第107話 父ちゃん達と。
「お~い、ジンク~!」
「よう、アイアン。来たか」
準備万端整えた俺達は、ついに森へと行く日を迎えた。
今日の待ち合わせ場所は、港にあるジンクの家のドックだ。
「こいつがジンクの言っていた船か」
「なかなかデカいだろ?」
「ああ、馬車が数台乗るって聞いてたから、そこそこ大きいのは理解してたつもりだったんだけど、こいつはデカいな!」
ドックで俺を出迎えてくれたのは、でっかい上陸用舟艇だった。普通の馬車なら、馬ごとでも4台は軽く乗るな。馬車部分だけなら、8台以上いけちゃいそうだ。
ちなみに上陸用舟艇ってのは、ものすごく簡単に言っちゃうと、船首のところに可動式の板がついていて、その板を下げることで船の正面から乗り降り出来る輸送船のことだぜ。ノルマンディー上陸作戦の映画とかでよく出てくる奴だぜ!
ついでにその船首についている可動式の板のことを、バウランプって言うんだぜ! ただの可動式の板のくせに、結構かっこいい名前だよな。
「このサイズなら、俺の3号君と、ジンクのデカくなった1号君とトレーラーも、余裕で積めるな!」
「俺の武装ゴーレムは1号君と一緒にもう積んであるから、アイアンの3号君も積み込もうぜ」
「ああ、分かったぜ」
俺は3号君に乗って、上陸用舟艇の船首にあるバウランプから乗り込む。乗り込む瞬間ちょっと船が沈みこんだ気がするけど、結構安定しているみたいで、そこまで揺れなかった。
「よし、アイアン君も乗り込んだな。みんな準備はいいか?」
「おう!」
「いつでもいいぜ、父さん」
「では、出航だ!」
ガリウムのおっちゃんの操舵で、ジンクの家の船がバックで岸から離れていく。そしてある程度離れたところで旋回して、港を出るように進路を変える。
「ははは、すげえなジンク! 船ってこんな感じだな!」
「ああ、すごいよな!」
前世ですら船にはあんまり乗ったことなかったからな、ガラにもなく興奮しちまったぜ! ジンクも船に乗った記憶はないって言ってるから、大興奮だ!
ちなみに今回は母ちゃん達だけじゃなくて、父ちゃん達もいるんだ。目的の対岸の森の岸は、多少手が加えられているとはいえ、船を安心して係留できる場所じゃないみたいでさ、船をパラージの街まで持って帰る人が必要だったんだって。
俺はジンクの案内で船内を散策する。船の中には船橋とか、操船に関する場所以外にも、1家族が寝泊まり出来るくらいの部屋があった。内装は確かガリウムのおっちゃんの担当って話だったよな。うん、流石はガリウムのおっちゃんだ、船の中だってのに、なかなかセンスのいい内装してるぜ!
船の中の探索をすること1時間くらいかな? 俺達は目的の場所へとあっさり到着した。
「よし、目的地が見えてきたぞ。ジンク、アイアン君、武装ゴーレムと戦車に乗り込むんだ、これより着岸するぞ」
「「おう!」」
俺とジンクが3号君と武装ゴーレムに乗り込むと、船が岸へと突っ込んでいく。そして、停止するのと同時にバウランプが開く。くう~、たまらなくいい感じだぜ。
本来なら着岸してからゆっくりと下船の準備をすればいいんだろうけど、こういう演出って大事だよな! 上陸用舟艇からの出撃とか、どこかの映画のワンシーンにでもありそうじゃないか? しかも乗り込んだ順番の関係で、俺が先に出れるしよ!
