第10話 ラピおばちゃんとのバトル、決着だぜ!
ジンクのフレイムスラッシュと、俺の火炎放射による挟み込み攻撃は、ラピおばちゃんの顔の老廃物を除去して、ラピおばちゃんを喜ばせるだけで終わってしまった。だが、この攻防で1つだけいいことがわかった。ジンクのフレイムスラッシュに、俺の炎魔法も乗せれば、ラピおばちゃんも無視できないパワーになるってことだ。これで足止め手段を得たことになる。
「おしジンク、もう一度いくぜ!」
俺はラピおばちゃんの頭上を越えるようにもう1度、炎の球を飛ばす。するとジンクは俺の炎の強化魔法を込めた球を受け止め、ることなく、自分の炎魔法を纏わせただけの剣でラピおばちゃんに切りかかる。
「おい、ジンク、なに考えてんだよ。お前の火力だけじゃラピおばちゃんには効かないって」
「あほかてめえは、さっきあれを受け取ったせいで両腕まで火傷したんだよ。2度と受け取るか!」
「なんだと、てめえ、せっかくの有効な攻撃手段を捨てるって言うのか!」
「受け取ってほしけりゃ半分の威力に抑えろ。じゃなきゃ俺が火傷するんだよ!」
「ああ、もう、しかたねえ、半分バージョンだ。受け取れ!」
俺は仕方なく、さきほどの半分の炎の強化魔法を込めた球をジンクに投げる。
「そうだ、このくらいでいいんだよ! いくぜ母さん」
ジンクは俺の炎の球を剣で受け止め、嬉々としてラピおばちゃんの背後から頭に剣を振り下ろす。
ガキーン!
先ほど同様素早く振り向いたラピおばちゃんに、ジンクの攻撃は受け止められたが、そもそもこれだけで倒せるとは思っていない。足止めが出来れば十分だ。
「おっしゃあ。よくやったぜジンク、食らえラピおばちゃん」
俺は1号君の砲塔の向きを再度180度回転させ、15mm機関銃をラピおばちゃんに向ける。先ほどラピおばちゃんは、俺とジンクの合体フレイムスラッシュで、髪の毛が焦げそうと言っていた。つまり、弱点は髪の毛だと予想を立てた俺は、ラピおばちゃんの後頭部目掛けて、炎を纏わせた機関銃を連射する。
タタタタタタタタタタタッ!
俺の炎を纏わせた機関銃の銃弾は、ラピおばちゃんの後頭部に命中し、高温の炎になってラピおばちゃんの髪を焼く。という結果になればよかったんだが、まったく効いている気がしない。
「くっそ、やっぱぜんぜん効かねえのかよ」
「あきらめるなアイアン、母さんの魔力だって無限にあるわけじゃない。足止め出来ている今の内にとにかく攻撃を続けるんだ」
「おっけい、わかったぜジンク」
「あら、足止めできている今の内にって言うのは、どういうことかしら?」
そういうとラピおばちゃんはジンクのほうに一歩踏み込んで、剣を持っていない右腕でパンチを繰り出した。ジンクも落ち着いてシールドでガードをするが、ジンクは盛大に吹っ飛んで壁に激突した。
「がはっ」
「おい、ジンク!」
俺は即座に回復魔法を投げる。
「ぐうう、大丈夫だアイアン、助かった。だが、今のでわかったと思うが、俺と母さんの接近戦の実力にはかなりの差がある。あまり長いこと足止めはできんぞ。それに、この盾も後2、3発で破壊される」
「まじで!?」
ジンクの大盾を観察すると、ラピおばちゃんがぶん殴った箇所が、大きくひしゃげていた。あの大盾、1号君と同じ5mm厚の鉄板だったはず。つまり、1号君も殴られるとやばいってことだ。
「だが、いまは母さんの魔力を削るしかない。盾が壊れるまで今の攻撃を繰り返すぞ!」
「ああ、わかったぜ!」
その後俺とジンクは同じ攻撃を3回繰り返す。そして、ジンクの予想通り、ジンクの大盾は持てない位にひしゃげちまった。それだけじゃねえ、ジンクとラピおばちゃんの強化魔法の差のせいか、ラピおばちゃんの剣にガードされていたジンクの剣もぼろぼろだ。これじゃあジンクはもう攻撃できない。
「残りは100mを切った。アイアン、作戦を最終段階に移行するぞ」
「ああ、わかったぜ。ジンク、奥まで引くぞ」
「おう」
俺とジンクは攻撃を止めてスタート地点まで戻る。ジンクは武器は失い、俺の15mm機関銃じゃあダメージを与えられない。もはや頼みの綱は1号君に積まれている120mm大砲、AMC120しかなくなった。
