第9話 ラピおばちゃんと対決だぜ!

 母ちゃんの手が振り下ろされてついにバトル開始だ。ラピおばちゃんは剣を腰に2本さしているものの、その剣を抜くこともせずに腕を組んで悠然と歩いて接近してくる。服装は至って普通なパンツルック。防御力はないはずだ。


「行くぜアイアン。まずは接近だ」

「おうよ!」


 俺とジンクの作戦はそんなにたいしたものがあるわけじゃない。まずは接近だ。ジンクは接近戦を仕掛けるために、俺も近づいたほうが命中精度が上がるという理由で全力で接近する。1号君の最高速度は時速50kmつまり、100mを7秒ちょいで走れる。流石にジンクもそんなに速く走るのは無理だから、ジンクも1号君にくっついての移動だ。


 たしか、徒歩の速度は1分80m前後、少し余裕を見て1分100m歩いてくると考えても端まで追い込まれるのに3分かかる。さっき奥へ行くラピおばちゃんの歩きの速度を考えても、そんなに極端に時間が変わることはないだろう。この時間以内に決めないと、後ろに下がれずに1号君が逃げ切れない。


「うおっしゃ~、食らいやがれ~!」


 タタタタタタタタタタタッ!


 俺は全力で接近しながらも15mm機関銃を連射する。


「あっはっは、そんな豆鉄砲、あたしに効くと思うのかい? そうそう、この服にも当然強化魔法を使ってるけど、それだけじゃないよ。この服は一見普通の服だけど、ガリウムのプレゼントで、それなりに強力なモンスターの糸で作られてるから、普通の攻撃じゃあ、まず傷つかないわよ」


 だが、想像通りラピおばちゃんはびくともしない。少しは怯んだり足が止まればよかったんだが、くう、流石だぜ。それに、強力なモンスターの糸ってなんだよ。下手すればジンクの皮と鉄の複合鎧より強そうじゃねえかよ。


 その後も撃ち続けるがいっこうにダメージを与えられる様子はないが、まずは強靭な身体強化魔法を解除させるためにも、魔力を使わせ続けなくてはならない。俺は効かないのは承知で撃ちまくる。そして、戦闘開始から20秒ちょっと経過したところで、ジンクがやっと接近戦を仕掛けられる位置に移動した。


 ジンクは1号君を飛び降りると、剣による攻撃を仕掛けるために、ラピおばちゃんの背後に回りこむ。俺はジンクの邪魔にならないように、10mくらいまであえて接近して、斜め上からラピおばちゃんの下半身に攻撃を集中させる。1号君の全高は170cmくらいで、15mm機関銃の取り付け位置は140cmくらいだ。斜め上から撃ち下ろせば、多少それてもジンクには影響は少ないだろう。


「おおお!」


 ジンクはラピおばちゃんの背後から、思いっきり上段から剣を振り下ろす。ジンクは接近戦が得意というだけのことはあって、0歳児の頃から身体強化魔法を使っている俺の目から見ても、十分すぎるほど上手な身体強化魔法を使っている。魔力量こそ俺のほうが上だと思うが、身体強化魔法は元の体格の影響をもろに受ける。そのため、俺がジンク並みのパワーを出すには、ジンクよりかなり多くの魔力が必要になるだろう。だが、そんな俺が、感心するほどの身体強化魔法を使ったジンクの攻撃を、ラピおばちゃんは、腰の剣を抜きもせずにそのまま頭で受け止めた。


「うっそ! ガードしねえの?」

「がああ、くっそ~、手がいてえ」


 信じらんねえ。ジンクの剣は俺も見せてもらったが、大きいだけのことはあって、重さもけっこうあった。しかも、刃引きなんてしてないガチの真剣だぞ。その後もジンクは執拗にラピおばちゃんの頭に攻撃を加えていくが、ラピおばちゃんはまるで気にする様子もなく、悠然と歩き続ける。マジでぜんぜん効いてない様だ。


「そんなへなちょこ攻撃、あたしに効果があるわけないだろ。ジンクも剣に強化魔法を乗せて強度を大幅に上昇させているようだけど、まだまだあたしにダメージが出る威力じゃないね」


 俺もラピおばちゃんが歩くのにあわせて、下がりながら攻撃を続ける。ジンクも攻撃を続けるが、まったく効く様子がないまま、戦闘開始から1分が経過した。その間に俺は600発ほど撃ちこんだが、ダメージはなさそうだ。ジンクの必死の攻撃も同様だ。むしろジンクの手首が心配になってくる。ラピおばちゃんは1分間で90mくらい歩いて、もう残りは210mしかない。


「アイアン、作戦を第2段階へ移行するぞ」

「ああ、わかったぜ!」


 俺達は作戦を第2段階へと移行する。作戦の第2段階は、一言で言えば、もっと魔力消費の高い攻撃への移行だ。たった3分足らずで決着がつく勝負とはいえ、3分間全力で動き、魔力を使いつづけるのは少々辛い。なので、作戦の全体像としては、できるだけ少ない魔力でラピおばちゃんの魔力を削りつつ、最後にフルパワーで削りきるってのが俺達の考えた作戦だ。


「行くぜ。母さん」


 ジンクは剣に炎を纏わせる。俺のフレイムスラッシュと同じ技だ。魔法機関銃とは相性が悪いこの技だが、ジンクの持ってる巨大な剣との相性は抜群だ。俺もここ数ヶ月の魔法機関銃の練習でいろいろわかったんだが、どうやら身体強化魔法が元の筋肉のでかさの影響を受けるように、武器への強化魔法も、元の武器のでかさに影響を受けるようだ。確かに母ちゃんもダンジョンで教えてくれた時に、機関銃じゃあ威力が出ないって言ってた。機関銃の弾頭じゃあ、15mmとはいえけっこう小さいからな。