というわけで俺は、バウランプが開くのと同時に勢いよく3号君を発進させる。
「うおっしゃあ、3号君発進だ!」
「うむ、俺も乗せてもらうぜ」
すると、父ちゃんが3号君の車体の上に飛び乗ってくる。
「あれ? 父ちゃんも行くのか?」
「うむ」
あれ? 父ちゃん達が来たのは船の操舵があるからだと思ったけど、今思うと確かに父ちゃんが来るのはちょっとおかしいよな。船の操舵にはガリウムのおっちゃん一人で十分なわけだし。
俺がそう思っていると、ジンクの1号君の荷台にはガリウムのおっちゃんがいた。そして、肝心の母ちゃんとラピおばちゃんは、船の上?
「母ちゃんとラピおばちゃんが船の上ってことはもしかして」
「そうだ、今回は俺とガリウムが二人について行くぞ」
「えええ!?」
それはちょっと意外だった。いままで俺とジンクの狩りに付いて来ていたのは、母ちゃん達だったからな。
「嫌か?」
「いや、父ちゃんとは狩りに行ったことなかったから、一緒に行けるのは嬉しいんだけど、ちょっと意外でさ」
「そこに関しては前々から思っていたんだ。だからエメラやガリウム、ラピさんと話をして、今回は俺達がついて行くことにしたんだ」
「そうだったんだな。でも、仕事はいいの? 母ちゃんがまた鍋作りの依頼持ってきてただろ?」
「そこはエメラばかりアイアンと遊んでずるいと言ってやった。それに、アイアンの3号君とジンク君の新しくなった武装ゴーレムの初陣でもあるし、何かトラブルが起きた時の整備兵だといったら、納得したよ」
母ちゃんばかり俺と遊んでずるいと言ってやったって、嬉しいけどそんなこと言うキャラだったんだな、父ちゃんって。
「それに、ガリウムの奴は半分仕事だ」
「どういうこと?」
「ガリウムも木材がほしいってことだな」
「なるほど、そういうことね」
ぼ~! ぼ~!
俺達が船から降りて話をしていると、船が汽笛をならす。
「それじゃ、あたしらは帰るよ。いい木材探してきな!」
「みんな~、ちゃんとご飯食べるのよ~!」
おっと、どうやら母ちゃん達が帰るみたいだな。
「わかったぜ母ちゃん~!」
「ああ、最高の木材を探してきてやるぜ!」
「うむ、俺とガリウムに任せとけ!」
「ああ、その通りだタングよ!」
そしてラピおばちゃんの操舵する船は。港のドックから出た時のように、バックしてって、あれ? なんか勢い良すぎねえか? 凄まじい勢いでバックしてるぞ? って、おいおい、そんな勢いのままで舵を切ったら、転覆するぞ!? いくらサイズが大きくて、小型のものより安定性があるとはいえ、上陸用舟艇は基本的に安定性が悪い船なんだぞ?
「エメラ~、コケる~、フォロー!」
「きゃ~、ラピちゃん運転荒すぎ~」
でも、転覆寸前で母ちゃんの土魔法かな? 河から土の手が出てきて船を支える。う~む、いくらこの辺の水深が低いとはいえ、船の上から川底の土に遠隔で土魔法をかけるとは、流石母ちゃん、難しい魔法を難なく使うな。
「おいガリウム、ラピさんの運転は大丈夫なのか?」
「わからん。まあ、エメラさんもいるし、何とかなるだろ。それに、転覆してもあの二人なら泳いで帰れるだろうしな」
「いや、河の上での心配はしてない。港に入った後、他の船にぶつかったり、船のドックにぶつかったりしないかが心配でな」
「そう言えば、危ないから港の中とか細かい動きが必要な場所では練習させてなかったな。久しぶりのことで忘れてた」
「おいおい、帰ったら壊れたドックの大工仕事とか、俺は嫌だからな」
「う、うむ・・・・・・」
おいおい、ガリウムのおっちゃん。そこで黙らないでくれよ。かなり不安になるだろ? っていうか、船が故障したりしたら、俺達帰れなくなるような・・・・・・。ま、まあ、そこはラピおばちゃんを信じることにするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます