第108話 優先すべきこと

「よし、それじゃあ出発するか!」

「おう! 道はわかってるんだよな?」

「当たり前だ。いくぞ!」

「お~!」


 俺達はジンクの号令ととも出発する。父ちゃん達はいざという時のための人員だから、基本的には俺とジンクに任されている。


 俺達は隊列を組んで、南の方角へと森を進んでいく。


 隊列は1号君に跨ったジンクの武装ゴーレムが先頭、その後ろに俺の3号君だ。1号君の後ろには木材搬出用のでっかいトレーラーが付いているからな、俺は後方警戒と共に木材の監視も兼ねてるってわけだ。まあ、いまはキャンプ用品が少し乗っている程度だけどさ。


 森の中は事前情報通りに道が出来ていた。なるほど、ジンクの言うように普段から木材狙いの人がこの森に出入りしているみたいだな。舗装こそされていないけど、荷馬車の車輪のようなものが、あっちこっちに続いているな。


「ふう、森の中ってのは中々わかりにくいな」

「それはしかたないだろ。森の中の景色なんてどこまで行っても似たようなものだしな。それに、道があるとはいっても、どこかへ行くための道じゃなくて、森の中から木材を搬出するだけの道って話だし」

「だが、こうもわかりにくいと迷わないか心配になるな。アイアンもマップは起動しているか?」

「もちろんだ。3号君の慣性航法装置を併用しているから、最悪迷子になっても元いた場所には戻れるぜ。一日二日程度の移動なら、そこまで誤差は出ないはずだしな」

「なら安心だな」


 ちなみにこの慣性航法装置っていうのは、自分の居場所がわかる装置だ。名前の通り本来は船とか潜水艦用の装備なんだけど、結構優れモノなんだぜ。


 この装置の説明の前に、なんでそんなものを付けているのかって言えば、この世界にはGPSが無いからだな。まあ、人工衛星が無いから当然っちゃ当然なんだけどさ。つまりどこかへ行く場合、自分の居場所を把握する方法っていうのがかなり限られるんだ。


 例えば西の草原でモンスターと戦っている最中に移動しちゃって、自分の居場所を見失ったとする。するとな、自分が今どこにいるのか、マジでわかんなくなるんだよ。まあ、西の草原ならパラージの街の北にあるでっかい山を目印にすれば、街の方角はわかるから迷子になることは無いんだけどさ。


 でも、河を越えた先の森の中であるこの場所では居場所の特定が非常にしにくい。分かりやすい目印なんてないからな。日本でも遭難するのは山の中っていうか、森の中って相場が決まってたしな。


 んで、前置きはこの辺にしておいて、慣性航法装置っていうのは、簡単に言えば、基点から自分がどの方向にどのくらいの距離移動したのかを管理する装置のことなんだ。具体的にはコンパスで方角を、水平方向の加速度計で移動距離を測ってるらしいんだけど、その辺の細かい仕組みは俺は知らないんだぜ!


 今は船から降りた場所を起点に慣性航法装置を起動しているから、もし何かあっても元いた場所には戻れるってことだな。


 ジンクの案内で進むこと2~3時間が経過した。今のところ地図にも現在位置にも問題なさそうだな。そろそろ昼飯の時間だが、飯はどうするんだろ?


 俺がジンクに昼飯をどうするのか聞こうとすると、ジンクの武装ゴーレムの肩に乗っていたガリウムのおっちゃんが何かに気付く。


「ジンク止まれ! ジンク、アイアン君あそこを見るんだ」


 俺はすぐさま3号君のメインスコープでガリウムのおっちゃんの指さす方向を見る。するとそこには、1mはあろうかというバカでかい蜂がいた。あの大きさは昆虫じゃねえな、あれは虫系のモンスターだ!


 ちなみにただの虫と虫系のモンスターとの差は、強いかどうかだ。一般人でも倒せるなら昆虫、一般人が倒すのが難しいほど強いやつなら虫系のモンスターになる。あの1mの巨大蜂は、一般人じゃあ倒せそうにないから、当然モンスターってわけだな。


「父さんどうするんだ?」

「ガリウムのおっちゃん、どうしたらいい? あの蜂ってモンスターだよな? 強いのか?」


 ジンクと俺はすぐさまガリウムのおっちゃんに対処法を確認する。モンスターとの戦闘は想定内とはいえ、あんなデケえ蜂がしょっぱなから出るとはな。


「強さに関してはそこまででもない。確かに針による一撃の威力は高いが、体が大きすぎるせいか動きは鈍いからな。それに、生身ならともかく、ミスリルの装甲で出来ているジンクの武装ゴーレムや、アイアン君の3号君を貫くほどの攻撃力はない」

「そうか、ならひとまず安心か。肉食なのか?」

「いや、見た目のデカさとは裏腹に主食は花や木の蜜だ」

「なら、無視しても大丈夫ってことか?」

「ダメだジンク。無視なんて出来るわけねえだろ!? 最優先目標だ! 後を付けて巣を見つけるぞ」


 え? 蜂を追いかけるの?


「父さん? 俺達木材を探しに来たんじゃないのか?」

「あの蜂は木の蜜を食べると言っただろう?」

「そ、そうか! あの蜂が蜜を吸う木が高級木材ってことだな!」


 な、なるほど、流石ジンクとガリウムのおっちゃんだぜ。そんな発想は無かった。


「いや違う、狙いは純粋にハチミツだ。あの蜂はメープルシロップの亜種みたいなものからハチミツを作るからな」


 んん? 話が全然読めないぜ。ハチミツ集めをするって言うのか?


「わからんか?」

「わからん。アイアンはわかるか?」

「いや、さっぱりだ」

「メープルシロップってのは美容にいい、だから、その亜種みたいなものから作られるあの蜂の蜜は、高級美容用品に使われるんだよ。見かけた以上取って帰らねえと、ラピとエメラさんに何を言われるかわからん」

「何!? 高級美容用品だと? そう言う事は早く言えよな父さん」

「本当だぜガリウムのおっちゃん! さっさと追いかけよう! 逃げられたら一大事だぞ!」

「いや、すぐに行く必要はない。すでにタングが斥候に出てる。俺達はタングの後を追うぞ」

「「分かったぜ!」」


 こうして俺達は、木材を探す前に、高級美容品になるハチミツを求めて巨大な蜂を追いかけることになった。


 優先順位は間違えない! 俺達ほどのハンターにもなると、何が優先されるべきことかなんて、話し合うまでも無いんだぜ! ただ、ノータイムで斥候に出た父ちゃんと比べると、俺達はまだまだだったかもな。



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