残念だったな、俺がぴかぴか弾で狙ったのは股関節じゃねえ! そう、ジンクの持っているその左足の、膝関節なんだよ!


 どっか~ん!


「うおっしゃあ! 狙い通りだぜ!」


 俺のぴかぴか弾は狙い通り膝関節に命中して、そして爆発した。


「うおおお!」


 俺の一撃に続いて、ジンクが爆炎の中で掴んでいるパパラチアさんの足へと更なる追撃を加えようとした時。ジンクが思いっきり吹き飛ばされた。


「ぐは!」

「おいジンク、大丈夫か?」

「ああ、何とかな。ただ、吹っ飛ばされた時の攻撃もだが、例のあれを使ったのがまずかったな。ちいっとダメージきちまった」


 ジンクの武装ゴーレムには逃げるとき用のリミッター解除装置が付いている。普段は決して使わないんだが、さっき組み付いた時の急加速はそれを使ったみたいだ。


 ただ、ここでジンクに倒れられるわけにはいかない。なにせ、俺のぴかぴか弾は貫通してないだろうからな。


 なぜなら、もし完全に貫通していたら、ぴかぴか弾はAP系の弾だから爆発しないはずだからだ。爆発したってことは、ぴかぴか弾が壊れて、中に閉じ込めているはずの俺の炎金属融合魔法が噴出したってことだ。でも、流石に無傷じゃないよな? これで無傷だと、マジで勝ち目ねえぞ。


 そして爆炎の中から、パパラチアさんは話し出す。


『ふふふ。凄いね君たちは、本当に凄い。まさかあそこで股関節を狙うのではなく、味方が持っている膝関節を狙うとはね。よほど信頼し合っていなければできない芸当だ。そしてその結果、この私からこうも容易く1本取った。見事だと素直にほめたたえよう』


 そう言って爆炎の中から現れたパパラチアさんのヒポドラゴンゴーレムは、全身からピンク色のモヤのような物を出していた。


「ジンク、あのモヤって何かわかるか?」

「いや、わかんねえ。でも、何だこの嫌な感じは」

「ジンク! アイアン君! 気を付けなさい。そのピンクのモヤは、ヒポドラゴンが怒った時に出すものよ!」


 怒った証拠? いや、カバはピンク色の汗を流すっていうのは聞いたことがある。でも、モヤにはなんないだろ? いや、怒りってことは、もしかして、怒りで体温が上がって、蒸発してモヤみたいになってるってことか!?


 俺とジンクはパパラチアさんの攻勢に構えていたが、パパラチアさんは、背を向けてゆっくりとジンクの剣の方に歩き出す。さっきの攻撃は効かなかったわけじゃないみたいだな。左足を引きずってる。


「くそ、撃ちたいのに撃てん」

「今は止めとけ。後ろは向いてるが、さっきまでとは違ってまるで油断してねえ。適当に撃ってもダメージは見込めないぞ」

「ち、ならジンク、武装ゴーレム見せろ。この隙に出来るだけ修理する」

「ああ、頼むぜ。足回りからやってくれ」

「おう」


 そして俺がジンクの武装ゴーレムを大急ぎで修理していると、パパラチアさんはジンクの剣を拾い、そしてジンクの目の前に投げる。


『さて、それじゃあ第2ラウンド、いや、第3ラウンドか。始めるとしようか』

「アイアン、ここまででい。やるぜ」

「ああ!」



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