「ジンク、弾は俺が用意する。お前は発射を頼む」
「ああ、だが砲架はどうする? 砲架はお前、積み込まなかっただろ」
「大丈夫だ、ドライバーゴーレム!」
俺は1号君からドライバーゴーレムを呼び出すと、ドライバーゴーレムにAMC120を支えてもらう。
「どうだ、撃てそうか?」
「ああ、これなら大丈夫だ」
「よし、ちょっと待ってろよ。準備にすこし時間が掛かるが、俺の最大火力ってやつを見せてやるぜ。ジンクも大砲に強化魔法を頼むぞ」
「ああ、残りの魔力すべて使って大砲を強化してやるよ。」
「時間的にも魔力的にも、1発しか撃てねえからな、はずすなよ?」
「責任重大だな。だが、まかせとけ!」
「じゃあ、はじめるぜ」
「ああ」
俺はAMC120の砲弾を1つ取り出し、弾頭を引っこ抜く。選んだ砲弾の種類はただの金属の塊であるAP弾だ。金属の種類はよくわかんないが、ミスリルのような魔法金属じゃないことだけはわかる。まずは薬莢に入っている火薬のほうに炎の強化魔法をかける。炎の強化魔法であって、炎そのものじゃないから、これで火薬が爆発するわけじゃあねえぜ。むしろ俺の炎の強化魔法によって火薬が守られ、不意の爆発から守ってくれる。さらに、火薬の爆発時に俺の炎魔法が発動して爆発力が大幅に上がる。
そしてここからが俺の真骨頂、炎と金属の融合魔法を弾頭にかける。まず、弾頭の金属が持つ金属の魔力に、俺の金属魔法を混ぜ合わせる。これによって鉄の形を自在に変えられるようになる。ここまでなら金属加工魔法の一種だ。そして次に俺は炎の魔法を発動させ、弾頭の金属と、俺の金属の魔力が混ざったものに、俺の炎の魔力を混ぜ合わせる。くう、流石に15mm機関銃の小さい弾頭とはちがって消費魔力が半端ねえぜ。軽くクラってきやがる。多少時間が掛かったものの、俺は無事に炎と金属の融合魔法を成功させる。俺の両手には金属の炎がゆらゆらとしている。
「お前、なんだそれ?」
「これか? こいつは見ての通り、金属の性質を持った炎さ。この揺らめく炎が、金属で出来てるんだぜ」
「すげえな」
「もう少しで完成する。もうちょっとまっててくれ」
ちらっとラピおばちゃんのほうを見ると、距離はもう40mくらいのところまで近づいてきていたが、目と口を大きく開けて立ち尽くしていた。くそ、40mとか距離がねえじゃねえか。
俺は炎の形になってしまった弾頭を再び弾頭の形に形成する。そして、弾頭を薬莢に突っ込んで、砲弾が完成した。
「ジンク、後頼む、完全に魔力切れっぽい」
「おう、後は任せろ!」
俺はその砲弾をジンクを渡すと、ジンクは素早く装填作業を行った。俺はもうふらふらだ。普段なら耐え切れずに意識を手放して寝ちゃうレベルの魔力切れだ。だが、なんとか起きてこの戦いの決着を見ようと目をこする。
幸いラピおばちゃんは俺達の装填作業中もぽかんっとした顔で突っ立ているだけだった。
「よし、強化魔法発動。照準あわせ」
ジンクは、残りの魔力を全て使い強化魔法を大砲にかけ、照準をラピおばちゃんに合わせる。俺からみてもジンクが緊張しているのがわかる。まあ、俺もジンクもこれで撃ち収め、文字通り最後の1発だしな。
「発射!」
ジンクはトリガーを引いて砲弾を発射する。
ドオ~ン!
一方ジンクが装填作業を終えた頃、ラピおばちゃんもこれはまずと思ったのか、後ろに思いっきり跳躍しながら、いままで抜いていなかった剣を右手で抜く。いままで使ってた左手に持った剣は普通の鉄の剣だったようだが、この右手の剣は明らかに違う。雰囲気的には時代劇にでてきたミスリルの剣に似ているが、なんの剣だ?
「魔法大砲か! ちいい!」
ラピおばちゃんは、今までとは違う明らかに強力な魔力を放出する。そして、ミスリルっぽい剣に、ラピおばちゃんの体に、すさまじい強度の強化魔法が掛かる。強化魔法の種類としては、属性を乗せたものというよりは、単純に剣や体を強化するだけのもののようだ。
そして、ジンクの砲撃の瞬間にあわせて、ラピおばちゃんは全力のダッシュ突きを砲弾目掛けて繰り出した。
「はあああああああ!」
バッキーン!