 ジンクの炎を纏った剣が、ラピおばちゃんの頭を捕らる。だが、またしてもラピおばちゃんは防御すらしないで、頭で平然と受け止める。俺もその間炎を纏わせた銃弾を撃ちまくる。効果的じゃないのはわかっているが、これしかできる事がないともいう。


「あっはっは、だからその程度じゃ効かないよ!」

「くう、流石母さん、まじで硬い」

「ジンク、これを剣で受け取れ! 炎の強化魔法だ!」

「おう、わかった!」


 俺はハッチから上半身をだして、右手に炎の強化魔法を込めた球を作り出す。そして、ラピおばちゃんの頭を越えて、ジンクに炎の球を投げる。ジンクは俺の炎の球を剣で受け止めると、剣に俺の炎の強化魔法が上乗せされる。


「あっち、あちちちち」


 ジンクは想像以上の炎が自分の剣に纏わり付いたことで熱がっている。あほか、なにやってんだよ。さっさと切りかかれよ。


「ジンク、なにやってんだよ。さっさと切りかかれ」

「だ~、これめちゃくちゃ熱いんだよ。くそったれ、食らえ母さん」


 ジンクは熱いのを我慢しつつもラピおばちゃんに背後から切りかかる。すると、ラピおばちゃんが腰の剣を左手で一本抜き、ジンクのほうに振り返って、ジンクの攻撃をガードした。


 ガキーン!


「へえ、流石はエメラの息子ってところね。この火力じゃあ、もしかするとあたしの髪の毛が少し痛んじゃうかもね」


 だが、この攻撃で初めてラピおばちゃんの足が止まる。へへへ、この隙を逃す俺じゃねえぜ。俺は一気にラピおばちゃんの攻撃が当たらないぎりぎりの距離、3mくらいまで距離を詰めると。1号君の砲塔をうりゃっと180度旋回させて、砲塔後部のハッチを正面に向ける。そして、ハッチから上半身を乗り出し、魔法をラピおばちゃんにおみまいする。


「俺の魔法は、まだまだこれからだぜ! 食らえ、火炎放射!」


 俺は両手の手の平をラピおばちゃんに向けると、両手から強烈な火炎放射を放つ。ここ数ヶ月の魔法機関銃の練習で、俺の火魔法と金属魔法の腕前はすっげえ上がった。この火炎放射も数秒で鉄がどろどろになる高熱だ。それに、魔力的な作用もあるのか、ただの高熱の炎とはどうやら違うらしい。


 俺の火炎放射はラピおばちゃんを完全に飲み込み、その先のジンクもちょっぴり飲み込む。


「あっちい~! あ~ちあちあちあちあちっ!」

「おい、ジンク、なにやってんだよ。ちょっと当たっただけだろうが」

「あほかてめえ。俺を殺す気か」


 ったく、たかが数千度の炎がちょっと当たったくらいで、そんなに熱がることないだろうに。俺は火炎放射魔法を解除して、しょうがないからジンクに水魔法をかけて消火し、ついでに回復魔法も飛ばしてやる。


「ジンク、いくらなんでもオーバーだろ。ラピおばちゃんなんか火達磨だけどぜんぜん平気そうだぞ?」

「はあ? って母さん? おいアイアン、さっさと火を消せ!」

「その必要はないよ」


 そういうとラピおばちゃんは、軽く腕をふるって俺の炎を完全に消し去った。


「良かった、母さん無事だったのか」

「ほら、平気って言っただろうが、ジンクがオーバーなんだよ」

「あほかてめえ、俺は完全に大火傷してたっつうの」

「え? どこにしてんだよ。無傷じゃねえか」

「そりゃお前が水魔法の後に回復魔法かけたからじゃねえか。普通あんな攻撃食らったら死ぬぞ?」

「んなわけねえよ。父ちゃんにも母ちゃんにも効かなかったし。母ちゃんなんか肌の老廃物がきれいに取れるって、時々俺に撃つように言ってくるんだぜ」

「なに? んな馬鹿な」

「なるほど、エメラはもともと肌がきれいだったけど、最近さらにきれいになったと思ったら、そういうことだったのか」


 そういうとラピおばちゃんは懐から手鏡を取り出して、自分の顔を見る。自分の顔を手で触ったりしながらしばらくチェックしていると。


「うん、悪くないね、これ。毛穴の中まで綺麗に汚れが落ちてるじゃない。普通の炎じゃこうはならないから、アイアン君の魔力的ななにかがそうさせてるんだろうね。それにしてもエメラ、黙ってるなんて酷いんじゃない?」

「あら、アイアンちゃんの燃えるような愛を受けることができるのは、母親である私だけの特権なのよ?」

「ほう・・・・・・」

「ちょ、母さんもエメラおばさんもタイムタイム。今は俺とアイアンのダンジョン行きの切符を賭けたバトル中だろ」

「そうよ、ラピちゃん。バトル中よ」

「エメラ、この話は後で必ずするわよ。さてジンク、アイアン君、再開するわよ」


 むむむ、予想していたとはいえ、俺の鉄をも軽く溶かす超高温火炎放射魔法を、単なる美容魔法としか認識していないこの化け物おばちゃんに、果たして俺とジンクは勝てるのだろうか。


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