第95話 バトル大会未就学児部門13だぜ!
俺とジンクは改めてパパラチアさんと向き合う。パパラチアさんはさっき対峙した時と同様、両手には何も持っていない。でも、雰囲気がまるで違う、対峙してるだけで、汗が止まらねえ!
『来い、などと舐めた態度はもう取らない。むしろあえて言わせてもらう。行くぞ!』
そう言うと同時に、パパラチアさんが突っ込んできた! 速い!
そして走りながら、俺とジンク目がけて2個、何かを投げてきた!? 投げたのはなんだ? いや、いまはそれどころじゃねえ、この攻撃、速いし強い! 威力は、ぴかぴか弾クラスか!? 魔力を前もって込めてた様子はなかった。まさか、投擲動作のわずかな時間だけで、俺のぴかぴか弾クラスの威力の魔法を込めたってのか!?
やべえ! ぴかぴか弾クラスの遠距離攻撃は、2号君の装甲じゃ受けきれねえ!
かといって、ジンクに防いでもらうのも無理だ。ジンクにもこの攻撃がいっているし、俺の方を防ぐために下手に動いたら、その防御の隙を突かれる!
つまり、俺に残された手は、回避一択ってことかよ!
「ちいい!」
俺はここのところの特訓の成果である、2号君を自身の体のように操る新技。俺が戦車モードをフルに使って、サスペンションを強引に伸び縮みさせた左サイドステップでこの攻撃をよける!
ギャリン!
「っぶねえ!」
マジで危なかったぜ。砲塔の右隅に投擲攻撃がかすめたが、砲塔の右側面装甲を完全に持ってかれたぜ。
俺がパパラチアさんの投擲攻撃を躱したその時、ジンクもまた盾でパパラチアさんの投擲攻撃を防いでいた。だが、そんなジンク目がけて、既にパパラチアさんが両手で持った長刀で切りかかろうとしていた。
ジンクは飛び道具を防いだ盾をそのまま頭上へと掲げ、パパラチアさんの上からの一撃に備える。だが、次の瞬間。
キ~ン!
甲高い音と共に、ジンクの盾が、それを支えていたジンクの武装ゴーレムの左腕ごと真っ二つにされた!
「くそ!」
「ジンク!」
「だが、まだ!」
だが、ジンクは盾で受けて剣で反撃しようとした一連の動作の勢いは崩さず、そのまま剣でパパラチアさんに切りかかる。だが、パパラチアさんに素早く懐に入り込まれて、肩か肘で思いっきり吹っ飛ばされた。
「がはっ!」
なんだよこれ、あの左足、さっきぶち抜いたはずだぞ!? なんであの足でこんなに速く、自然に動けるんだよ!
「くそったれがあ!」
俺はジンクを吹っ飛ばして動きの止まっていたパパラチアさん目掛けて、ぴかぴか弾を発射する。でも、そんな俺の攻撃もあっさり剣で弾き飛ばされる。
くそ! ぴかぴか弾の弾速は秒速1000mをゆうに超えるんだぞ!? なんでそんな攻撃を、剣の腹であっさり弾き飛ばせるんだよ!
そしてぴかぴか弾を吹き飛ばしたパパラチアさんは、今度は俺目掛けて走って来る。
ってやっべ、そりゃあこっちに向かってくるよな。
俺は大急ぎで2号君を後進させる。2号君は幸い前進も後進も時速100kmでる。しかも車重が10トンと軽いから、比較的早く最高速まで加速も出来る。流石に時速100kmなら、ヒポドラゴンゴーレムといえど追いつけまい!
って思ったんだけど、なんでもう目の前にいるんだよ!?
パパラチアさんは切り下ろし攻撃を、仕掛けてくる。回避は、間に合わない! 俺は主砲で防ごうと咄嗟に主砲を上に向ける。主砲は総ミスリル合金だからな、鉄製の装甲よりもだいぶ硬い!
でも、ここで俺は脳みそがフル回転をしだして、自問自答をし始める。本当にこれでいいのか? アイアン。遠距離攻撃と近接攻撃の威力の違いはアイアンだって理解してるだろ? 投擲武器でぴかぴか弾と互角の威力の攻撃が出来る人の近接攻撃を、砲身ごときで防げるのか? あのジンクですら、瞬間強化を使っていたにもかかわらず盾を真っ二つにされたんだぞ? より防御向けのミスリル合金で出来ている盾を持った、ジンクの武装ゴーレムでさえ、だ!
俺が出した結論は。ダメだ、砲身ガードでは防げない! 俺は砲身で受けるのは止めて、再度サイドステップで避けようとする。けど、間に合うわけねえじゃん。間に合わないと思ったから苦肉の策で砲身を上げたんだぞ? どうすりゃいいんだよ。マジでどうすりゃいいんだよ!
2号君、避けてくれよ。もっともっと速く動いて、避けてくれよ! 2号君!
俺は2号君にすがるようにありったけの魔力をただただ込めまくる。すると、突如俺の命の魔力と、2号君の鉄やミスリルの魔力が、今まで以上に急激に混ざり合った。
すると俺の意識が突然今いた場所よりも前に移動する。ん? なんだこれ? 俺のいた場所はコマンダーシートだ。それより前何てスペースは無いはずなんだが。って、そんなこと考えている場合じゃねえよ! 避けないと! すると、さっきまでとはけた違いの速度で2号君がサイドステップをして、パパラチアさんの攻撃を躱した。
「凄いのアイアンちゃん! ここに来て完全な一体化に成功するなんて、凄すぎるの!」
母ちゃんから興奮したように通信が入る。完全な一体化? 何のことだ? って思った時に、ふとあることに気付いた。視界がおかしい。ふとした瞬間に視界に入る、腕とか手が、どこにも見えない!? 俺は自分の姿を見ようとしてみる。すると、俺の目に映ったのは、誰も乗っていない2号君の車内だった。
あれ? そこに落ちてるのって、俺の服とヘルメットだよな? どういうことだよこれ? って言うか、俺はどこに行ったんだよ? 俺の体は、どこに行ったんだよ!?
「アイアンちゃん、聞いてほしいの。完全一体化は文字通り2号君と完全に一体化する技なの。アイアンちゃんの生命の魔力は2号君と融合してるから、もはや人間としての動きは出来ないの! 手を動かそう、足を動かそう、そういった人間が本能で出来ることは一切できなくなって、変わりに砲塔を回す、主砲を撃つといった、2号君が生き物なら、本能でこんなことが出来るんじゃないの? ってことが、アイアンちゃんの本能で出来るようになるの!」
なるほど、そういう事か! すげえ、マジで手足を動かすっていう感覚がない。その変わりに、2号君の動作例えば砲塔を回すだとか、履帯を動かすだとか、そういうことが直感的に出来る感覚だけしかない。なるほど、これが母ちゃんが俺に本当に教えたかった、俺が戦車モードの真の姿ってことか!
『ふふふ、本当に素晴らしいな君たちは。この土壇場でのその技、出し惜しみしていたというよりは、この状況下で完成したといったところか? うむ、実に素晴らしい。ただ、悪いがその程度で勝てるほど、私は甘くないぞ!』
なんで俺の体が、頭が、目が無くなっているのに外の様子がわかるのかとか、なんで耳もないのに音が聞こえるのかとか、気になることはいっぱいあるけど、今はいいや。今大事なことは一つだけだよな。そう、これでまだ戦えるってことだぜ!
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