ジンクの放った砲弾と、ラピおばちゃんの突きが衝突し、すさまじい音をたてる。ラピおばちゃんのミスリル剣をへし折り、ラピおばちゃんを吹っ飛ばす。ラピおばちゃんは斜め上空に弾き飛ばされるかのように吹き飛んだ。俺達の魔法砲弾はそのまま射撃場の奥の壁目掛けて飛んでいくと思われたが、母ちゃんの作業用ゴーレムが立ちはだかる。
「ゴーレムちゃん、必殺パンチよ!」
ドッゴ~ン!
母ちゃんは右パンチをする仕草をしながら、作業用ゴーレムに右パンチをする指示を出す。母ちゃんの作業用ゴーレムが魔法砲弾に右ストレートをかますと。魔法砲弾は大爆発を起こした。びりびりと空気が振るえ、射撃場の結界内を覆いつくすかのようにその爆炎が迫り来る。俺は寝ぼけ眼でその爆炎をみていた。
「うあ、なにこれ」
「おい、アイアン、これどうすんだよ!」
意味がわからない、俺がいじった砲弾は間違いなく金属の塊のAP弾だ。爆発する要素はなかったはずだ。ただ、この爆発、なにやら魔力ががっつりのっているような・・・・・・。もしかして、火と金属の融合砲弾が壊れたからか? まずい、普通の爆発ならともかく、魔力の乗った爆発でこの規模は、どう考えてもやばい。魔力切れ寸前の俺達の防御力じゃあ防ぎきれない。すると、俺とジンクを抱きかかえる黒い影が現れた。いや、本当に黒いわけじゃないんだぜ。爆心地からの閃光のせいで、完全に逆光でそうみえたんだよ。
「父さん?」
「おっちゃん?」
ガリウムのおっちゃんは俺とジンクを抱え込み、その身を盾にして俺とジンクを爆風から守ってくれた。
ゴオオオオオォォ。
爆風が収まると、俺達は解放された。
「大丈夫か?」
「ああ、助かったぜ父さん」
「ガリウムのおっちゃんありがとう」
けほっけほっ、それにしても埃っぽいな。だが、どこからともなく風が吹いてきて砂埃を飛ばしていく。この魔力は、母ちゃんの魔法だな。
「そうだ、母さんは無事なのか?」
「ん? ラピなら平気だ。気にするな」
「そうだぜ。俺の母ちゃんもラピおばちゃんも、この程度の爆風ぜんぜん平気だろ」
母ちゃんの風魔法のおかげ砂埃がおさまってくると、奥で2人の話し声が聞こえた。
「勝負はアイアンちゃんとジンク君の勝ちね!」
「ちっ、どうやらそのようだね」
ラピおばちゃんは武器をへし折られただけじゃなく、右腕の服は破れ、右腕から血を少し流していた。
「ふふふ、それにしてもラピちゃんってば、だいぶ腕がなまってるんじゃない?」
「なんですって?」
「だって、いくら上物ではないとはいえ、ミスリルと鉄の合金の剣を、普通の大砲でへし折られただけじゃなく、右腕に怪我までしてるじゃないの」
「これはちょっと油断しただけよ」
「あら、アイアンちゃんがラピちゃんと同じ素材の砲弾を使ってたら、ラピちゃん大怪我よ~。それどころか、魔法大砲専用の大砲を使われてたら、致命傷よ~。ラピちゃんが速度重視で、しかも本来2刀流だからって、子供の攻撃を防げないのは、どうなのかしら?」
「そ、それは。っていうか、エメラのゴーレムだって、右腕吹き飛んでるじゃない!」
「私のゴーレムは畑の土で作った、ただの作業用だもん。しかも、アイアンちゃんの魔法砲弾があたったら、ここの結界がやばそうだったから、急遽割り込んだのよ。ミスリル合金の戦闘用ゴーレムだったら、無傷ね!」
「そ、そう簡単に結界は壊れないわよ」
「壊れるとはいってないでしょう、あの威力の砲弾が思いっきり当たったら、結界の魔力消費量が瞬間的に跳ね上がって、あとで請求がすごいことになるわよ~」
「むむむむむむむ」
「これはラピちゃんの腕を鍛えなおすためにも、ラピちゃんもダンジョンに行くべきじゃないかしら~」
「エメラ、あんたねえ!」
「なによ、本当のことでしょ~」
またしても睨みあう母ちゃんとラピおばちゃんに、俺とジンクとガリウムのおっちゃんは、気配を消してこっそりフェードアウトするしかなかった。
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